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ドブネズミ  作者: 山口 にま
第三章 困った時のマスコミ頼み
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花梨の告発

 中学生になる子どもたちは自室で長電話やインターネットに夢中だ。花梨はダイニングで家計簿をつけている。財布には根津蛍から押しつけられた名刺が二枚あった。蛍が出現してからと言うもの、花梨は過呼吸の発作に襲われるようになった。金本謙也と木村佑を思い出すからだ。あいつらを許せないと思った。死んでくれと思った。しかし当時の自分に何ができたと言うだろう。男子学生と酒を飲んで、あろうことか酩酊してしまい、服を脱がされ、恥ずかしい動画まで撮られて。全て自分が蒔いた種ではないか。

これは自分の失敗だ。自分が騒げば騒ぐほど自分の愚行が世間に知られるだけだ。たった一度の被害だ。黙っていよう。何もなかった体で大学を卒業して、普通に就職して、普通に結婚する。これが花梨が選んだ将来だ。人生は体内を巡る血管のように枝分かれしている。普通に生きる道は細い一方通行だ。一度でも脇に逸れたらもう二度と本道には戻れない。金本達からされた事は忘れるつもりだったのに、何で三峰多香絵は思い出せと私に言うのか。事件があった飲み会は多香絵が誘ったものだった。あの女は疫病神だ。あんな女と親しくなったお陰で私は色んな物を失ってしまった。それでも金本と木村が退学になったと多香絵から聞かされ、胸がすぅと軽くなった。すごくすごく嬉しかった。根津蛍も言った。金本は親の経営する会社から追われ、次期社長の座を奪われ、その会社も倒産しそうだと。天罰だ。ざまあみろ。金本達に一撃を加えたのは多香絵に他ならない。多香絵も被害者で、十二分に傷つき、時には彼女自身の落ち度を責められたかも知れないのに。

 多香絵、ごめん。花梨は自分の勇気のなさを責めた。

花梨は自分こそは被害者だと言う気持ちだけを持ってしまい、一人で戦っている多香絵の苦しみを考えもしなかった。根津蛍は言っていた。多香絵には花梨が必要なんだと。

花梨は気持ちを奮い立たせ、タブレットで金本謙也の名前を検索してみた。蛍の言う通り多香絵が書いたと思われる告発文が出て来た。


「フィトネスクラブ、ボディレメディの次期社長、金本謙也は性犯罪者である」


金本謙也と木村佑は性犯罪者、そう花梨も大声で叫びたかった。あいつら一生自分の過去に怯えてビクビクしながら暮らせばいい。

花梨は蛍の名刺を取り出した。ここに印刷されているメールアドレスに自分がされた事をぶちまけたら蛍が活字にして世界中に拡散するだろう。

悪い奴は罰を受けろ。仕事も家族も全部取り上げてやる。

花梨はメールボックスを立ち上げた。宛先は根津蛍だ。花梨の心臓は早鐘のように鼓動を打った。自分が二十年間守って来た秘密。でももう自分の胸にしまってはおけない。


「根津様 何度もこちらに来て頂き、ありがとうございます。

彼等の事を思い出すのは大変辛く、被害の事は考えないようにしていました。

根津様や世間が疑問に思うであろうことだけ、短く書かせて頂きます。

事件の日は、多数のサークル仲間が会合に来ると思って、新宿に出かけました。三峰さんも同じだと思います。ですので待ち合わせ場所に金本と木村しかいなかった時に、私達を騙して呼び出したんだと思いました。

でも、サークルの仲間でもあるし、仲違いをして今後のサークル活動に差し障りがあるといけないと思い、彼等に着いて行ってしまいました。

彼等が私達を連れて行ったのは、金本の知り合いが働いている普通の居酒屋でした。

私はお酒に弱く、いつも酎ハイを一杯ぐらいしか飲みません。その日も酎ハイを頼みました。数口飲んだら頭がグラグラして来て眠ってしまいました。

三峰さんが言うように、睡眠薬のような薬が入っていたように思います。

後に三峰さんに『何にも覚えていない』と言いましたが、被害に遭った自覚はありました。

終電近くに、彼等に抱きかかえられるようにして駅までたどり着いた記憶はあります。

電車の中に押し込まれ、電車の床にしゃがみ込んでで眠ってしまったように思います。

その後は大学を辞めて、故郷に帰っております。親には被害の事は話しておりませんが、親、特に母親薄々気づいているように思います。

以上、何かのお役に立てれば幸甚です。佐原 花梨


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