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ドブネズミ  作者: 山口 にま
第六章 君のいないJNP通信
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遺族の権利

一騎の遺品が届いた数日後、今度は剣崎から手紙が届いた。


「長谷川由紀子様

悲しみばかりのパキスタンでの旅を終え、ご主人のお見送りも無事に済んだとのこと。その後は体調などお崩しではないでしょうか。

さて、いくつかご相談したい事がございましてお手紙を差し上げております。

まず、弊社主催での一騎さんのお別れ会を予定しております。弊社だけの主催とするか、奥様との共催とするか、奥様のお考えをお聞かせ頂けないでしょうか?マスコミ関係者ばかりでなく、一騎さんのプライベートのお知り合いも来て頂けるように、奥様との共催が好ましいのではと当方は考えております。


もう一点は、一騎さんがパキスタンで撮影した写真や映像をテレビなどで公開したいとおもっております。ご遺族である奥様の許可が必要ですので、ご同意頂けないでしょうか?


これらの話は電話やメールで簡単に済ませるような内容ではないと承知しております。来週私が神戸に伺いますので、その時にお話できないでしょうか?

ご自宅でも良いですし、ご自宅だと差し障りがあるならば貸し会議室等でお話出来ればと思います。


日を改めてご連絡いたします。

用件のみにて失礼します。


JNP通信 代表 剣崎二郎」


由紀子は思わず手紙を握りつぶす。もうたくさんだ。どうせ一騎の死を利用してビジネスをするつもりだ。根津蛍も最後の別れとばかりにやってきて、自分が公私共にパートナーだったと喧伝して回るのだろう。由紀子は一騎が死んでから遺族としてパキスタンまで遺体を引き取りに行き、一騎の宗教で弔い、世間に話題まで提供して、もう妻としての役割は十二分に果たしたと思っている。彼女から剣崎に連絡するつもりはなかった。


二日後剣崎から電話がかかって来た。由紀子は自分がお別れ会に関わることを拒んだ。

「お別れ会は御社主催でやって下さい。私はマスコミの事は良く分からないので」

由紀子の意向に剣崎は反対だ。

「弊社主催となると来るのは殆どマスコミ関係者ばかりになり、例えば教会のご友人とか来て頂けなくなるかと思いまして。お葬式はムスリム式だったじゃないですか。だから奥様と共催にして是非教会の方々にも参加して頂けないかと考えているんですよ」

由紀子は素っ気なく

「教会の友人達は皆神戸なので、どの道東京でのお別れ会には行けないと思います」

と答えた。

「ではお別れ会自体を神戸でやりませんか」

「本当にもういいです。教会にはもう・・・・」

愛人がいただの離婚目前だっただの記事が出て今更教会なんかに顔を出せる状態ではないと由紀子は仄めかす。

二人の間に沈黙が一瞬流れたが、剣崎は言葉を続けた。

「それと一騎さんが撮影したパキスタンの映像なんですが、そろそろテレビ等で放送したいと思いまして。一応番組の枠は押さえられたんですよ。それで奥様の許可を・・・・・」

「そうですよねぇ」

由紀子は気の無い返事をする。剣崎はさっきから由紀子の声に棘がある事が気になっていた。

「何か気になることでもあるのでしょうか?」

「いえ」

由紀子は短く答えた。

「一騎さんの最後の仕事であるパキスタンでの映像を公開する事が彼への弔いになると我々は思っていて、それは是非実現させたいんですよ」

剣崎は熱意を込めて言った。根津蛍が映像を編集しながら一騎の事なら何でも分かると言わんばかりに振る舞うのか。由紀子はため息しか出てこない。

「奥様?」

いつまでも返事をしない由紀を訝しがって剣崎は呼びかけた。

「そうですねぇ」

由紀子の返答は暖簾に腕押しだ。剣崎は

「由紀子さんにも色んなお考えがおありでしょうから、一度会ってお話させて頂けませんか。来週ならば神戸に伺えますので」

「いえ、わざわざおいで頂かなくても」

「いやいや関西で別件の用もあるますし。私も一騎さんの御墓参りもしたいんですよ」

根津蛍も墓に来る気か?由紀子の胸は詰まる。彼女は聞いた。

「皆さんでいらっしゃるんですか?」

「いえ、私一人で」

剣崎の返事に由紀子は安堵する。

「夕方奥様のお仕事が終わった頃か、あるいはお休みの日の日中にお時間頂戴できないでしょうか?」

「木曜日の日中ならば空いています」

「込み入った話になると思いますので、会議室を押さえておきますよ」

会ってくれる事の礼を何度も言って剣崎は電話を切った。

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