償いと赦し2
記者は妙子さんの証言の裏付けを得るために、関東地方の某県に向かった。重要な証拠を入手した俊一さんに会うためだ。
妙子さんと俊一さんは事件後長いこと疎遠であったが、俊一さんに妙子さんの名前を伝えるとすぐに彼女を思い出し、事件の詳細を話してくれた。
俊一さん(以下俊一)
『妙子さんがAやBから被害に遭ったかも知れないと相談してきた時、ピンと来ました。Aらが教室で携帯で撮った動画をコソコソ回し見していたので、きっと彼女や里美さんの画像を撮ったに違いないと思いました。Aには前から悪い噂がありましたし』
記者『悪い噂?』
俊一『盗撮しているとか女の子を酔わせて猥褻行為をしているとか』
記者『どのように画像を入手したのでしょうか』
俊一『僕自体がいやらしい気持ちで画像が見たい風に装いました。Bにタバコを奢ったら渋々ですが画像を転送して貰えました』
記者『実際に画像はご覧になりましたか』
俊一『いや見ていません。まず冒頭にBの声が入っていて、目を閉じている里美さんが写っていたので、これが事件の画像だと思いました。妙子さんが要求して来たので画像を彼女に渡しましたが、ショックで妙子さんが自殺するのではないかと気が気ではありませんでした』
記者『妙子さんはAやBが薬物を盛ったのはないかと主張してらっしゃいますが、俊一さんはどう思われますか?』
俊一『僕には分かりません。ただ女性二人が同時に気絶するのは尋常ではないと思います』
記者『A氏が妙子さんを名誉毀損で刑事告発をしましたが』
俊一『えー!そんな、被害者は彼女なのに・・・』
俊一さんは絶句した。
(口元が写る洋平の写真を掲載)
記者はもう一人の被害者である里美さんと数度接触を持ったが、インタビューには応じて頂けなかった。某県で静かに暮らしているとだけお伝えしよう。
妙子さんを名誉毀損で刑事告発したA氏は、フィットネスクラブの取締役を退任し、今は全く違う会社に勤務している。A氏と接触を持ち、「加害女性に対して何か言いたいことはありますか?」「検挙歴や大学中退の情報がありますが本当でしょうか?」「Aさんが反論しないとこのまま加害女性の言い分だけが記事になってしまいますが大丈夫ですか?」等質問したが、質問には答えて貰えなかった。
(蛍を恫喝する金本の写真。目線が入っている)
妙子さんから猥褻事件の共犯と名指しされたB氏の行方は不明である。事件当時のB氏の住所を訪ねたところ、B氏の親族に当たる女性が調剤薬局を経営していた。彼女によると、以前は彼女の父親(B氏の叔父)が市内の別の場所で薬局を開業していたと言う。B氏の叔父に取材し、事件当時の薬の紛失について尋ねたら、Bと言う親族がいるかどうかも含めてコメントしない、との返答を得た。
名誉毀損罪は刑法で『公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する』と定められている。誹謗中傷の内容が事実であるかは問われない。つまり誹謗中傷の内容が嘘であっても事実であっても名誉毀損が成立する。
ある人物に前科があると言いふらすことも名誉毀損に該当する、という判例があるので、仮にA氏の検挙歴が事実であったとしても、それをネットで告発した妙子さんの行為は名誉毀損であると言える。
一方で同じく刑法では、『公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、真実であることの証明があったときは、これを罰しない』と定められている。
つまり、今回妙子さんの告発がフィットネスクラブに通う女性達への注意喚起の為になされていて、全体の利益のためであった認められ、かつ妙子さんの告発が真実であれば名誉毀損には該当しないことになる。
二月の末、妙子さんの名誉毀損事件は地方検察庁へ書類送検された。妙子さんの告発が『公益を図ることが目的』と検察庁が判断するか否か、続報が待たれる。
また、償いと赦しの意味もこの事案は私達に問いかける。執行猶予付きの有罪判決を受けたのならば、それが償いになるのだろうか。被害者は赦しを与えなくてはならないのだろうか。逆に加害者は一生罪を背負って、日陰を歩かねばならないのだろうか。加害者の更生は、そして被害者の立ち直りは。
妙子さんは今、検察庁の判断を待っている。 JNP通信 根津 蛍」