二時間目 朝食
一日開いてしまいました。
朝食シーン…そして、タイトル詐欺ではないことを証明!
ちゃんとタイトル回収しました。
さて、準備を終わらせて朝食を食べ始めるのはいいのだが、ここからが問題だ。
天使って、テーブルマナーとか理解できるのか?
テーブルマナーは、もともと「他人に不快な思いをさせないため」のものだし、そもそもそんなに汚い食べ方をしない限りは、絶対必要とされるところは少ない。しかも、ちゃんとしたテーブルマナーだったら、幼少期からしっかり教え込まれていないとできないことだ。
さっきもリルからもらった装置でスープの準備をしながら見ていたが、僕が来るまで食べるのを待てないくらいには、テーブルマナーが身に着いていないようだし。いきなり、順番とか言ってもわからないだろう。
(まぁ、全部できなくても、食事中不快にならないレベルならいいか…)
そう思い、ある程度には目をつむることにした。
した、のだが―
「…ストップだ」
メリルがパンを食べている途中で、待ったをかけた。というか、これはかけざるおえなかった。
「ふぁに?」
きょとんとした顔でこちらを向くメリルは、リスのように口いっぱいに食べ物を詰め込んでおり、何なら今すぐにでも外に出てしまってもおかしくないくらいだった。テーブルには食べかすがぽろぽろこぼれていて、とても見ていられない。ナイフやフォークも、グーで握って使っているので、持ち方はもちろん、上手く食べ物を切ったり刺したりできていない。さらに自覚もないときた。
「とりあえず、口にものを入れながらしゃべるな」
「ん…」
もぐもぐ、ごくん。こちらまで聞こえてくるくらい大きな音で咀嚼して飲み込む。いや、まぁ、そこももうちょっと綺麗に食べて欲しいってのは、さすがに望みすぎか?
「ええと、これから特別授業だ。手に持っているナイフとフォークを置いて、僕を見てくれ」
「えー、ご飯終わってからじゃダメ?」
「ダメだ。早く置け」
ぶーぶー言いつつも、ナイフとフォークを置いてこちらを見るメリル。置き方も雑で統一感がないが、まぁいいとしよう。
「まず、食事にはマナーがあるんだ」
「まなー?なに、それ?」
「マナーってのは、一緒に食事をする人が気分を害さずに食べられるようにするために、相手に対して配慮…気を配るために作られたルールのことだ」
「ルール…なんでそんな面倒なもの作ったの?」
「そうしないと、もっと面倒だからだよ」
実際、マナーがないと落ち着いて食事もできないし、一緒に食べる相手によって食べ方を変えなきゃいけない場面も出てきてしまう。何より、どうやって食べるか決まってないということは、それ毎に考えなくてはいけないことが増えるということになるわけだから、余計な悩みが増えるだけだ。
「へぇ…それで、そのマナーってやつを守っていればいいんでしょ?簡単だわ!」
「ほう、簡単ねぇ…」
言って、メリルの食べていた食卓を見る。その視線につられて、メリルも自分の食べていたあたりを見て―気まずそうにそっと目をそらした。
「で?自覚はあるか?」
「は、はい……」
とりあえず、自分のしていたことは理解できるようで何よりだ。これができないと、まずは説教から始めないといけないところだった。
というわけで、メリルには一からテーブルマナーを叩き込んでいくことにした。
まずは、ナイフとフォークの持ち方。これは単に指や力の入れ方に気を付ければいいので、対して時間はかからなかった。
次に、食べ方―と言っても、僕自身も大して知っているわけではなかったから、本当に最低限だけ。相手に不快感を与えない程度にとどめた。一気に口に詰め込まないだとか、よく噛んで、口の中がなくなってから話す。どうしても話さなきゃならないなら、口に手を当てて話して、なるべく中を見せないようにする。
次に、こぼさないように食べ物を口までもっていくこと。これが一番苦労した。結局、この食事中では完璧にできるようにはならなかった。
なんにしても、とりあえず食事は終わった。
「ごちそうさま」
「ご、ごちそうさま…」
僕がやったのを真似して手を合わせて食べ終わった時の挨拶をするメリル。なんだか、食事を始める前よりもひどく疲れているように見えたのは気のせいではないのだろう。
