予習Ⅰ 朝市場まで
ほんとは毎日更新したいですが、難しいっぽいです…
なるべく途切れず更新するつもりです。
今回の話にはメリル登場しません。
異世界に来た翌日、僕は朝日が昇ると同時に目を覚ました。
普段はアラームを三重にかけてもなかなか起きないのに、なぜか自然と起きることができた。
「なんでだろう…」
理由はいくつか思いつくが、過ぎたことなのでどうでもいいか。
とりあえず、このまま二度寝するのはもったいない気がした。かといって、早起きしてやることなんて、昨日来たばかりで思いつかない。
「市場…に行こうにも、まだ金をもらってないし…」
そういって部屋を見渡す。昨日の夜寝る前に少し見たが、代わり映えはしていない。木製のクローゼットに、机。その上には布袋や調度品が―
「ん?布袋なんてあったか?」
昨日は眠くなってすぐに寝てしまったので、細かく見ていなかったが、しかし不自然に置かれた布袋に気付かないほどじゃなかったはずだ。となると、あの布袋は、僕が寝る前に置かれたものだということになるんじゃないか?
メリルが置いていった、とは考えられない。彼女はどこからか教科書を出しはしたが、他に何か持っている様子はなかった。
また、別の誰か、ということもないだろう。昨夜来たばかりの僕らのことを知るやつはこの街、ひいてはこの世界にはいないだろうし。
そうなると、思いつく節は一つしかなかった。
「リルかな?」
確かに、メリルの監視役兼サポート役をやるといったとき、報酬として暮らしていけるだけのお金をもらえるように頼んだ。おそらくそのお金なのではないか?
開けるまでは確信が持てなかったので、僕はすぐにベッドを出て、その布袋を開いて見る。中には、何枚かの紙幣と、硬貨が三色、五枚ずつ入っていた。
紙幣も広げてみると、種類の違うものが四種類、各五枚ずつ入っており、それらにはそれぞれ数字らしき文字が書かれていた。
「んー…アラビア数字に似ているけど、少しずつ違う…?」
よく見ると、アラビア数字の「3」をかたどったような文字や、「0」のような形をしたものもあった。どうやら0の概念はすでに生まれている世界のようだ。
「詳しくは誰かに聞かないと…ん、もう一枚紙が入ってた」
今度は手紙のようで、取り出して開いて見る。すると、差出人の欄に「リル」と書かれていた。さらに、この手紙は、この世界の言葉ではなく、日本語で書かれていた。それらの情報から、この布袋が昨日会った天使のリルによって用意されたものだと確信できた。
手紙の内容は、主に昨日話していたことの確認と、この世界の仕組みについてだった。
いわく、この世界は技術以外が現代日本と酷似しており、紙幣のシステム、計算、文字文化、紙などはあるとのこと。また、この世界では魔法を使えるものが一般的で、水や火も一般生活魔法で賄われているらしい。一部上流階級では、温泉なども流行っているらしいが、一般市民はたいてい「洗浄」魔法で綺麗にできてしまうため、必要ないのだとか。
また、この世界では人型の種族は大きく四つ―人、獣人、虫人、角人―に分けられるらしい。それぞれが別々の国を持っている、とのこと。
「まぁ、この辺は異世界感がすごいな…どんな進化したら、こんなに人型が増えるんだ?別に四足でいいんじゃないか…?」
疑問は尽きないが、情報の少なすぎる今考えても仕方ない。
とりあえず、手紙に書かれたお金の単位で、今もらった金額を整理してみることにする。
「まず紙幣だよな…この緑色が一万イール、赤色が五千イール、黄色が二千イール、青が千イールか」
順番に並べながら数える。それぞれ五枚ずつあったので、合計で九万イールか。
「次に硬貨―金色のが百イール、銀色が十イール、それと銅が一イールか」
こちらも順番に並べる。五枚ずつなので、555イール。つまり、合計で90555イールがここにある、といった感じだ。
「物価が日本と同じ感覚だと、これで一か月厳しいな…」
もちろん、日本円と同じ価値だと決まったわけではない。アメリカドルのような感覚だとすると、逆に大金になる。
「とにかく、市場価格がわからない事にはどうにもならないな」
とりあえず、町に繰り出してみるか。
思い立ったが吉日。いや、今日行く予定だったので日は関係ないか。とにかく、思ったらすぐに出発しよう。
寝室のドアを開けて、階段に向かう。途中でメリルを起こそうかと思ったが、彼女は今キトン一枚しか持っていないはず。そうなれば、否応なく目立つことになりかねない。
そういえば、こっちに来た時に僕の服装が変わっていたけど、これってこっちの世界の標準的な複素王なのだろうか。白シャツの上に茶色いベスト。ズボンはベストよりも色濃く、少しゆったりした作りになっている。ポケットが少し多いこと以外には特段目立った部分はなく、地味な服装だという印象だった。
