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ドブネズミ  作者: 山口 にま
第三章 困った時のマスコミ頼み
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多香絵の力になれる事

もう一人の取材対象、駒木洋平の現状はソーシャルネットワークに書かれている通りだ。念のため洋平の勤務先にカード会社を装って電話をしてみると、確かに勤務しているらしい。蛍が向かったのは埼玉県の半導体会社の工場だ。そこで洋平は新卒から働き続けている。蛍は会社の職員通用口でそれらしい人物を待った。今日の蛍はトレンチコートを着て、つばのついた帽子を被り、メガネをかけた。


終業時間から小一時間経った頃、小柄な男が小走りに通用口から飛び出て来た。その童顔、まさしく駒木洋平だ。蛍も早足で彼の後をつける。男は駅までのシャトルバスに乗った。蛍も洋平に続いて乗る。蛍はバスの中で男を観察した。男は太めのジーンズにフリースという極めてラフな出で立ちだ。

 バスはすぐに駅に着いた。バスを降りると男は駅の改札を潜らず線路沿いを歩いていく。蛍は男を尾行する。尾行しながら蛍はトレンチコートを脱いで、手持ちのトートバッグにコートを押し込んだ。コートの中に厚手のカーディガンを着ているので寒くはない。帽子も脱いで変装を解いた。男はマンションに入り、自分のものと思しきポストを開けて、中から郵便物を取り出した。郵便物の束を片手で持ったままエレベーターのボタンを押す。エレベーターが一階に着く前に蛍は洋平に話しかけた。

「恐れ入りますが」

そう声をかける蛍に洋平は驚いた様子だったが、同じマンションの住民と思ったのか、「今晩は」と挨拶を返して来た。洋平は蛍の次の言葉を待っている様子だった。蛍は自分の会社名と名前を名乗った上で

「駒木洋平さんですね」

と尋ねた。洋平は一瞬警戒の色を見せて、自分の郵便物を両手で隠した。

「三峰多香絵さんの事でお聞きしたい事があります」

「えっ」

洋平は聞き返した。

「三峰さんをご存知ですよね?」

蛍がそう問いかけると、洋平は全てを悟ったかのようにはっきりと首を縦に振った。

「ここじゃ何ですので」

洋平はマンションの外に蛍を導いた。二人が外に出ると、洋平は改めて

「三峰さんがどうしたんですか?」

と心配そうに聞いて来た。

「三峰さんが困った事になっていまして」

蛍は言葉を選びながら言う。洋平は聞いた。

「あなたは三峰さんとどう言う関係なんですか」

「私はジャーナリストで三峰さんが抱えている問題を広く世間に問えないかと思い、三峰さんに取材をしている者です。駒木さんからも何か伺えないかと参上した次第です」

洋平はその言葉を聞くと思案顔になり、

「僕の口からベラベラ勝手なことを喋っていいのかな」

「大丈夫です。私が駒木さんのところに取材に伺うことは三峰さんも了解しています」

洋平はなおも目の前の女を信用し兼ねる様子だった。蛍は

「もしお時間を頂戴できるのならば、駅前の喫茶店で三峰さんの事をお話しさせて頂けないでしょうか。彼女が置かれている状況が状況ですので」

と洋平の不安を煽るような言葉を口にした。

案の定洋平は「それならば」と蛍の取材に応じる意思を示した。二人は元来た道を戻って駅に向かう。


 蛍は喫茶店で改めて名前を名乗り、名刺を差し出した。洋平はその名刺を丁寧にテーブルの上に置く。店員にコーヒーを注文をするが早いか、洋平は

「なぜあなたは僕の家を知っているのですか?」

と至極当然な疑問を口にした。蛍は会社からつけて来た、とは言えず

「私達マスコミには独自の調査ルートがございまして」

と言葉少なく答えた。

照明の下で蛍は改めて洋平の容姿を見た。童顔だが額や口の周りに皺が走り、その皺が四十歳と言う年齢を意識させる。一人の男性の中に子どもと老人が同居しているようだ。善良そうには見えるけれど。それが蛍の洋平への印象だった。蛍はテーブルに身を乗り出すようにして、小声で

「駒木さんは三峰さんが受けた被害のこと、分かってらっしゃいますよね」

蛍のその問いに洋平は用心深く頷き、

「加害者二人が大学を辞めさせられたところまでは把握しています」

「そこで終われば良かったのですが、最近になって三峰さんが金本謙也さんと再会してしまったらしく」

「なんでまた?」

洋平は苦々しい顔で聞いた。

「三峰さんの行きつけのフィットネスクラブが金本一族の経営で、謙也さんも取締役だったそうですよ」

洋平は蛍の説明を聞くと、不満げに

「あいつ、あんな悪い事をしておいて会社経営ですか」

「三峰さんとしては、どうしても過去のこととして水に流す気持ちにもなれず、インターネットで金本謙也さんと、もう一人の加害者の木村佑さんを名指しで告発してしまいました。特に金本さんは、フィットネスクラブの次期社長という立場だし、三峰さんの告発があっと言うに拡散されて、結構なおおごとなっているんですよ」

そこまで一気に蛍が説明するも、洋平は特に驚いた様子を見せない。蛍は聞いた。

「もしかしてご存知でしたか?」

「僕自身実際にネットの書き込みを見ました。大学の同期の間で話題になっていましたし。もしかして三峰さんが書いたのかなとは思っていました」

そして鼻から息を吐いて、

「金本が悪い事をしたんだから、そのぐらいの報いは当然だ」

と付け加えた。

「話には続きがあります。実は金本さんからの報復がありまして」

「報復?」

「金本さんサイドから、三峰さんに名誉毀損で刑事告発がありました」

蛍の言葉に洋平は驚愕し、

「まさか、多香絵ちゃん、刑務所に入っているのですか?」

蛍は洋平の疑問を手で制し、

「安心して下さい。警察で金本さんからの被害届が受理されただけです。今後の流れとしては、検察に書類送検がされて、検察が起訴をして、裁判が始まって、場合によっては裁判で三峰さんが有罪判決を受けることもあり得ますが、有罪になってもまず刑務所には入らないと思いますよ。だって金本さん達だって有罪判決を受けたのに収監されなかったんですよね」

「確かに」

「ただ三峰さんは会社勤務なんですよ。刑事告発を受けたり、ましてや有罪判決なんて事になったら解雇になるかも知れませんね」

「そんな・・・・被害者は彼女なのに解雇なんて・・・・」

洋平はテーブルの名刺に一度目を落として、蛍の名前を確かめてから

「根津さん、何とか三峰さんの力になってあげてくれませんか」

と懇願した。

「私よりも駒木さんの方がずっと彼女の力になれますよ」

蛍はそう洋平に返した。

「え、僕が?」

洋平は瞠目した。ここで蛍は再び身を乗り出し、

「三峰さんの事件を記事にするつもりです。彼女もそれを望んでいます。そこで心配なのは、世間から三峰さんが嘘をついているとか、彼女に落ち度があったと思われる事です」

「まあそう考える人もいるでしょうね」

「ですの駒木さんの証言も記事に載せても良いでしょうか。勿論匿名で結構ですので」

蛍が丁寧に頼むと、

「ああ、そんな事ですか」

と洋平は快諾した。


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