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当然、ラスティアの街へは素通りできた。領主の娘の権力とは絶大ということだ。クリスは馬車に乗せられたまま、ラスティア領主の屋敷敷地内まで連行された。――逃げ出す暇などあり得なかった。ただ、
「こちらですわ。あちらが本館ですが、わたくしが住んでおりますのは別館となりますの。そこでたいへん申し訳ない言い分ではありますが、今回わたくしを助けていただいたお礼は、別館にて、そしてわたくしからと言うことでお渡ししたいと思いますの。ああ、ご安心くださいませ。領主ではなくとも、わたくしの力は十分に領主相当はございますので、便宜や謝礼などは、十分なものが得られると思いますわ」
「別にそのようなものが欲しくてアネッサ様方を助けたわけではありません。お気遣いなど無用です」
「そう言っていただけると救われますわ」
アネッサの境遇にはむろん疑問を抱いたが、貴族の内情に好んで関わろうとも思えない。
また、言葉通り礼を来たしていたわけではなかったために、クリスはそれ以上踏込みはしなかった。そうして、その様子にアネッサが眩しいものを見るかのように瞳を細めていることには、気が付かなかったのである。
別館とは言え、十分なお屋敷であった。ここにアネッサは、メイドであり護衛筆頭でもあるシャーリー、クリスが共に助けた女騎士達、他にも何名かのメイド達――と共に暮らしているのだと言った。
クリスは、今日はもう日が落ちるために、そのまま別館への逗留を薦められた。それを承諾すると同時に、湯を薦められた。が、
「それではお手伝いを」
「いいえ、それには及びません。……いえ、控えていただけると助かります。ボクの躰には、あまり人には見せたくないものが……」
クリスは態と憂いを覗かせる様子でそう言った。
「失礼いたしました。それではアネッサ様、クリス様のお手伝いは控えるようにいたしますが、よろしいでしょうか」
「そうですわね、それならば仕方がありません」
女性には――そして特にシャーリーには見せたくないモノがぶら下がっているクリスはホッと胸を撫で下ろしたのである。
アネッサが密かに口角を上げていることになど、まったく気が付きもしないで。
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