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転生したので宿題です。  作者: あおい
10/11

三時間目 宿題提出

何とか更新できました。

「ただいま」

 玄関を開けつつ中にいるであろうメリルに向けて言う。

 メリルはリビングで食器を広げて、両手にナイフとフォークを持てっていた。

「お、メリル。やってるな」

 買い物でもらった布袋を肩にかけながら、メリルのもとに近寄っていく。しかしかなり集中してるのか、なかなか反応が返ってこない。

 仕方ないので、のぞき込んでみる。すると、どうやら何か考え事をしているらしい、目をつぶってぶつぶつつぶやいていた。

「おーい、メリル?」

 もう一度耳元で呼びかけるが、やはり反応はなかった。

 仕方ないので、メリルはそのままにしておいて、昼食の準備に取り掛かる。献立は何にしようか。

 野菜庫と、今朝買った保存のきく加工肉を確認する。葉物がいくつかと、ジャガイモ、ニンジンが目についた。トマトやピーマンもあるが、これらはサラダに使おう。

「うーん、肉じゃがかな」

 ラインナップを見て、カレーと肉じゃがで迷った末に肉じゃがに決定した。

 作り方―は、もう忘れてしまっているが、リルにもらった力で何とかなるだろう。たぶん。

 そう言えば、肉じゃがってみりんとか使うっけ。使わなくても作れそうだけど、もし必要だったら代用品が必要かもしれない。

 まぁ、作り方を知らない時点で入れることはないから問題ないだろうけど。

 ジャガイモ、ニンジン、インゲン、白菜、塩漬けされたばら肉を取り出す。ばら肉は水につけて塩気を落とし、その間に野菜類を洗っておく。

 先にジャガイモとニンジンを切り、それから適当な大きさに白菜をちぎって、火をつける。

「生活魔法って、ホント便利だな」

 朝に使ったので、二回目の使用だが、やはりガスコンロなどと違って管理やらがいらないのと、場所を取らないので使い勝手がいい。

 ちなみに、他にもいろいろ生活魔法を試してみたのだが、上手くいったのは生活魔法の、しかも「火をおこす」「水を出して使う」「体を綺麗にする」「体を乾かす」の四つしか使うことはできなかった。しかし、この四つを使えるだけで日常生活には困らないので、特にほかの魔法まで使えるようになりたいとは思わなかった。

「別に戦ったり、何かを作り出そうとしているわけじゃないしな」

 魔法のことはおいといて、次の工程に入る。

 醤油のようなものを取り出し、鍋の中で水と砂糖と一緒に混ぜる。そうしてできたものに、切ったジャガイモやニンジンをつける。

「なんか違う気もするけど、多分こんな感じだろ」

 そして、そのままなべを火にかける。少し時間がたって水がなくなってきたところで水を足し、その中に白菜やインゲン、塩気を取った肉を入れていく。

 そういえば、肉はもっと新鮮なものがあってもいいと思うのだが、はてこっちの世界では必ず塩漬けにしてから売るのが一般的なのだろうか。鶏とかなら、その場で調理したものを売りに出すとかやっていてもおかしくないと思ったのだが。

「そこまで、ライルさんが管理してるとも思えないんだけど…いや、あの人ならやりそうな気がしてきた」

 おそらく、防腐しておいて、食中毒や病原菌が蔓延するのを防ごうという意図なのだろう。市場でインフルエンザを持っていた鳥を捌いて、大量感染―なんてことは避けたいだろうし。

