表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドブネズミ  作者: 山口 にま
第三章 困った時のマスコミ頼み
25/94

インタビュー

「言いにくいとは思いますが、被害の内容を具体的にお話し頂けないでしょうか?」

蛍は多香絵の顔を覗き込みながら言った。多香絵は目線を落とし、蛍の方を見ようとはしなかったが、やがて意を決したように顔を上げ、

「大学三年生の時に、そんなに親しくない男子学生と飲みに行くことになりまして」

と話し出した。

「その男子学生が加害者の木村佑さんと金本謙也さんだったのですか?」

「そうです。私、なんであんな奴らと・・・・」

そう言って多香絵は手で顔を覆った。

しかし顔から手を離した多香絵は淡々とした口調で、自分がされたこと、親からは告発を止められたこと、もう一人の被害者と仲違いをしたこと、男友達の協力があって証拠の画像を入手できた事を話し出した。

「その男性のお友達と交際はしていたんですか?」

蛍の問いに多香絵は首を横に振り、

「そんな関係じゃなかったんですよ。それどころか加害者が大学を退学になったのを潮に、私は彼と連絡を絶ってしまって。お礼も言わずに絶縁しちゃったんですよ」

「やっぱりお友達を続けることは難しかったと?」

「無理でしたね。私はレイプこそされなかったけれど、あ、いえ、本当はレイプをされていたかも知れないし、そう言う被害を知っている人と会うのはちょっと・・・・。もう一人の被害者の女の子も、私との関係を断ちたがっていましたし」

「もう一人の被害者の女性は今は?」

「わかりません。途中で大学に来なくなって、卒業できたかどうかも・・・・」

「もしかして被害に遭ったことと関係していますかね?」

「多分関係あると思います」

蛍は向かい合わせに座る多香絵の方に身を乗り出すようにして、

「このお話し、是非報道したいと思いますが、三峰さんのお望みは何でしょうか?」

「望み?」

「例えば報道によって似たような被害を受けた方に告発の勇気を与えたいとか、先方が深く反省し、名誉毀損の被害届けを取り下げるとか」

多香絵は唇を噛んで言おうか言うまいか迷っている様子だったが、やがて目に獰猛な怒りの色を見せ、

「彼らが自分のやった事を死ぬほど後悔させてやりたい。今後の人生に恐怖と絶望だけを感じさせてやりたい」

蛍は何度も頷きながら、「それが被害者として当然のお気持ちでしょうね」と同調した。

「三峰さんだけのお話で記事を書くわけにも行きませんので、もう一人の被害者の女性や、証拠になる動画を入手してくれた男性にも取材をしたいとは思っています」

「え、それはちょっと・・・・」

多香絵は難色を示した。

「私がご本人達に取材を申し込んで、断られたら記事には書きません。勿論加害者の金本さんと木村さんにも会いますよ。あと彼らの大学関係者にも。ただ加害者側が取材に応じるとはとても思えませんし、大学も学生の非行を部外者に漏らさないでしょう。やっぱり三峰さん以外の方の話も載せないと信憑性のある記事にはならないのです。どうでしょう?ほかの被害者の方や、動画を手に入れてくれた男友達のお名前を教えてくれませんか」

多香絵は躊躇いながらも、

「もう一人の被害者は佐原花梨さんと言います。多分群馬県安中市出身だったような・・・・」

「画像を入手してくれた男の子は?」

「駒木洋平君です。出身は神奈川県海老名市で、大学卒業後は半導体メーカーに就職したと風の噂で聞きました」

「金本謙也さんと木村祐さんの住所はご存知ですか?」

「金本が杉並で、木村は八王子でした。そう言えば警察に彼らの住所を聞いたように思います。家のアドレス帳に書いてあるかも」

「ご帰宅したら私にメールを頂けますか?」

「分かりました」

「それから、この事を報道するとき、仮名にしますか?」

蛍の問いかけに、多香絵は蛍に哀願するような顔になる。

「仮名にして貰えないでしょうか?」

「勿論です。被害者のプライバシーは最大限に護られなくてはなりません」

蛍はちょっと迷った後に、多香絵に願い出た。

「読者への訴求力を強めるために、三峰さんのお写真を記事に載せたいのですが」

「写真ですか?」

多香絵は警戒の色を露わにする。蛍は慌てて、

「個人が特定されないように、後ろ姿とか顎の下から胸の辺りの写真にします。被害を受けたのが実在の人物で、普通に会社勤務をしながら生きている女性だと証明したいんです。写真があれば読者が自分の事として考えるようになると思うのですか、どうでしょうか」

蛍が頼み込むと、多香絵は渋々と言った体で了解した。蛍は多香絵の気が変わらないうちに多香絵の後ろ姿や斜め後ろからの姿をカメラやスマートフォンで撮影した。そして横からは多香絵の顎の辺りに照準を合わせてシャッターを切った。

「記事とお写真は公開する前に一度メールでお送りしますね」

蛍は約束して、取材を終えた。

蛍が多香絵をエレベーターまで見送る時には、多香絵の眉間は広く開き、晴れ晴れとした顔つきになっていた。


自分の席に戻った蛍は早速関係者をネットで探した。まずはフィットネスクラブのボディーレメディである。代表取締役はいつの間にか金本穣から夏目何某に変わっていた。ネットでもはや有名人となっている金本謙也の父親が代表者のままでは多香絵の告発がいつまでも沈静化しないだろう。代表取締役の変更を見越して、蛍はすでに会社の登記簿謄本を取り寄せてある。登記簿謄本に記載されている穣の住所は杉並区だ。

金本謙也のソーシャルネットワークは当然削除されている。勿論削除される前に蛍はSNSの画面コピーを取っていた。蛍はそのコピーを自分のパソコンから引っ張り出して見ている。金本謙也は目が細く頬骨が突き出ていて、まるでねずみ男のような風体である。こんな気色の悪い男に体をまさぐられて、被害者の怒りはいかほどか。謙也の居住地も杉並区であった。と言うことは未だ親と同居か、スープの冷めない距離に住んでいると言うことだろう。最終学歴は大卒、だけだ。職業はボディーレメディ取締役としっかり明記されている。若くて綺麗な妻と幼い子どもの写真も上がっている。

前科があるのにこの危機感のなさはどうだろう。蛍は呆れる。しかし気になったのは、彼のSNS上の交流に全く大学時代の友人がいないと言うことだ。これが彼なりの危機管理と言うことか。金本にとっても検挙歴は消し去りたい過去であろう。


もう一人の加害者木村佑に関しては全く情報が出てこなかった。分かっているのは事件当時の住所だけ。

被害者の佐原花梨も同じく情報がない。


駒木洋平の情報はすぐに出てきた。洋平もSNSで自分を発信していた。勤務先は多香絵が言った通り半導体メーカーだ。さてその容貌はお世辞にも端正とは言い難く、不惑の年に達したと言うのに子どものような顔をしている。同僚達とバーベキューに興じている全身写真は、周囲と比べて少しだけ背が低い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