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ドブネズミ  作者: 山口 にま
第七章 補陀落
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不当解雇断固抗議

一騎の取材映像が放映されないとすると、彼のスパイ・売人疑惑はいつまでも晴れない。こうなったら蛍の方からすっぱ抜きを仕掛ける他はない。その前に剣崎を黙らせる事が必要だった。蛍は剣崎に言いがかりのようなメールを打った。


剣崎二郎様


在職中は大変お世話になりました。

五月一日に予定されていた長谷川一騎氏の取材映像が未だ放映されていません。聞けば、具体的な放映日も決まっていないと言うではありませんか。

何か事情があるのでしょうか?


貴殿は長谷川氏の番組放映を盾に私を退職に追い込んでおいて、私との約束を違え、番組の放映を取りやめてしまいました。

つまり、貴殿が私にした事は、不当解雇であったと言わざるを得ません。


まず、番組放映が中止になった経緯を説明して下さい。

そして、私への不当解雇を誠意を持って償って下さい。


根津蛍



翌日、祝日にも関わらず剣崎から返事が来た。



根津蛍様


在職中はありがとうございました。


長谷川氏の番組が延期になった事は私自身大変残念に思っております。経緯を説明して欲しいと貴殿は要求していらっしゃいますが、貴殿との雇用契約は四月末日で終了しております。社内の事はもはや貴殿にお話出来ない事をご容赦下さいませ。


また貴殿の退職について、当方と見識が異なるようです。

まず貴殿の退職は移籍であり、解雇ではございません。移籍時に弊社は規定の退職金をお支払いし、貴殿も移籍に合意なさいました。円満に移籍がなされ、不当解雇に該当する所のものではないと当方は考えております。


以上ご理解賜りますようお願い申し上げます。


JNP通信代表 剣崎二郎


予想通りの返答である。実は蛍はJNP通信を辞めさせられた事をそんなに怒ってはいない。ただ剣崎の出方によってはこっちは不当解雇だと騒ぐことも出来るのだからなと脅迫しているだけだ。


蛍は一騎と交わしたビデオ通話を公表するつもりだった。気になるのは一騎の遺志だ。パキスタンへの出発前、ビデオ通話の録画は一騎の指示があるまで公表するな、もし自分が戻って来れなかったら録画は全て剣崎に渡せと言われていた。それなのに蛍が流出という形でビデオ通話での会話を公にしても良いのだろうか。蛍は胸のメダイを握り締めて考え込んでしまう。

ねぇどう思う?一騎さん。

ムスリムにまでなってパキスタンに行ったのにね。


そうだ、彼の本意は私しか知らないんだ。どんな気持ちでパキスタンに取材に行ったのか。蛍は一騎とのビデオ通話を改めて見た。これがドラッグや武器を買いに行く人間の表情だろうか?現地の部族民を欺いて彼らの機密を外国政府に売り付ける人間の言葉だろうか?

全世界に伝えたい。ドブネズミと呼ばれていた長谷川一騎は、報道に関しては潔癖であったと。


蛍はビデオ通話を公表することに決めた。


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