「こ、こんなに食事って疲れるものなの…?」
本来回復のための行為なのに、逆に疲弊してしまっては休まるものも休まらないだろう。まぁ、最初は誰だってこんなものだろう。
「あー、なぁ、慣れれば大したことはなくなる。これから毎日、今やったことは一通りやってもらうから、よく復習しておくように」
「えー、めんどくさい…」
テーブルに肩から上をだらーっとつけて、頬を膨らましてこちらを睨むメリル。下手すると全く復習せずに昼食で、そのままもう一度教える―なんてことになりかねなさそうだった。
それは面倒なので、何かいい手が無いかと考える。
(あ、そうか。そうすればいいのか)
一つ、ピンと来たものがあったので、試してみようと思う。
「じゃあ、これは僕からの「宿題」だ」
「…しゅくだい?」
やはり天界にはこのような言葉も風習もないのだろう。まぁ、教科書があれなのだから、教育レベルも押して図れるというものだった。
僕はメリルに「宿題」について説明する。
「宿題ってのは、次の授業とか、次の機会までに、これをやってこいだとか、ここまで完璧にできるようにしてくるように、という、いわば「命令」とか、「指示」みたいなものだな。これをしっかりとやらないと、次に進めないので、テストまでに範囲を全部やることができなくなる」
「え!それはこまるわ!宿題反対!」
即否定してくるメリル。どんだけやりたくないんだよ。少しはメリットとかも考えて欲しいところなんだが。
「でも、宿題がないと何をしていいかわからない時に、最低限のラインがわからないぞ?それに、宿題を設けることで、僕もメリルがどれだけできるようになったのか把握できる。そこから、学習速度を早くすることもできるんだが…そうか嫌か」
いかにも残念そうな感じで言ってみたが、メリルにはあまり聞かなかったようだ。すぐに僕に向けて状態を乗り出してきた。
「なんであろうと、嫌なものは嫌よ!」
眼前で両腕をクロスさせて×を作って見せるメリル。主張が激しい。
「そうか~。せっかく、天界に早く帰れるようにしようと思って準備したのにな~」
まぁ、今思いついただけなんだけど。
しかしそんなことを知る由もないメリルは、「天界」というワードを聞いてぐっとなる。それから、プルプルと震えながら両腕のクロスをゆっくりと解いていき、最後には顔を囲むようにして○を作った。
「か、勘違いしないで!私はただ、天界に早く帰りたいだけなんだから!」
「おう、それでいい」
何とかメリルが宿題をやることの了承を得た僕は、メリルの気が変わらないうちに一つ宿題を課した。
「それじゃあ、最初の宿題は、
1.僕が挨拶する前に挨拶をすること。期限は明日まで。
2.今やった食事のマナーを完璧に守ること。これは、今日の昼ごはんと夜ご飯の時にチェックする。
今言った二つができない限り、いつまでもこの二つだけを繰り返しやるから覚悟してかかるように。特に二つ目は難しいかもしれないがな?」
最後にメリルの自尊心をくすぐるような言い方をして、宿題を締めくくった。メリルは案の定僕の言葉に動かされて、「やってやるわ!」と意気込んでいた。
「よし、それじゃあ、最後に食器を片付けて終わろうか」
言って、台所まで自分の分だけ皿を持ってきた。一方メリルはと言うと、やる気を出したポーズのまま停止していた。
「おーい、片付けは自分でしろよ?」
僕の声掛けにハッとしたのか、急いで自分の食べた皿を持ってきた。
朝食前と同じ要領で生活魔法を使い、皿を綺麗にしてやる。さっきまでついていた汚れがもうなくなったのを見て、キュ○ュット並みの洗剤だと感じた。いや、正確には生活魔法を使っただけなので、洗剤なんて使わないのだが。
一通り皿の片づけが終わると、朝食時の僕のレクチャーも終わりだと告げ、それぞれ部屋に戻ることにした。
その時、メリルの片脇には僕が今朝暖炉から回収した教科書が抱えられていた。
―参考にはしないと思うけど。まぁ、その時はまた矯正すればいいか。
それから昼までは、それぞれで行動することになった。
読んでくださってありがとうございました。
正直これ書いてるとき眠くて仕方なかったです(笑)
次回更新も、少々お待ちくださること願います。