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本日二回目の投稿となっております。
白百合が咲いていた、
凛と、気高く――。
◇
薄曇りの空の下、丘陵地帯の隙間をくねった道が続く。マントを纏った旅人が一人、すっぽりとフードで頭を覆い隠して歩いていた。背には頭陀袋。健脚な様子ではあったが随分と華奢にも見えた。マントの裾から覗いた白銀のブーツに腰には剣の膨らみが。
と、向こうから聞こえる喧騒に顔を上げた。
――嗚呼、これは――、
途端、
「〝我は騎士にして姫、姫にして騎士〟
「〝弱きを援けて強きを挫く。凛と咲き誇れ、白百合の華〟
詠唱。
ひゅぅう、と風が吹いた。マントの下からはブーツとスカートの間の絶対領域が垣間見え、〝彼女〟は脚へと風を纏わせる。
「姫騎士クリスティーナ、参る」
ハスキーな響きが風を振り切った。――
/
「ハァああッ!」
「BUHIiッ、BUHIッ、BUHIッ!」
そこは血華散る鉄火場だ。
女騎士達はハイオークの群れと対峙し、横たわった馬に見るからに高貴そうな馬車。下卑た豚面はぶひぶひと極上の獲物に鼻を鳴らし、この後使うために女騎士達を殺さないようにして追い詰めていた。
「くぅッ!」
「BUHIHIHIHIッ!」
豚どもの嘲笑。
手にした棍棒で女騎士の剣を弾き、今の、そして未来の愉悦に舌舐めずり。
「クソッ、どうしてこんなところにハイオークが」
しかも群れで。
あり得ない。
あり得ないのだがあり得ているからには、
「クソッ、心当たりが多すぎるでしょう」
「うぅ~、こんなところで死ぬなんて嫌だよぉ~」
「お前ッ! 騎士ならばそのようなことを言うなッ!」
「うぅう~」
彼女達の練度はマチマチで、寄せ集めの女騎士達――と言うよりは、ワケありの高貴な女騎士達にも見えた。
「ご安心ください、こいつらはハイオーク、私達が殺されることはないでしょう」
馬車の上のメイド服を着たダークエルフが告げた。淡々と。褐色の肌に笹穂耳、人に非ざる美貌の人外。彼女は冷え切った口調で、
「オーク系は他種族の女を苗床として使用します。死んだ方がマシな状況になることは間違いないでしょうね。ほら、その証拠に股間を膨らませて、」
――私達はまだ死んではいません。
「忌々しい。切り落としてしまいたいですのに」
「うぁあ~、嫌ぁああ~~~ッ! まだイケメンの王子様に出逢ってないのに~っ!」
「今はそんなことを言っている場合じゃないだろう、クソッ!」
忌々しそうにハイオークどもに向かう女騎士達。ハイオークの群れはにたりといやらしい笑みを浮かべ、女騎士達を捕まえるべくその包囲網を狭めてゆく。
ギリっ、
ダークエルフの歯噛みした――その時であった。
ひゅるり、
「BUHI?」
一陣の風が吹き抜けた。ハイオークのうちの一匹がその違和感に首を傾げた。が、傾げたままのその首は戻ることなく、――コロリ、
シャァアアアーーーーッ!
真っ赤で汚い間歇泉。
「BUHIIIIIIッ!」
突然の惨劇に女騎士たちは呆気にとられ、ハイオークたちは恐慌を来たす。
一太刀の下に断ち切られた仲間の命脈。
その下手人は誰だ、誰だ!
「遅い」
スパンッ!
分厚い筋肉を誇ったハイオークの首が、まさしく落花の如く。
「BUMOッ、BUMOッ!」
ハイオーク達は吠え声を上げた。そしてその下手人の正体を目にすれば、呆け、そして〝彼女〟の清冽さを穢したいと、下卑ていきり立つ。
――一輪の、凛と気高い白百合の華。
が、彼らが彼女へと触れることはない。
舞う、
舞う、
風と共に踊る。
「綺麗……」
ここが地獄と隣り合わせの鉄火場であることも忘れ、女騎士達は鮮烈な彼女の美しさに目を奪われた。それほどまでに、華麗で、可憐で。
まるで踊るようなステップは風に乗って、ただ、ハイオーク共にその相手は務まらぬ。
風ともに踊って、白百合の如く。
Shall wedance?
彼女のダンスに付いていけなかったハイオーク達は、一匹残らず屠り尽くされることとなっていた。
血華咲く鉄火場に、一輪の美しい百合の華が、凛と凛々しく咲いていた。
ここは彼女のための舞台であったかと言うように、薄曇りの空からは一条の光が。
ポニーテールに結んだ金髪はキラキラと艶めいて、凛とした紫水晶の双眸。鼻筋はスッと通って気高く、薄桃色の唇はふっくりとして愛らしい。処女雪のように白く、滑らかなその頬の顔。
白銀のブーツとの間に絶対領域を魅せるスカートを翻し、白銀のブレスアーマーに白銀の手甲。白を基調としたドレスアーマーを彼女は装備していた。
白銀の剣の血のりを払って納刀。
その瞳がこちらを見た。
それはまるで一枚の絵画のようで。
「ご無事ですか、お嬢様方」
「はひぃ……」
「ひゃいっ……」
女騎士達はただの乙女となって赤面した。
「それならば善かったです」
柔らかな微笑みに彼女達の尽くがハートをブチ抜かれた。
落ち着いているのは馬車の上のダークエルフだけなものか。
そこには、同性ですら――否、同性だからこそ見惚れる、気高き姫騎士が凛と咲いているのであった。
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