 食材をすべて入れたら、あとは蓋をするだけ。

 しっかりと味がしみこむまで待つ間、先ほどから動かないメリルの様子を見る。

 と、丁度そのタイミングで考え事がまとまったのか、目を開けてこちらを見てきた。

「―えっ!シン、いつの間に帰ったの?」

「いつの間にって、もう十分くらい前には帰ってたぞ?なんか考え事してるみたいだったから、そっとしておいたけど。一体何を考えてたんだ?」

「えっと、シンが行きがけに言ってたのって、挨拶だったとしたら、どう返すのが良いのかなって」

「あー、なるほど。確かに何も説明しないまま出て行ったからな。それで、どんな答えが出たんだ?」

「わかんない!って答えかな?」

 なるほど、良い笑顔で言ってくれた。まぁ考えてもわかることじゃないし、分からなくて当然と言うか、分かってたら僕がいる必要がないわけだからな。

「だから、私に教えなさいよ!参考書シン!」

「はいよ。言われずともすぐ教えるとも」

 どうせ鍋は後数十分くらい放置するつもりだし、その間に宿題もろもろメリルの面倒見ておくとしよう。

 キッチンからテーブルに移り、メリルの前に座る。

「僕が言った、行ってきます、に対しては、行ってらっしゃい、って返すんだ」

「行ってらっしゃい、ね。わかったわ!」

「それから、多分聞いてなかっただろうけど、僕が返った時に、ただいま、って言ったんだけど、覚えてる?」

「シンが返ったことに気付いてなかったんだから、私が聞いていたとでも?」

「思ってないよ」

 思ってないし、覚えていなくても何かするつもりもない。だから、そんな堂々と言うのはやめて欲しいんだけどな。しかも、表情も悪びれる様子無く、むしろそれが当然みたいな顔してるし…。

 あきれるほどではないにしても、もうちょっと、教えて欲しい、みたいな態度をとってくれるとやりやすいんだけどな…まぁ、そんなの期待しちゃいけないか。別に態度のために教えているわけじゃないんだし。

「帰った時に、ただいま、って言ったら、家に残っているひとっは、おかえり、って言うんだ」

「ただいま、に、おかえり、ね。わかったわ!でも、それって、家に人がいないときはどっちもやらなくていいの?」

 するどい指摘だ。

 実際、家に誰もいないときは、ただいま、と言わない人もいるし、中には、行ってきます、も言わない人もいる。

 つまり、この部分は人によって変わってくるのだ。

 しかし、今それを教えたところで、メリルが天界に変える助けになるとも思えない。ので、僕が思う結論を述べた。

「いや、家に人がいなくても、言うべきだな」

「どうして?返事はかえって来ないのよ?」

「いいか。挨拶ってのは、返事が返ってくるからするんじゃないんだ。確かに挨拶にはそれぞれ返事がついて来るけど、それはあくまで、相手がいて、かつ相手が「返事をしたい」と思った時にするものなんだ。

 もともと、挨拶っていうのは、自分が相手に伝えることが主だからね。相手の返事を期待して、挨拶をするのはそもそもの趣旨が違うよ」

「へぇ…」

 少し説明が長くなってしまったけれど、メリルは一応納得してくれたようで、頷いて返した。

 今言ったことを、僕自身が本心から思っているかと言うと、おそらくそんなことはない。相手の返事はどうしたって気にしてしまうし、本当に自分が相手に伝えるだけ、なんて思ってもいない。挨拶には返事がついて当たり前だし、返事がない時は返事をさせることだってある。

 でも、先ほども思ったが、今それをメリルに教えたところで、上手く理解できるかも怪しい。なので、心から思っているわけでもないが、おそらく理想の形であろうことをメリルのは教えておいたのだ。

 とりあえず一連の挨拶については理解してくれたようなので、あとは自分から実践できるかが問題になってくるだろう。

「それじゃあ、疑問も解消したところで、宿題を見せてくれないか?」

 ちょうど、朝使ったものと同じ食器がメリルによって用意されている。すぐに見せろと言われて、おそらく見せられるくらいには練習してくれているだろう。

 期待を込めてメリルを見ると、自信満々の笑顔で返してくれた。

「いいわよ!すぐに見せてあげるから、そこで待ってて!」

 言うと僕が見ていることを確認して、すぐに手を合わせる。

「いただきます」

 しっかり挨拶して、それからスープのカップに口をつけた。ここは、僕が口をつけていいと教えたので、様式のスプーンですくう部分は宿題の範囲外だ。

 スープを一口含んで嚥下する仕草を見せたのち、今度はおかずの皿だろうか、ナイフを左手、フォークを右手もって、何かを切る仕草を見せたのち、それを口に運んで見せる。切る仕草の時も、音を立てないようにしていたので、ここも合格だ。

