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ドブネズミ  作者: 山口 にま
第三章 困った時のマスコミ頼み
33/94

本丸御登場

 さてそろそろ主役にご登場を願おう。

蛍は金本謙也の周辺を洗う。

謙也は学生時代から今日に至るまで住所は杉並区。今でも親と同居とは思えないが、 どうせ親が所有する隣接する家屋で住んでいるのだろうと蛍は考えた。

蛍が実家近くで張り込みをして数日後、夕刻実家を訪れるスーツ姿の謙也を認めた。ソーシャルネットワークで見た通りの顔だ。細く吊り上がった目、突き出た頬骨。瘦せぎすで貧相な男だ。

まもなく謙也は実家から出て来て徒歩で歩き出す。蛍も謙也の後に続く。数ブロック離れた高級マンションに謙也は入って行く。エントランスは当然オートロックで鍵を持った住民以外入れない。謙也が自分の鍵でオートロックを解除して自動ドアを開けると、蛍は住民の振りをして「今晩は」と挨拶しつつ謙也と同時に扉に滑り込んだ。そのまま澄ました顔で一緒にエレベーターに乗った。謙也が最上階の十階のボタンを押すのを確認してから蛍は九階のボタンを押した。彼女は軽く会釈をしてエレベーターを降りる。そのままエレベーターの隣の階段を駆け上がり、十階へ。 蛍が十階に着くと同時に一番奥の部屋のドアが閉まった。最上階の角部屋住まい、前科があるのにずいぶん羽振りがいい。


さっそく蛍は翌朝から張り込みを開始した。マンション前で待っていると マンションから出て来たのはスーツ姿の金本謙也と、十歳ぐらいの女の子だった。女の子は制服姿でランドセルを背負っている。私立小学校に通っているのだろう。蛍はカメラのズーム機能を最大限に使ってその制服姿を撮影した。後で学校名を割り出すつもりだ。二人は駅に着くと、先に娘が下り方面の電車に乗った。謙也は娘を見送るが、娘の方は一度も振り返らなかった。謙也は反対方向の上り列車に乗り込む。蛍も金本謙也と同じ電車に乗った。かなり混んでいる。蛍はカメラの入ったバッグを胸に抱えて、小さくなって自分の身を満員電車の中にねじ混んだ。謙也はターミナル駅で降りる。蛍もそれに続く。金本は高層のオフィスビルに入って行く。エレベーターに乗った金本は五階で降り、不動産会社の看板が出るドアの前で立ち止まった。慣れた手つきで社員証をドアの前にかざしロックを解除し、中に入った。

ボディレメディの取締役を退いた後は、不動産屋に就職か。どうせここも父親の息がかかった会社だろう。蛍は会社の看板をスマートフォンで撮影した。

別件の取材をこなした後、蛍は再び不動産会社に戻る。ネットで会社の電話番号はすでに調べた。代表番号に電話をかけ、

「以前金本謙也様と取引があった者ですが、今は金本様はどちらの部署にいらっしゃるでしょうか?」

と丁寧に聞いた。電話口に出た女性は蛍の意図など全く気づかず、

「金本は賃貸事業二部におります。お電話をお繋ぎしましょうか?」

と聞いて来た。いえ結構です、そう蛍は短く答えて電話を切った。


翌日蛍が会社のデスクで記事を作成していると、上司の長谷川一騎が

「あの件はどうなったよ?」

と聞いて来た。

「二十年前に女子大生に一服盛って猥褻画像を撮ったって事件のことですか?」

蛍が尋ねると、

「そうだ。この前被害者の女性が社に来ていただろう」

「来週早々記事にするつもりです。関係者にもインタビュー出来たし、あとは本丸だけ」

「金本謙也か?」

長谷川の問いに蛍は頷き、

「彼の自宅も転職先も押さえました。帰宅前に捕まえて彼の弁明を聞くつもりです」

「いつ直撃するつもりだ」

「明日か明後日あたり」

「ふうん」

長谷川はちょっと考えた後に、

「俺も行ってやろうか?」

「いいですよ。長谷川さんお忙しいでしょう?用心棒に香山君を連れていくつもりです」

「いや俺は大丈夫。パキスタン行きの準備は済んだ。俺も本丸のご尊顔を拝んでおきたい。明日の夜だったら付き合ってやる。どうだ?」

蛍は躊躇いがちに、

「じゃあお言葉に甘えて」

と長谷川の提案を受け入れる。


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