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ドブネズミ  作者: 山口 にま
第六章 君のいないJNP通信
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諜報員長谷川一騎

帰宅後しなのは自室で友達と長電話だ。由紀子は先ほどしなのが言った「お母さんがお父さんが死ぬのを待っていた」「みんな言っている」「ネットではそんな話ばかりや」が気になり、ネットで一騎の死を検索してみた。

一騎の死を悼み、その功績を讃える記事が多かったが、一方で「取材方法が荒っぽい」「インタビューを拒否したらヤクザみたいに恫喝して来た」「検証せずに記事を書く」との批判も散見された。

特に気になったのは社会派と目される週刊誌の『今あえて問う 長谷川一騎氏よ、あなたは本当に正しかったのか?』という有料記事と、同じく有料記事でゴシップ誌の『美談だけではない 火宅の人長谷川一騎氏』だった。由紀子はわざわざ二本の記事を金を出して購入した。


まず、社会派の記事から読んでみた。

「長谷川一騎氏は学生時代からジャーナリストとして活動しており、最近では原発事故の取材で特に有名であった。彼に憧れを抱く若手ジャーナリストは多かったが、取材方法が強引で、その記事は非常に扇情的であった事は事実である。時に被災地の風評被害を煽る事も多々あり、彼等取材班に牛の糞を投げつける被災者もいた。


長谷川氏の腹心の部下は女性ジャーナリストのNである。彼女が長谷川氏と長年に渡り不倫関係にあったのは公然の秘密であった。Nも長谷川氏と同じく強引な取材で知られ、彼女を良く言う報道関係者は少ない。ホステスのふりをして取材対象に近づき、色仕掛けで相手に口を割らせるなどジャーナリストとして首を傾げざる得ない手法を取っていたと言う。


長谷川氏はパキスタン北西辺境州部族地域内で襲撃された。襲撃された理由について、氏が所属していたJNP通信は次のように伝えている。

『無許可で部族地域に入った外国人がいて、その外国人が地域内の軍事施設を撮影、その画像を流出させると言う事件が起こった。事態を重く見た地域の部族は部族会議を開き、地域内にいる外国人ジャーナリストを一斉に粛清することを決定。すぐに粛清は実行に移され、長谷川氏の宿泊するゲストハウスに部族兵が押し入り、氏を銃殺した。長谷川氏はパキスタン国内で部族地域入域許可を取り、アヘンの密輸ルートを取材していた』


ここでいくつかの疑問が残る。


まず、長谷川氏は本当に入域許可とったのであろうか?JNP通信は許可を取ったと主張しているがその信憑性は弱い。


部族地域に無許可で入域した外国人が行方不明になったり殺害されたケースは過去に何度もある。それだけパキスタン北西辺境州の治安は悪い。治安が悪いと言うレベルを超えている。殺人、ドラッグや武器の密輸、およびそれらの販売など、ありとあらゆる違法行為が繰り広げられている。パキスタンの法律が通じるのは国道及びその三十メートル以内の範囲だけだ。取材の成果を急ぐあまり、氏が許可を取る手間を省いた可能性は高い。

 北西辺境州とはアフガニスタンと国境を接し、政治的軍事的に非常にデリケートな場所である。逆に言えば取材対象に事欠かない場所だ。実は「軍事施設を撮影した外国人」とは長谷川氏自身ではなかったのか。スクープ連発をアイデンティティとしていた長谷川氏は日本国内の取材においてもルール違反をする事が多かった。原発爆発の瞬間を撮影するために高線量地域に入り込んだり等枚挙にいとまがない。


そもそも部族地域に入ったのは取材が目的だったのか?


前述の通り部族地域ではパキスタン国内法が通じない。それをいい事にドラッグや武器の密輸が横行している。氏の目的はそれら密輸品の取材ではなく、それら禁制品の購入ではなかったのだろうか?または彼自身が諜報員として外国政府に部族地域内の機密情報を提供していた事は十分に考えられる。

長谷川氏には十回以上のパキスタン渡航歴がある。しかし彼がパキスタンについて記事を書いた事は一度もない。今回の渡航もジャーナリストとして入国したのか甚だ疑問である。」

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