休み時間 プレゼント
更新遅くなりました。
昼食が終わり、メリルと食器を片付ける。メリルのほうが魔法が上手く使えることが分かったので、生活魔法はメリルに任せて、僕は食器を並べたり戻したりしている。
「ところで、さっき私に何か渡すものがあるって言ってたけど、何?」
ふと、あらかた食器を洗い終えたメリルが聞いてきた。
食器洗いが終わったらすぐ渡そうと思っていたし、ネタバレしてもいいだろう。そう思い、答える。
「ああ、服だよ」
「服?なんで服なの?」
別に必要ないでしょ、と言いたげなトーンで返してくる。
確かに、生活魔法が使えればいつでも洗いたてを着られるし、洗って乾かす必要がないので何着も持っていなくていい。むしろ、着替えるのが面倒だと感じたら、一生―は言い過ぎでも、それに近いくらい着っ放しというのも可能なのだ。
しかも、メリルは天界だから、地上でみんなが毎日着替えているなんてことも知らないかもしれない。そこまでは、服を買う前に考えた。
でも、やはり服は必要だと結論づけた。
「まず、メリルが地上に来た目的が、人間社会を学ぶためだってことだ。人間は、毎日着替えるし、着替える服もデザインや生地、製法が違ったり、色合いも同じようで違うものを着たりする。そういうことは、実際にやってみなきゃわからないだろう」
「…んー、確かにそうね」
一応理解はできるようだが、しかしそこまで乗り気になっていないようだ。
こういうのは、本人が乗り気にならないとあまり身に着かないものだし、やはり自発的にやらないと三日坊主になってしまう。
なので、少し違うアプローチをする。
「それ以上に大事なのは、人に会うとき、ずっと同じ服だと、人間はあまりいい顔をしない。この地上でずっと同じ服を着ているのは、でくの坊かニートか奴隷だ。普通に人付き合いしようと思ったら、毎日着替えていないと、話してもらえなくなるぞ」
半分脅しのような言い方に、メリルは一瞬「うっ」と引く。さすがに今の三つと同列にされたくはないのだろうか。しかし、勢いで言ったが、やはり奴隷と言うのは少し抵抗がある―けど、今は考えないようにしておこう。
「で、でも、私そんなに人と会う気はないし…」
何がそうさせるのかわからないが、メリルが無駄な抵抗をしてきた。と言うか、それは抵抗にすらなっていない。
「いや、それはダメだ。これから、最低でも一日一回は僕以外の他人と会話してもらう予定なんだから」
「そんなに!?せめて最初はもうちょっと優しく…」
「ダメ。これは絶対だ」
そんなに人付き合いが苦手なのだろうか?いや、苦手なんだろうな。ずっと天界にいて、むしろ人間との会話が得意な方が特殊なんだ。
涙目になりながら、何とか避けられないかと往生際悪く縋り付くメリル。
と言うか、話がずれてしまっている。別に今から他人と会話させに行こうというわけではないんだ。
「いや、今すぐにとは言わないから、とりあえずこの服を着てみてくれないか?」
そういって、先ほどソファーに置いた布袋から、メリルの服を取り出す。三着買ってあり、白のワンピース(フリフリや花柄などがたくさんついてる)、紺色のセーラー服(胸元についている白い小さなリボンがチャームポイント)、それから、黒のロングスカートと白のブラウス(ボタンのあたりには二重のひらひら付き)を順番にソファーの上に並べた。
並んでいく洋服に、徐々に興味を示すメリル。天使と言えど、やはり年ごろに女の子に変わりはないようで、早く着てみたいと目が訴えかけてくる。
しかし、先ほどのこともあってか、素直に飛びつけていないようで、うずうずしたまま見ているだけの状態だ。
「ほら、部屋にもっていって着てみてくれないか?じゃないと、僕が無駄遣いしたことになってしまう」
メリルの好奇心を後ろから一押ししてやる。
免罪符を手に入れたメリルは、顔を輝かせながら、しかし口では「しょうがないわね!」なんてつぶやきつつ、三つのうちまずワンピースを手に取る。それから残り二つも腕に抱えていく。
「じゃ、じゃあ、着替えてくるからまってて!」
「おう。ゆっくりでいいぞ」
小走りに階段を駆け上がり、一階まではっきりと聞こえてくるくらい勢いよく扉を閉めた。
そんなに嬉しかったなら、素直にすぐ着ればよかったのに、なんて思うが、しかしそこはお年頃なのだろうか。
「それじゃ、僕も着替えるか」
言って、布袋から残りを取り出す。
中には紺と茶色のスーツが二組入っており、ワイシャツも白・水色・青・紺の四色をそろえてある。先ほどの時計店同様に、どうやらドレスコードのある店がこの街にはたくさんあるようだったので、入店できるレベルのものを何着か購入しておいたのだ。
一応試着はしたが、やはり新しい服は買ったその日に着たくなるもので、僕もその欲に忠実になっただけなのだ。
慣れた手順でズボン、ワイシャツ、ジャケットを着こんでいく。今回は青シャツに紺のジャケットを合わせてみたが、なかなか様になっていた。
ジャケットも無地ではなく、細かく白い線が入っているもので、シャツが無地なだけにその線が引き立って見えた。
「うん。なかなか似合ってるんじゃないかな」
鏡に向けて言う。同時に、二階から階段を駆け下りてくる音がした。どうやらメリルの着替えが終わったようで、軽快な足音が一階に響いてくる。
「どう?」
階段を降り終えたメリルが、僕にワンピースを着た姿を見せてくれた。恥ずかし気に頬を染めて、手を後ろに組んでもじもじしているあたりが可愛らしい。
真っ白のワンピースは、メリルの白い肌、金色の髪とよく合っていた。ひらひらもその場所を強調することで、単調な白色にひと手間加えて、よりメリハリのある姿となっていた。
「うん。よく似合ってるよ」
ほめておくと、メリルはパッと顔を輝かせて、しかし頬はさらに赤くした。
「と、当然でしょ!私は天使なんだから、なんだって似合うのよ!」
「ああ、そうだな」
言いつつ、メリルが初めて着替えて、そのせいで今の格好が自分に似合っているのか不安だったことは見ればわかる。
なので、軽く認めておいて、深くは触れないでおいた。触れても問題なさそうだったが、その後どうしたらいいのか経験の薄い僕にはわからなかったのだ。
目の前で嬉しそうにワンピースの裾をつまみ、くるくる回るメリル。嬉しそうで何よりだった。買った甲斐があったと思える。
さて、これで準備は整った。
「さて、メリル」
「なに?」
「せっかく服を着替えたんだ。どうせなら、太陽の下に行ってみないか。きっともっと楽しいぞ」
「行く!」
ちょろい。
たぶん、うれしくてこれから外に出るとどうなるかまで考えが及んでいないのだろう。メリルは即答で自分から外に出る選択をした。
「よし、それじゃあ、行こうか」
「はーい!」
これから、メリルがさっきまで嫌がっていたことをしようと言うのに、嬉しそうについて来る。
なんというか、かわいそうな子だと思ってしまった。
次話投稿は土曜日までにやります。
書いてて思った以上にメリルがちょろインになってしまっ…
では、また次話で。




