予習Ⅰ 朝市場にて
なんとか連日更新できました…。
このペースで書いていきたい(願望)。
今回もよろしくお願いします。
ミルシャおばさんと別れてから、しばらく市場を歩いてみて、いくつかわかった点があった。
まず、食材はかなり洋食よりに用意されている。肉類や野菜、果物はあるのだが、米や味噌などは見つからなかった。大豆は売っていたので、もしかするとどこかで売っているかもしれないが、今はまだ見つけられていない。
次に、食料の相場がかなり安いこと。例えば、今右手側の店で売っているベーコンだが、一本で40センチを超える大きさの割に、値段が10リール程度なのだ。1リール1円で考えるなら、たったの10円ということになる。相当安い。ほかの生鮮食品として売られている鶏や葉物野菜―おそらく、キャベツ―も、一羽20リールや、一玉8リールといった値段で売られていたのだ。
しかし、品数と品質については一定しない。店によってバラバラだし、中には明らかに虫が食いまくった後があるような野菜や、傷んでいると思しき果物を並べているところもある。もちろん、気を付けて陳列している店も多いのだが、全体で見るとそれほど割合は大きくない。
「技術的には、現代日本には遠く及ばない、か」
リルからの手紙にあったことを思い出してみる。見たところ、確かに技術が伴っていない部分が多い。それが関係しているのか、店主の物の売り方も、若干雑さが見られる。おそらく彼らは商人ではないのだろう、売り方がいかにも下手なのだ。
まぁ、かといって僕が何とかしようなんて思いはしないのだけど。
そして最後に、何かと小間使いに使われている、人以外のものが見られた。犬耳、猫耳、狐耳などを付けたものもいれば、角が生えている者もいる。しかも、彼らの扱いはひどく雑であり、先ほど見たものだと、少し商品を落としただけで蹴り飛ばされているものを見かけた。
さらに、彼らには、黒く固そうな首輪がつけられていた。つまり、奴隷というやつなのだろう。
現代日本にはそのような存在はいなかったので、少し受け入れがたいものもあるが、この世界では普通なのだろうか。だとしたら、早く慣れないといけない。
「ここで、奴隷を解放してやる!なんて言って行動できたら、勇者だとか言われるのかもしれないけどなぁ」
言いつつ、自分で興味がないことを感じていた。思っていたよりもドライなようで、あまり心に響くような感じではなかった。
「まぁ、かといって心地良い光景ではないけどな」
まぁ、すぐに慣れてしまうんじゃないだろうか。何なら、この世界でセオリーだと言うなら、自分でも使ってみたい、とさえ思った。
「さて、それは置いといて、問題は朝食だな」
時間は、腕時計のような便利なものもないのでわからないが、もう日もてっぺんに昇り始めている。さっきまでのものと比べると、一回りか二回り分高く、小さくなっていた。
「本当なら和食がよかったんだが…しょうがない、洋食メニューにしておくか」
そうと決まればさっそく購入。
まずは、パン。これはそこそこ日持ちするものを2斤ほど買っておいた。次にベーコンとキャベツ、トマト、それと卵である。定番と言えばこの辺りじゃないだろうか。しかしこれだとスープがないということで、キノコを買い足した。これで、べ-コンとキャベツ、キノコのスープが作れそうだ。
次に、調味料と調理器具、それと食器を一式そろえる。鍋、フライパン、ナイフ、フォーク…などなど、一通りはそろった。ここまででかかった金額が一万リールに達しないというのだから、驚きの安さである。
「なんでこんなに安いんだ…?」
びっくりするくらい需要がないのか、それとも、驚くほどたくさん作られているのか。まだまだ分からないことは多そうだ。
一通りの買い物を終えた僕は、帰路に着いた。来るときに通った道と同じ道を通り、自宅に戻る。
「ただいまー」
メリルが起きているかわからなかったが、一応言いつつ中に入る。返事も反応らしきものもないのでどうやらまだ寝ているらしい。
「天使って結構睡眠時間長いんだな」
勝手に短いものだと思っていた。思い込みはよろしくないな。
「まぁ、急ぎでもないし、朝食できてから読んでやるか」
そういって、鍋を出したり、食材を並べたりして調理の準備をして―ハタと気づいた。
「…魔法ってどうやって使えばいいんだ?」
リルの手紙によれば、この世界では誰でも生活魔法を使える、と言っていた。と言うことは、僕も今すぐ使えるということか?
しかし、使えるとしてもどう使えばいいんだろう。手紙には魔法の使い方なんか書いてなかった。
「んー、とりあえず、ありがちだけど…念じてみる?とかか?」
物は試し。用意した鍋の中に水を入れることをイメージして、そのまま念じた。しかし、数秒間まっても反応がなかった。
「やっぱりそう上手くはいかないのか―」
言いかけたその時。時間差を置いてどこからともなく水が集まり、鍋の中を満たしていった。20センチほどの深さの鍋一杯の水が、ものの5秒ほどで溜まったのだ。
「時間差があるのか…?」
それとも、僕の使い方が下手だったのか。わからないけど、とりあえず魔法の使い方は分かった。あとは、しばらく使って慣れるしかないかな。
そういえば、生活魔法って言い方をするってことは、攻撃魔法とか回復魔法なんていうのもあって、戦争に使われたりしているんだろうか。奴隷なんかも、隷属の魔法とかあったりして、それで従うほかないようにされているのだろうか。考え出すときりがないので、一旦おいておくことにした。
「さてと、それじゃ、朝食を―っと、その前に」
包丁に手をかけたところで、一つやっとかなくてはいけないことを思い出した。
暖炉まで行って、てをかざす。
「よし、これでいいかな」
それだけすると、僕は朝食の準備に戻った。料理は数えるほどしかしたことが無かったので、苦労するかと思ったが、リルのくれた「おいしく料理を作る力」は思っていたよりも万能だったようで、完成図をイメージして調理すると、自然と体が動いた。
これなら、思っていたよりも早く完成しそうだ。
「八時にはメリルを起こしに行けるかな」
現在時刻は七時十五分。今のペースなら、盛り付けまで終わらせられそうだ。
そう考えつつ、目の前の調理に集中していった。
読んでくださってありがとうございました。
今回は世界観の設定を紹介していくことがメインになったかと思います。
前話と併せて、「予習Ⅰ」がこの世界の作りになっていますので、分からなくなったらまた戻ってきてください。
では、次回でお会いしましょう。
あ、メリルちゃん、次回はちゃんと登場します。今しばらくお待ちを。