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ドブネズミ  作者: 山口 にま
第三章 困った時のマスコミ頼み
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高崎詣で

三峰多香絵 ご連絡が遅れて申し訳ございません。

佐原花梨さんと駒木洋介さんに接触することが出来ました。

佐原さんは今故郷の群馬県に戻り、家庭を築いて、子育ての傍パートをしながら暮らしていらっしゃいました。お声をかけて取材を申し込んだのですが、お言葉を頂くことが出来ませんでした。また時間を置いて再度取材をお願いしてみます。

三峰さん達が金本さん達と同席する事になった経緯や、薬物混入の疑惑など、佐原さんからしかお聞きできないことがありますし。

駒木さんは、当時の事をよく覚えておいでで、事件の詳細を証言して頂けました。

駒木さんは三峰さんの心の傷が癒えていないのではないか、今後も金本さんと対峙することで傷つく事もあるのではないかと心配してらっしゃいました。

駒木さんに伺ったところ、三峰さんにご自身の連絡先を教えても良いとおっしゃったので、電話番号をお知らせします。080-3390-XXXXです。

もう少し当時の関係者の方に取材を重ねてから記事にしようと思っています。

その後警察や金本さんサイドから何か連絡がありましたか?今後もよろしくお願いします。

日本ニュース配信社 JNP通信 根津 蛍

蛍がそうメールを打つと、多香絵からの返事はすぐに来た。


根津様 お忙しい中、二人に会って下さりありがとうございます。

多分駒木君には連絡しないと思います。これ以上迷惑をかけるわけには行きません。

金本からは何も接触はありません。

警察から電話があり、ついに書類送検される事になってしまいました。起訴は何とか免れたいとは思います。でも金本に示談のお願いは絶対にしたくないし、金本も受け入れないでしょう。弁護士と色々相談しています。三峰多香絵


書類送検。蛍は多香絵からの返事を読んで暗い気持ちになった。日本では起訴された刑事事件は九割方有罪判決がつく。起訴された時点でゲームオーバーだ。起訴される前に事件を記事にして世論に問いたい、犯罪加害者の名誉はどこまで守られるべきか、被害者の怒りの権利さえ時効消滅してしまうのか、と。多香絵の怒りは正当だという世論が巻き起これば検察の判断に影響が出る可能性があり不起訴と言う判断も起こり得る。もう猶予はない。一刻も早く記事にして世に出さなくては。蛍は迷いを捨てた。


週明け、蛍は再び高崎を訪れた。花梨のバイト先のコンビニ前でトレンチコートに身を包み、空っ風が吹き荒ぶ中、花梨が出てくるのを待った。午後三時、花梨は通用門から出て来た。花梨の姿を認めると、蛍は深々と首を垂れた。花梨は最敬礼で自分を出迎える女を無下には出来ず、その場で立ち止まったままだった。頭を上げた蛍は足早に花梨に歩み寄り、

「度々申し訳ございません。どうしても佐原さんとお話がしたくって。お時間を少々頂けないでしょうか」

「あの、私、すぐに帰らなくっちゃいけなくって」

花梨はそう言って自分の自転車に近づいた。蛍はその言葉を無視して、

「駒木洋平さんと会いました」

花梨はその名前を聞くと、秘密の露見を恐れるように顔を強張らせた。

「佐原さんにも三峰さんにも落ち度はありません。だからこそ金本さん達が逮捕されて有罪判決が出たのです」

花梨は硬い表情で蛍の言葉に頷いた。

「当時の事、佐原さんから証言して頂けないでしょうか?勿論匿名で構いませんし、佐原さんのプライバシーは最大限に保護いたします。なぜ佐原さん達が金本達と同席する羽目になったのか、そのお店はどんな様子だったのか。何でも佐原さんはテーブルで眠り込んでしまったそうですが、それはお酒のせいですか?それとも何かの薬物のせいですか?佐原さんはどう思われましたか?」

花梨は固く唇を結んでいる。それは記憶を手繰り寄せているようにも見えたし、目の前のジャーナリストの質問に誠実に答えようとしているようにも見えた。


花梨は酒が弱かった。被害に遭った日も弱めのカクテルを注文した。いつも飲んでいるライムフィズを数口飲んだだけで、頭ががくんと下がってしまった。気がつくと自分は屋外の非常階段にいて、木村に下半身から露わにされた。木村の激しい息遣いを聞くと同時に、多香絵の叫び声を聞いた。しかし多香絵も意識を失い、非常階段の冷たい床に横たわって、金本に服を脱がされ・・・・。


そこまで思い出すと花梨は強く目を閉じた。息を吸っても吸っても酸素が胸に入って行かないような気になり、何度も呼吸を繰り返した。

「大丈夫ですか?お顔が真っ青ですよ」

心配そうに蛍は花梨の顔を覗き込む。

「車で来ていますので、ご自宅までお送りします」

そう言って蛍は花梨の体を支えた。花梨は手で蛍を制し、

「大丈夫です。一人で帰れます」

自転車の鍵を外して自転車に跨る。蛍は自分の名刺を花梨のコートのポケットに入れ、

「ご連絡をお待ちしています。いつでも高崎に参ります。三峰さんは花梨さんが必要なんです」

と声をかけた。花梨は以前と同じように振り返らず蛍から離れて行った。


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