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ドブネズミ  作者: 山口 にま
第七章 補陀落
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アヘンはシノギ

帰宅後、蛍はすぐさまパソコンに向かう。キーボードに溜まっている埃は息で吹き飛ばした。まずは古巣のJNP通信のサイトを見た。

「故長谷川一騎のパキスタン北西辺境州レポート、○○テレビにて放映決定。五月一日午後九時放映。日本のメディアが入らない辺境州で彼が見たものとは。文字通りジャーナリスト長谷川一騎が命懸けで撮影したドキュメントフィルム、一挙公開!」

よし、予定通りに放送か。蛍は安堵する。一騎のパキスタン取材映像は十日後にテレビで放映されるのだ。

 ビデオ通話の録画も含めて蛍の手元には一騎が撮影した全ての映像のコピーが残っている。放映後も一騎に対するスパイやドラッグ売人との嫌疑が晴れないのならば、蛍からビデオ通話を公表するつもりだった。

 放映日である五月一日は蛍の移籍先への初出勤日でもあった。更にその四日後の五月五日は一騎の誕生日だった。一騎はもう歳を取らない。永遠に三十九歳のままだ。いつか私の方が年上になる日が来るのかしら。蛍は胸のメダイに手を当てながら思う。


四月の末は多香絵の第一回口頭弁論期日だ。蛍は時間通りに地方裁判所に行ってみた。案の定多香絵は来ておらず、金本もいない。金本の弁護士と裁判官が淡々とやりとりしている。傍聴席にいるのは蛍だけだ。退屈すぎて裁判官すら居眠りする裁判になりそう。閉廷時、金本の弁護士が穴のあくほど蛍の顔を眺めて行った。


五月一日、出勤前に蛍は新聞の番組表を見る。一騎の撮影映像はその日の午後九時からの放映されるはずだ。しかしそこには該当する番組の記載はなかった。蛍は急遽タブレットでJNP通信のサイトを閲覧する。長谷川一騎のパキスタン北西辺境州レポート五月一日午後九時より放映、その文言が消えていた。蛍は狐につままれたような気持になった。

その翌日も一騎の番組の放映はない。蛍はさすがにおかしいと思い、昼休みに香山に問い合わせのメールをしてみた。返事は来なかったので痺れを切らした蛍は帰宅後香山の携帯に電話をした。香山はすぐに出た。

「長谷川さんの番組、延期になったの?」

蛍が聞くと香山は不機嫌な声で、

「奥さんと調整がつかずで」

と答えた。

「はぁ、またあの奥さん?今度は何?」

「長谷川さんの映像にアヘンの取引場面があったじゃないすか」

「あったね」

「あそこにモザイクをかけろと」

蛍は怒りで声が出ない。ようやく自分を取り戻すと

「素人が編集にまで口を出すんじゃないよ!アヘン取引の場面は一番の見せ場じゃない!なんでモザイクをかける必要があるのよ」

と電話に向かって怒鳴り散らした。香山はため息まじりに、

「あの映像を元にアヘン売買が摘発されるのが心配なんですって」

「ああそうだよ。悪い奴は片っ端からしょっぴけ。長谷川さんはアヘン窟の取材中に言っていたじゃない、こう言う光景を見るとドラッグに反対せざると得ないって。ドラッグ撲滅は故人の願いでしょうに。遺族だったら故人の遺志を尊重しろ!」

「奥さんの言い分としては、ヤクザの怒りの矛先が遺族に向くのが怖いと。アヘンの流通量が減ったらヤクザのシノギも減りますからね」

「今更遅いわ。だったらさっさと離婚しておけってーの」

蛍はいつまでも怒りが収まらない。香山は事情を説明する。

「剣崎さんも映像に加工を加える訳にはいかないと突っぱねたわけですよ。そうしたら奥さんとの話がこじれちゃって一日の放映に間に合わなくなったってわけなんですよ」

「で、いつなら放映出来そうなの?」

蛍は聞いた。香山は一瞬黙った後、

「・・・・・放映の可能性は著しく低いと思います」

蛍は再び激昂する。

「それ、私に失礼じゃない?長谷川さんの映像を放映するために私を解雇しておいて、やっぱり放映出来ませんでしたーで済む話じゃないよね」

「根津さん、やられましたね」

「ちっ剣崎の奴、一泡吹かせてやる」

「お手柔らかに」

そう言って香山は電話を切った。


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