表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドブネズミ  作者: 山口 にま
第三章 困った時のマスコミ頼み
29/94

洋平の証言

「当時のことをお聞かせ頂けますか?」

蛍の問いかけに洋平は記憶を辿りつつ、 多香絵から被害の相談をうけた事、木村から猥褻画像を入手した事を話した。

「三峰さんに転送する時、彼女がショックで自殺しかねないと思って、物凄く悩みました。でも彼女が平気だ、って言うから・・・・。今でも自分がやった事が正しかったのか分からない。結局いつまでも彼女を苦しめる事になって」

そう言って洋平は猫背になって黙った。俯いた洋平に向かって蛍は言う。

「三峰さんはお礼も言わずにあなたを疎遠にしてしまった事をとても悔やんでいましたよ」

「そんな、僕、全然気にしていないのに・・・・・」

洋平は俯いたまま首を振る。

「あなたと今後どんな顔をして会って良いのか分からない。犯罪被害に遭った自分がとても恥ずかしかった。そう三峰さんは言っていました」

蛍の伝言に、洋平は目を閉じて何度も頷いた。

「実はもう一人の被害者の方と接触を試みて、その辺りの事をお聞きしたんですけれど、やはりそう簡単に心を開いて頂けず・・・・」

「もう一人の女の子って、花梨ちゃんと呼ばれていた子でしたっけ?」

洋平は覚えていた。

「花梨ちゃんってどう言う女の子でしたか?」

「おとなしくって可愛い女の子でしたよ。真面目で。途中で大学に来なくなってしまったと聞きましたが」

そう洋平は答えた後、居住まいを正し、

「あの、三峰さんは今どうしているんですか?元気なんですか?」

「金本さんのことがあって落ち込んでいたけれど、今は落ち着いています。一人でしっかりと生きていますよ。お化粧もして身綺麗にされています。ただ、こう言っちゃ失礼なんですけれど、何だか男っぽいと言うか、骨太と言うか。過去にああ言う被害に遭ったから、極力女らしさを出さない様に自警しているのかも知れませんね」

そのような蛍の憶測を洋平は「三峰さんは昔から男っぽい人でしたよ」と一蹴。

「そうだ、三峰さんのお写真がありますがご覧になりますか?」

蛍が聞くと、洋平は恥ずかしそうに笑って、えーいいですよーと盛んに顔の前で手を振りかざす。それでも蛍がスマートフォンを取り出すと身の乗り出し覗き込んだ。

「記事には三峰さんの後ろ姿とか口から下の写真を掲載するつもりです。お顔が映らないように撮影したのですが、お顔が偶然写り込んでしまったものがありまして。横顔ですが」

そう言って蛍が画像を洋平に見せると、「わー、多香絵ちゃんだ」と相好を崩し声を上げた。

「全然変わっていません。これこそ三峰さんです」

しかし懐かしい女性の写真を見た喜びもそこそこに

「あの事件さえなければ多香絵ちゃんも花梨ちゃんも違う人生があったかも知れませんね」

と暗い顔で言うのだった。蛍は言った。

「花梨さんの方は幸せに見えましたよ。結婚して子どももいて。でもどうでしょうね、その幸せは彼女が過去に蓋をして築いたものに感じられます。だからこそ過去を蒸し返す私の取材は受けてくださらないのですが」

蛍の言葉を受けて洋平は

「僕には三峰さんも十分心配です。誰だってそんなに強くない。金本をやっつける為とはいえ、一私人の彼女が記事になって、彼女のプライバシーが一人歩きして。結果的に三峰さんが傷つく事にならなければ良いのだけど」

と暗に蛍が記事を出す事に異を唱えた。それでも多香絵は蛍に頼る他はない。洋平は

「三峰さんの事、くれぐれもお願いしますね」

テーブルの向こうで深く頭を下げる。

「いえ、こちらこそ取材に応じて下さりありがとうございました。三峰さんが有罪にならない様できる限りのことはさせて頂くつもりです。もしお差し支えなければ、三峰さんに駒木さんのご連絡先を教えても良いでしょうか?私も今後の事を駒木さんにご報告したいので、電話番号など教えて頂けたら」

蛍の問いかけに、洋平はしばし考えた後、「良いですよ」と短く答え、その場で名刺に記載されている蛍の携帯電話の番号に、自分の携帯から電話をかけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