「まぁ、目立ったら目立ったで考えればいいか」
そう思って、この場で考えるのはやめた。今更だが、玄関に来る前に窓から見ておけばよかったと、玄関に至ってから思い直す。
「…ええい、何とかなるさ!」
後悔しても仕方がないし、今更戻るのも面倒だった。思い切ってドアを開け放ち、外に出る。
「あれ?」
拍子抜けした。思ったよりも人がいなかったのだ。勝手なイメージだったが、朝は仕事に出たり買い出しや市場に行くので大賑わい、って感じだと思っていたのだ。
「思ったよりも人がいないのか、それともみんなそんなに早起きではないのか…?」
考えるよりも、こういうのは聞いてしまった方が早い。人が少ないだけで、全くいないわけじゃないんだ。偶然僕の一番近くを通りかかった、ふくよかなおばさんに聞いてみよう。
「すみません、ちょっといいですか?」
なるべく相手の失礼にならないように気を配りながら、話しかける。相手のおばちゃんは僕の声が聞こえると、すぐにこちらを向いて思いっきり笑って見せてくれた。
「おや、見ない顔だね。新しく越してきたのかい?」
「ええ、そうなんです。なので、まだこの街のことが全然わからなくて…よかったら、教えていただけませんか?」
「ああ、いいよ!この街のことでわかんないことがあったら何でもきいてちょうだい!」
そういって、バッグを持っていない右手で胸をドン!っとたたいて見せるおばちゃん。とても気のいい人で助かった。
「ありがとうございます!あ、僕は信と言います。三浦信です。この家に昨晩越してきました。よろしくおねがいします!」
「シンってのかい、よろしくね。私はミルシャ・エトックだよ!あんたの家の隣に住んでる」
おっと、どうやらお隣さんだったらしい。ご近所さんへの挨拶もできた。
「それで、さっそくなんですが…市場って、どちらにありますか?」
「市場かい?この道をまっすぐ行ったところさ!」
そういって、僕らが立っている大きめの幅の道の、大きな建物が見える方を指さした。というか、あの建物って、城か?
「ちょうど私も行くところだし、一緒に行くかい?」
「じゃあ、ぜひお願いします!」
ちょうどタイミングが良く市場の案内もしてもらえそうだった。これで、日常生活で必要そうなことは大体そろうだろうか。いきすがら、色々と聞いていたところ、手紙に書かれてた内容とそうでない新しく聞いたことがあった。
新しく知ったことは、この街はとある王国の城下町で、首都と最終防衛ラインを兼ねていること。また、その特性上この街、この国が世襲の王政であり、議会もあるが、あくまで王の補助組織であり、その機能を発揮するのは三つの時期しかない。王の世代交代の時期と、王の暴走を止めるとき、王の独断では手に余るときだ。この三つはやはりそうそう起こらないことであり、十年に一度あるかないか程度である。
街には朝と夜開かれる「市場」と、昼間開かれる「店舗」があり、夜中でなければどこかで食べ物も必需品も購入できるそうだ。ただし、市場は朝と夜では開催される位置が違っており、朝は街の東側、夜は西側で開かれるそうだ。また、開かれる趣旨も違っており、朝の市場は生鮮食品や調味料を、夜は飲み屋や野外飲食店を主にしているそうだ。
「お、みえてきたよ!」
ここまで聞いたところで、目的の市場―東側の朝市場に着いた。
右も左も活気にあふれており、本来なら人が十人は横に並んで歩いても余裕がある幅の道に、何十何百もの人が行きかいゆっくりと立ち止まるスペースもない。
市場には様々な種類の店が並んでいた。主に目につくのは、先ほど聞いた通り生鮮食品だが、ベーコンなどの加工食品や、皿やフォークといった食器類なども目についた。また、中にはアクセサリーを売っている店もあるようだが、比較的その周りの人は少なかった。やはり、朝は食材をそろえに来る客が多いのだろう。
「それじゃあ、私は自分の買い物をするけど、シンはどうするんだい?」
「うーん、とりあえず、今日のレシピを考えながらぶらついてみます」
「そうかい、それじゃ、ここで別行動だね。どうする?終わった後また集まるかい?」
「ありがとうございます。でも、ここまで来たら一人でも帰れると思うので、お気持ちだけ受け取ります」
「そうかい。それじゃ、またね」
そういってミルシャおばさんは、市場の喧騒の中に消えていった。とはいっても結構目立つので、ちょこちょこ目につきそうだけど。
「さて、それじゃあ、朝の市場とやらを見て回りましょうか!」
僕もミルシャおばさんに続くようにして、喧騒の中に入っていった。
ありがとうございました。
また、近いうちに―土曜日か日曜日くらいには更新する予定です。
若干短くなるかもですが、ご承知ください。
では、また次回更新でお会いしましょう。






