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ドブネズミ  作者: 山口 にま
第二章 一人になっても
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裏返しの下着の意味

大学三年生の三峰多香絵は最近酒の味を覚えて、やれゼミの打ち上げだ、他大学との交流会だと理由をつけては飲み歩いていた。

遊びで入った他大のサークルの飲み会にも二つ返事で参加を了承した。サークルも飲み会もいつも親友のかりんと一緒だ。いつものように多香絵はかりんを誘った。


多香絵はかりんとともに若者で溢れかえる新宿駅に向かった。そこでサークル仲間と待ち合わせだ。

「こんばんは」

そう挨拶をして近づいてきたのは、他大の金本謙也と木村佑だ。

「じゃあ行こうか」

と金本。

「行こうって・・・・みんなは?」

多香絵が聞くと、木村が

「今日は俺たちだけ」

と事も無げに答えた。多香絵とかりんは顔を見合わせた。彼女達は金本とも木村ともさして親しくなかった。しかしだからと言って同行を拒む程彼女達は潔癖ではない。せっかく新宿まで来てくれたんだし、と言う気持ちで多香絵達は男達について行った。

男達が二人を導いたのは新宿の外れにある居酒屋だった。

「俺の知り合いがバイトしているんだ」

金本はそう説明した。甘いだけのサワーが並ぶ、学生向けの飲み屋である。いわゆる一気飲みで盛り上がっている店内はかなり騒々しかった。彼らは自然と大声になり、大学の履修の事やゼミ活動などを話した。酔いが進むと、

「多香絵ちゃん達といつも一緒にいる女の子で、胸がめちゃくちゃでかい子いるよね。あの子なんて名前だっけ?」

と赤ら顔の金本が聞いてきた。多香絵とかりんは再び顔を見合わせる。

「清美のことかな?」

かりんは困惑気味に答えた。

「そうそう、清美ちゃん。あの子体もエロいけど顔も好きそうだよね」

と金本。

「俺たちの間でAV嬢って呼んでいるんだ」

木村も口を挟む。

「AVって・・・・。あの子学年で一番成績が良いんだけど」

多香絵は不快な気持ちで反論した。彼女の険しい表情に気がつき、

「ごめんごめん、冗談だって。飲もうよ」

と酒を勧めるのだった。もう帰りたいと多香絵は思いかりんを見たが、彼女は深酒をしたわけではないのに、座ったままこっくりと船を漕いでいる。

「大丈夫、かりんちゃん。ちょっとむこうで休んで来た方がいいんじゃないの?」

下品に笑っていた時とは打って変わり、優しい声色で木村は言った。

「大丈夫?立てる?」

木村はそう言ってかりんの体を支えた。

「私も行く」

と多香絵は立ち上がったが、それを金本が手で制し、

「木村に任せておきなよ。こういう時は外の空気を吸うと気分が良くなるから」

と言って多香絵を行かせなかった。

「せっかく来たんだから多香絵ちゃんももっと飲みなよ」

と金本は多香絵の前に酎ハイのジョッキを置く。多香絵は甘い中に変なえぐみのあるその店の酎ハイが好きになれず、申し訳程度に口をつけるに留めた。

かりんはいつまでも帰ってこなかった。そのうち多香絵は吐き気を催して来て、トイレを理由に席を立った。

朦朧とする頭で化粧室に向かった。多香絵に続く金本。多香絵は吐きたいと思った。

「こっちだよ」

金本は囁いた。多香絵は言われるままに目の前の扉を開けた。それはトイレではなく非常階段への扉だった。そこで多香絵が目にしたものは、下半身が露わになって木村に体を弄られているかりんの姿だった。

何やってんのよあんた!多香絵はそう怒鳴ろうとしたが、舌が縺れて言葉が出で来ず、そのまま非常階段の冷たい床に倒れ込んでしまった。


多香絵が次に目を覚ましたのは真夜中の高尾駅前だった。既に駅のシャッターは下りている。多香絵の自宅は中央線沿線だった。酔い潰れて終点の高尾駅まで乗り過ごしたということか。

多香絵は幸い一台だけ止まっていたタクシーに乗り込み、三鷹の自宅住所を運転手に告げた。再び深い眠りに落ち、自宅近くで運転手に起こされる有様だった。

転がり込むように自宅に戻り、猛烈な尿意を感じてトイレにかけ込んだ。

パンツが裏返しだった。やだ、私ったらそそっかしい。あれ?昼間はなんで気がつかなかったんだろう。

昨日は変な一日だった。そういえばかりんは?あれ?あれ?非常階段でかりんは・・・。

何だったんだろう、あれは。かりんは実は木村君と付き合っていて、Bと言うか、ペッティングをしていた訳?いやいやいや、そんなはずはない。かりんは別の人と付き合っているもん。と言うことは、木村がやったことは痴漢?それ、犯罪じゃん。

私のパンツが裏返しってことは、まさか私もパンツを脱がされたんだろうか。


多香絵は身を屈めてパンツの股間部分の臭いを嗅いだ。幸い性行為後のような臭いはしなかった。でも何だか膣が痛い。いや、気のせいかな。

もしかして計画的犯行?元々金本と木村はやらしいことをするつもりで飲み会口実に私達を呼び出して、知り合いの飲み屋に連れて行った?あの酎ハイは何だか苦かったけれど、睡眠薬でも入っていたのかな?

忘れた方が良いの?

睡眠薬が入っていたなんて証明できないだろうし、親しくもない男の子の前で酔い潰れた私も悪いし。


空は既に白んでいる。まだ頭に霞がかかったようにぼんやりとしている。ためらった後に多香絵は浴室に向かった。もしレイプまでされているとしたら、その証拠を自ら隠滅させることになるけれど。

大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせて彼女は熱いシャワーを浴びた。

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