辿り着いた場所で
退院して数日が経つ。高校への登校の予定を親が立てる中、僕は初めて家の外を散歩していた。
目的はあの「公園」だ。二回起きた記憶の描写は共通して公園での出来事。
手掛かりを求めての外出だ。ただ親不幸にフラフラしているわけではない。
でもどこにあるかわからないのでこうして散歩しつつ探してるわけだ。
土日ということもあり、人通りはそこそこ。澄んだ空気が心地よい。
数日前まで病室籠りだったのでいい運動だ。
そんなことをしているうちに通りを外れた。少し進むと公園があった。
あの時見た公園の記憶が薄れつつあるのでこの公園かどうかわからない。
「ん?・・」
「あっれ~すばる?」
うん。多分僕が探していた公園はここだ。彼女は一人で公園に来る質じゃない。
でも好都合だ。僕はこの公園を探すことよりもやらなくてはいけないことがある。
「一人でブランコなんか乗って。どうかしたの?」
「昴こそ、私との約束破っちゃってさ。」
頬を膨らませ拗ねた表情をしてこっちを見てくる。
「いったい何のこと?身に覚えがないんだけど」
「なーに嘘ついてんの。退院したら絶対教えるって言ったでしょ?」
「あ・・・」不覚にも忘れていた僕を恨む。
「罰として私の頼み事一つ聞いてくれる?」
「できる範囲ならね。命にかかわることは無しだよ。」
「私を何だと思ってるの。じゃあさ」
何を言われるにか少し緊張する。考えすぎる僕の性格はめんどくさい。
「私がしたいこと手伝ってよ」
少し沈黙が場を包んだ。でも僕はできるだけにこやかに言う。敢えて。
「その頼み事はさ、いつぐらいに有効期限が切れたの?」
風が僕らの間を通る。温かい今日には心地良い。
彼女の髪が揺れた。
彼女は目を潤ませて僕の目を見つめた。
その嬉しそうな表情に吸い込まれてしまいそうだった。
「続いてるよ。昴が昴なら。」
「私ね、最初寂しかった。あんなに楽しかったのにさこんなにあっけなく消えちゃうかもって思ったら寂しくて、また昴が手伝ってくれるかもわからなかった。だけどやっぱり昴なんだなって。そう思わせてくれた。」
「だからありがとう。嬉しい。」
「ううん、僕が僕でいようと思えたのは君のおかげ。わざわざ話に来てくれたり、笑顔でいてくれたり。そんな他愛のないことを僕にくれたから。そんな「日常」を手放すわけにはいかないって。そう思わせてくれた。」
「だから、このまま君のことを手伝うよ。」
手招きをされ僕もブランコに座る、二人でいつもと変わらない空を見上げた。
「やっぱりさ君はすごいよね~不意に泣きたくなるぐらい優しいこと言うし。」
「ははは、別に僕は泣かせようと思ってなんかないよ。」
「そーゆーとこも変わんない。だから昴に頼んだし」
「水を差すようで悪いんだけどさ、具体的にどんなことなの?」
「あははは、デジャブだよそれ」
「え?そんなことあった?」
「前に行った時もおんなじこと言ってた(笑)」
「そうなんだ。」
「頼み事はね・・・秘密。」
「え、やっぱり言ってなかったんだ。」
「うん。だって面白くないじゃん。もしかしたら知ったら意味ないかもでしょ?」
「何その意味ありげな言い方。なんかあるなら言ってよ。」
「さあね。小説でもないんだから言ったこが伏線だとは限らないじゃん。」
「でも・・・」
「ほらほら、こんなにいい日なんだから気楽にいこうよ。ほーらスマイルスマイル」
ホントは聞こうと思っていたけどこんな雰囲気を壊す勇気など僕には存在しない。
弱い風に揺られブランコが微弱に揺れ続けた。
彼女の笑顔は絶えることを知らないのか。鼻歌を歌いらブランコに揺られている。
少し日も落ちてきたような気もした。だけど眩しい。
「この公園って懐かしい気がするんだよね」
「え!私も家から別に近くもないのにたまにきちゃうの」
「僕もこの公園には何度か来た気がするよ。」
「何回かは来たでしょ?」
「一人での話だよ」
「ふーん。この公園私と来ただけじゃないんだぁ~」
「なにそれ(笑)」
「ふふふ~んべつにぃ」
鼻歌を歌いながら満足そうに笑っているが僕には意味が分からない。
「もう夕暮れになるね。」
「もうそんな時間?私まだおなかすいてな~い」
「君はそんなんで時間を把握してるんだ」
「すごいっしょ?」
別にほめているわけではない。僕は無言で頷いておいた。
「このまま星見ていかない?ここ結構よく見えるんだよねぇ」
「悪くはないね」