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ドブネズミ  作者: 山口 にま
第三章 困った時のマスコミ頼み
23/94

マスコミを使う多香絵

「ブフッ」

JNP通信のデスクに向かっていた長谷川は飲みかけの炭酸水を吹き出した。

「ちょっと、ちょっと、ちょっと!」

蛍は険しい顔でボックスティッシュを長谷川に投げて寄越した。長谷川はすまんなと言いながらティッシュを遠慮なく何枚も引き出して口を拭った。

「すげぇの見ちゃって。すげぇよ、お前よりも狂犬だよ」

すげぇすげぇと長谷川は繰り返し、蛍に自分のパソコンを見せた。それは

「フィトネスクラブ、ボディレメディの次期社長、金本謙也は性犯罪者である」

と言う名誉毀損になり兼ねない書き出しから始まるブログだった。


「一九九X年四月、藤野大学三年に在学中だった金本謙也と木村佑は新宿にて他大の女子大生を睡眠薬などを用いて意識を失わせ、居酒屋の非常階段で猥褻行為に及び、その行為を携帯電話にて撮影。

彼等は七月二日、同大学より退学処分を受けた。理由は強制猥褻事件で検挙されたからである。(同年強制猥褻罪で禁固三年、執行猶予五年の有罪判決をうけた)

そのような性的変質者がフィットネスクラブの経営者としてふさわしいのだろうか?

客相手に猥褻行為や盗撮をする恐れはないのだろうか」


文章はこれで終わりだった。

「ものすごい爆弾を落として来ましたね」

それが蛍の第一声だった。

「ボディレメディねぇ・・・・。最近よく聞くよな。あんまり知らないけれど」

と長谷川。

「雨後の筍ばりに新規開店している小規模のフィットネスクラブですよ。女性をターゲットにしているから男の人は興味がないでしょうけれど」

蛍はそう説明する。長谷川は首を捻りつつ、

「ここに書いてある内容、本当かよ?」

と蛍に疑問を投げかける。

「うーん、どうでしょう。でも話はいやに具体的だし、ひょっとするとひょっとするかも知れませんよ。紛争の香りがプンプンですわ」

蛍は自分のパソコンでも同じブログを開いた。ブログ管理者にメッセージ送るためだ。

「日本ニュース配信社(JNP通信)の根津蛍と申します。是非取材させて頂けないでしょうか?ご連絡をお待ちしております」

蛍はメッセージの末尾に自分のメールアドレスと電話番号を付け加え、

「この火事もらった!」

と威勢良く叫んで送信ボタンをクリック。

「根津さん、江戸の火消しじゃないんだから」

長谷川は呆れ顔だ。

「スクープを狙うならば一番乗りですよ。長谷川さんだっていつもおっしゃっているじゃないですか」

蛍は鼻息荒く答え、ブログの削除に備えて文章のコピーを自分のパソコンに落とし込んだ。

「ボディレメディがどう出るか見ものですね」

蛍は楽しげに言う。

「この金本謙也って奴にも取材を申し込んだらどうだ?」

と長谷川。

「勿論そうします。このブログが自然に本人の目に留まるまで泳がせておくつもりですが」

蛍は早速ネットでボディレメディと金本謙也を検索する。

「あーこれかなぁ。ボディレメディの代表取締役が金本譲。謙也のお父さんかしらね。謙也は取締役か。事件があった一九九X年と言ったら今から二十年前。謙也は今頃四十過ぎのいいおっさんですよ」

「奥さんも子どももいてもおかしくないよな。次期社長だって言うのに昔のことを蒸し返されて。今後の人生大変だ。いやほんと同じ男として同情する」

と長谷川は言うが、言葉ほど金本に肩入れしている様子はない。普通のサラリーマン家庭に育って来た彼は金持ちの馬鹿息子が大嫌いなのだ。

その時デスクに置かれた長谷川の携帯電話がメールを着信する。長谷川は憂鬱な顔でメールを確かめた。携帯を置いた後も浮かない表情のままだ。別居中の奥さんからだと蛍は思う。大方養育費の催促だろう。別居歴九年。俺は別居のプロフェッショナルだ、と酒に酔う度長谷川は豪語するのだった。

数日後蛍の予想通りブログは削除されていた。ブログの運営会社が紛争を恐れて強制的に削除したか、書いた本人が自主的に削除したかは分からない。なーんだ戦争勃発かと思ったのに結局たち消えか。蛍は落胆する。そんな彼女の元に一通のメールが入った。


根津蛍様 ブログへのメッセージ、ありがとうございました。ブログは運営会社より削除され、かつブログから退会させられました。

今、加害者である金本謙也から名誉毀損で刑事告発を受け困惑しております。

もし良かったら取材にいらして頂けないでしょうか。三峰多香絵


 いよいよ困ったらマスコミを使うと言うことか。蛍は思わず失笑するも、こっちは飯の種、向こうは憎い男への復讐のためと互いに手を組む理由はある。蛍は早速落ち合う場所と時間を決めるためのメールを三峰多香絵と名乗る女性に送った。


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