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ドブネズミ  作者: 山口 にま
第四章 スクープを求めてパキスタン辺境州
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報道は報復装置か 根津蛍氏の反則

三峰多香絵に関する記事は大きな反響を呼び、蛍の元には問い合わせが殺到した。

蛍に直接連絡を寄越す報道関係者は概ね多香絵に同情的だった。

「被害者がネットで加害者を告発してしまったのはそう言う背景があったのですね」

「加害者と再会した彼女の心中を思うと同情を禁じ得ない」

「結局加害者の前科は将来に影響を及ぼさなかったわけですよね。被害者だけが二十年間苦しみ続けて、流石にかわいそうですよ」

「加害者の事を考えると頭がおかしくなりそうだったって、そりゃそうでしょう」

「女の子の猥褻画像を撮った人間が、女性をターゲットにしたフィットネスクラブ経営陣だった。そんなフィットネスクラブで女性客は着替えたりシャワーを浴びたりするわけだ。誰だって警戒する」

「妙子さんへのインタビューを自分もしたい。被害者の癒しはどうあるべきか」


しかし、ネットの匿名意見は違っていた。

「二十年前の事を蒸し返して」

「レイプされたわけじゃあるまいし」

「この女性、おかしい。男を求めて合コンして自分で酔いつぶれたんでしょう?猥褻画像を撮るのはいけないけれど、女性に落ち度があったと思うのは俺だけ?」

「自分は嫁に行きそびれたしがないOLで、加害者は次期社長。半分八つ当たりも入っているって。と言うか、金目当てでしょ?それしかない」

 蛍への批判も散見された。

「この記事を書いた根津蛍って、上条昇が中国人のスパイを愛人にしているって告発した人でしょ。下半身問題に強いよね笑」

「男はいつも加害者で女は被害者。この記者はヒステリックなオールドミスに違いない」

「あ、思い出した。原発が爆発するのを待ち構えて写真撮った人たちの一味だ」

「人の不幸は蜜の味、人の醜聞は飯の種」

一騎の言った通りの結果になった。しかしそれは蛍にとってもある程度は想定内だった。


 翌日、更生支援団体の名義でネットに記事が出た。題は『報道は報復装置か 根津蛍氏の反則』

  衝撃的なタイトルだ。蛍は驚愕した。私は名指しで攻撃されている、と。読みたくもないが次に飛んでくる弾に備えるためにも、蛍は肝試しの気持ちで記事に目を通した。

「大学三年生と言えば、二十才か二十一才。つい最近まで未成年として実名報道されない立場だった。

彼らの犯した猥褻事件は決して許されないことではある。しかし、二十年前まだ精神的に未熟だった時に犯した罪が、家庭を築き仕事のキャリアを積んだ今になってネットで拡散される。こんなことがまかり通って良いのだろうか。一度でも犯罪を起こしたら服役をして罪を償っても一生犯罪者のままである。彼等が二十年がかりで積み上げた反省と贖罪を一瞬で否定し、こいつは犯罪者だと喧伝し、彼等の社会生活を困難にさせしむ。いわばこれは社会的な私刑である。

猥褻事件の被害者が深く傷つき、二十年後に告発に至った経緯は理解できる。理解はできるが彼女がやった事は相手の社会生活を破壊した不法行為であり、名誉毀損というれっきとした犯罪である。

ジャーナリスト・根津蛍氏は当該女性のしたことが不法行為であると言う事実から目を背け、女性がネット上でなした私刑を正当化し、更に加害男性の情報を事細かに拡散した。

最早報道は報復装置と化していると言っても過言ではない。メディアは常に中立であるべきである。真実を伝えるのにジャーナリストの感情はいらない。

今回の根津氏の記事は人の成長する力や更生の可能性を真っ向から否定した。これは犯罪者の更生を支える司法制度、刑務官、各種更生機関への重大な攻撃である。

根津氏は今一度報道機関の役割と責任について熟考し、白い物を黒と言うように、不法行為を正当な被害者救済だと主張する事は厳に慎んで頂きたいものである」


最後は説教か。ねえ長谷川さんどう思う?蛍は主のいない長谷川一騎の席を見やる。一騎ならばこの状況を受け止めるだろうか。

一騎からは特に何の連絡もなかった。今頃は部族地域に入る許可証を得るためにパキスタン政府を相手に駆けずり回っている事だろう。蛍の事など考えるいとまはない。


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