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『姫騎士』だけど性別♂です!  作者: 神月大和
第一章 姫騎士クリスティーナ
2/17

本日二回目の投稿となっております。

 白百合が咲いていた、

 凛と、気高く――。



   ◇


 薄曇りの空の下、丘陵地帯の隙間をくねった道が続く。マントを纏った旅人が一人、すっぽりとフードで頭を覆い隠して歩いていた。背には頭陀袋。健脚な様子ではあったが随分と華奢にも見えた。マントの裾から覗いた白銀のブーツに腰には剣の膨らみが。

と、向こうから聞こえる喧騒に顔を上げた。


 ――嗚呼、これは――、

 途端、


「〝我は騎士にして姫、姫にして騎士〟

「〝弱きを援けて強きを挫く。凛と咲き誇れ、白百合の華〟  


 詠唱。


 ひゅぅう、と風が吹いた。マントの下からはブーツとスカートの間の絶対領域が垣間見え、〝彼女〟は脚へと風を纏わせる。


「姫騎士クリスティーナ、参る」


 ハスキーな響きが風を振り切った。――



   /


「ハァああッ!」

「BUHIiッ、BUHIッ、BUHIッ!」


 そこは血華散る鉄火場だ。

 女騎士達はハイオークの群れと対峙し、横たわった馬に見るからに高貴そうな馬車。下卑た豚面はぶひぶひと極上の獲物に鼻を鳴らし、この後使うために女騎士達を殺さないようにして追い詰めていた。


「くぅッ!」

「BUHIHIHIHIッ!」


 豚どもの嘲笑。

 手にした棍棒で女騎士の剣を弾き、今の、そして未来の愉悦に舌舐めずり。


「クソッ、どうしてこんなところにハイオークが」


 しかも群れで。

 あり得ない。

 あり得ないのだがあり得ているからには、


「クソッ、心当たりが多すぎるでしょう」

「うぅ~、こんなところで死ぬなんて嫌だよぉ~」

「お前ッ! 騎士ならばそのようなことを言うなッ!」

「うぅう~」


 彼女達の練度はマチマチで、寄せ集めの女騎士達――と言うよりは、ワケありの高貴な女騎士達にも見えた。


「ご安心ください、こいつらはハイオーク、私達が殺されることはないでしょう」


 馬車の上のメイド服を着たダークエルフが告げた。淡々と。褐色の肌に笹穂耳、人に非ざる美貌の人外。彼女は冷え切った口調で、


「オーク系は他種族の女を苗床として使用します。死んだ方がマシな状況になることは間違いないでしょうね。ほら、その証拠に股間を膨らませて、」


 ――私達はまだ死んではいません。


「忌々しい。切り落としてしまいたいですのに」

「うぁあ~、嫌ぁああ~~~ッ! まだイケメンの王子様に出逢ってないのに~っ!」

「今はそんなことを言っている場合じゃないだろう、クソッ!」


 忌々しそうにハイオークどもに向かう女騎士達。ハイオークの群れはにたりといやらしい笑みを浮かべ、女騎士達を捕まえるべくその包囲網を狭めてゆく。


 ギリっ、


 ダークエルフの歯噛みした――その時であった。



 ひゅるり、



「BUHI?」


 一陣の風が吹き抜けた。ハイオークのうちの一匹がその違和感に首を傾げた。が、傾げたままのその首は戻ることなく、――コロリ、


 シャァアアアーーーーッ!


 真っ赤で汚い間歇泉。


「BUHIIIIIIッ!」


 突然の惨劇に女騎士たちは呆気にとられ、ハイオークたちは恐慌を来たす。

 一太刀の下に断ち切られた仲間の命脈。

 その下手人は誰だ、誰だ!


「遅い」


 スパンッ!


 分厚い筋肉を誇ったハイオークの首が、まさしく落花の如く。


「BUMOッ、BUMOッ!」


 ハイオーク達は吠え声を上げた。そしてその下手人の正体を目にすれば、呆け、そして〝彼女〟の清冽さを穢したいと、下卑ていきり立つ。


 ――一輪の、凛と気高い白百合の華。


 が、彼らが彼女へと触れることはない。


 舞う、


 舞う、


 風と共に踊る。



「綺麗……」


 ここが地獄と隣り合わせの鉄火場であることも忘れ、女騎士達は鮮烈な彼女の美しさに目を奪われた。それほどまでに、華麗で、可憐で。

 まるで踊るようなステップは風に乗って、ただ、ハイオーク共にその相手は務まらぬ。


 風ともに(A dance)踊って( with wind)白百(Being )合の(like a )如く(white lily)


 Shall wedance?


 彼女のダンスに付いていけなかったハイオーク達は、一匹残らず屠り尽くされることとなっていた。



 血華咲く鉄火場に、一輪の美しい百合の華が、凛と凛々しく咲いていた。

 ここは彼女のための舞台であったかと言うように、薄曇りの空からは一条の光が。


 ポニーテールに結んだ金髪はキラキラと艶めいて、凛とした紫水晶(アメジスト)の双眸。鼻筋はスッと通って気高く、薄桃色の唇はふっくりとして愛らしい。処女雪のように白く、滑らかなその頬の(かんばせ)

 白銀のブーツとの間に絶対領域を魅せるスカートを翻し、白銀のブレスアーマーに白銀の手甲。白を基調としたドレスアーマーを彼女は装備していた。


 白銀の剣の血のりを払って納刀。

 その瞳がこちらを見た。


 それはまるで一枚の絵画のようで。



「ご無事ですか、お嬢様方」


「はひぃ……」

「ひゃいっ……」


 女騎士達はただの乙女となって赤面した。


「それならば善かったです」


 柔らかな微笑みに彼女達の尽くがハートをブチ抜かれた。

 落ち着いているのは馬車の上のダークエルフだけなものか。


 そこには、同性ですら――否、同性だからこそ見惚れる、気高き姫騎士が凛と咲いているのであった。

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