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ドブネズミ  作者: 山口 にま
第五章 根津さん、聞こえますか?
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速報 日本人の遺体発見

結局一睡もせずに蛍は始発で会社に向かう。

会社のドアを開けると事務所の電気は点いたままで、香山は血走った目でパソコンに向かっていた。

「香山君おはよう。交代するからもう帰って」

蛍がそう声をかけると、香山は顔をくしゃくしゃにして泣き出してしまった。

「根津」

剣崎が蛍に近づいて来た。

「昨夜パキスタンの日本大使館から電話があってな、長谷川の物と思われる遺体が・・・」

剣崎もこれ以上言葉を続けることはできない。蛍は一度涙を拭って、自分の気持ちを落ち着かせるために窓の外を見た。朝日がまぶしく蛍と、そして一騎の机を照らしている。こんな煌めきの中で一騎の魂は肉体を離れて彼方へと飛んで行く。その想像は蛍を慰めた。やっぱり昨日の明け方のあれは夢なんかじゃなかったんだ。一騎さんがさようならを言いに来たんだ。

蛍の携帯電話にメールが入る。武藤照子からだ。

「根津様 先ほどペシャワールの警察から連絡がありました。二十日の深夜から二十一日の未明にかけてジャーナリストへの粛清があったのは事実のようです。三人のジャーナリストが犠牲になり、大変残念なことに長谷川さんもその一人に入ってしまいました。衷心よりお悔やみ申し上げます。武藤」


力なく携帯電話を手に持つ蛍に剣崎は言った。

「俺は明日の便でパキスタンに行く。長谷川の遺体を引き取りに行くんだ」

「私も行きます」

蛍はそう訴えた。

「お前は行かなくて良い。こう言う事は遺族の役目だ」

「でも長谷川さんには家族はいません」

「奥さんと娘さんがいるだろう」

「だって長谷川さんは離婚したし」

剣崎は変な顔をする。

「おい、長谷川がお前にどう言う言い方をしたか知らないが、長谷川には奥さんがいるぞ。現に俺はさっき奥さんと話した。それに会社にも離婚したなんて報告は来ていない」

蛍は目を見開く。一騎が嘘を言っていたと言うことか。

「午後には奥さんは神戸から会社に来る。遺体の運搬先とか葬儀の段取りとか色々話し合わなきゃいけないからな。今夜は東京で一泊してもらって、明日の昼の便で奥さんと一緒にパキスタンに向かう手筈だ」

もう剣崎の声は蛍には届かない。蛍の髪を撫でたあの優しさも、一騎の家に一生いても良いと言った言葉も全部が全部嘘だったのか。青ざめた顔で黙り込んだ蛍に剣崎は同情の篭った眼差しを向ける。

「さてと、戦いはこれからだ。俺は近くのカプセルホテルで仮眠を取って来る。昼頃帰って来るからな。お前は日本人ジャーナリストと思しき遺体が発見されたと速報を出しておけ。長谷川の名前は書かなくていい」

そう言って会社を出て行った。


「速報 パキスタンの日本大使館によれば、パキスタン北西辺境州、アフガニスタン国境付近で日本人ジャーナリストと思われる遺体が発見された。現在現地警察及び日本政府は身元の確認を急いでいる。なお現地時間の三月二十一日午前零時ごろ、外国人ジャーナリストを狙った襲撃事件が発生したとの情報がある」


蛍はネットに速報を流した。なんて見え透いたニュース。死んだのは長谷川一騎その人なのに。






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