 次に、パンだろうか。何かを掴んで、それをちぎって食べる仕草を見せた。必ずしもちぎらなくてもいい時はある、と言っておいたが、しかしそこもしっかりと守るためか、しっかりと実践して見せた。

 一応、これで三種類やったので、宿題の範囲は満たしている。

 しかし、最後までやり遂げるためか、そのままもう二周同じことをして、それからナイフとフォークを中央の大きな皿の上に、そろえて置いた。

「ごちそうさま」

 そして、再び手を合わせて、食事が終わったことを伝える。

 ふりだけとはいえ、完璧な流れだった。

「…どう?」

 頬を少し赤らめながら、僕の表情をのぞき込むメリル。自分のやったことに自信があるようで、しかし僕がOKを出さないと安心できないのだろうか、僕の合格サインを待っていた。

 あまり焦らしても何なので、すぐさま答えてやる。

「おう。合格だ。最初の宿題はクリアだな!」

「やった!」

 僕が合格をあげると、小さくガッツポーズをして喜ぶメリル。しかしそれもつかの間、すぐに笑顔を押し込めて、余裕そうな表情に変える。変えきれなくて、口の端がプルプルしていることには触れないでおこう。

「と、当然よ、このくらい!もっと難しいのを出してきてもいいのよ!」

「本当か~?」

 ツンデレとはこのようなことを言うのだろうか。嬉しいのに素直に人前で喜ぼうとしないのは、恥ずかしいからなのか、どうしてか。

 しかし駄々漏れである。取り合えず、メリルに達成感を味合わせることには成功したようだ。

「ほ、本当よ!こんなの余裕だったんだから!」

「ほう。じゃあ、次はもう少し難しいのを出すとしようかな」

 僕の冗談に、ギクッ、と肩を震わせるメリル。レベルは今のままにそろえておいた方がよさそうだと感じた。

 と、メリルとの話が終わったタイミングで、キッチンの方からいい匂いが漂ってきた。甘いような、それでいて塩気が効いている。

「お、できたな」

 立ち上がって鍋のほうに向かう。するとメリルが興味深そうに匂いを嗅ぎ、僕についてきた。

「何を作ったの?」

「昼食に、肉じゃがを作ったんだ」

「肉じゃが?」

 初めて聞く単語に疑問符を浮かべるメリル。そうか、メリルは天界にいたから、肉じゃがを知らないのか。

「日本でとても一般的な家庭料理だよ」

「へぇ、初めて食べるわ!」

「…思ったんだが、天界ではいつもどんなものを食べていたんだ?」

 肉じゃがを知らないからではなく、天界と地上では食糧事情も違うだろうし、どんなものをいつも食べていたのか純粋に気になったのだ。

 地上と同じものを食べているのか、それとも全く別物を口にしているのか。調理は焼いているのか、煮ているのか、それとも、生で食べているのか。

「どんなって、地球と変わらないわよ?ハンバーガーとか、ラーメンとか。あ、ピザも食べたわ」

 ―いや、なんでその三つが真っ先に出てくるって、どんな食生活してるんだ?

 予想の斜め上をいかれて、驚きを通り越して半分あきれてしまった。まさか、天使がハンバーガーをバクバク食ってるとか、ピザをつまんでるとか…また、幻想が消えていった。

「それ、大丈夫なのか…?」

「んー、わかんないけど、天使って基本的に魔力と神聖力と信仰で体の機能を循環させてるから、その辺をちょちょっといじればいいし、地球ほど肥満とかは問題になってないわ」

「そりゃ、うらやましいな」

 てことは、メリルもそれができるくらいには魔力やら神聖力ってのを持ってるのか。て言うか、神聖力ってなんだよ。

 ―ん?待てよ。

「てことは、メリルは生活魔法使えるのか?」

「使えるも何も、この世界にある魔法なら、小さな傷を治すものから、国一つをつぶすレベルまで、何でも使えるわ」

 さも、当然であるかのように言うメリル。とても想像できないレベルに達していらっしゃるようだった。

「―そりゃ、すごいな…」

 この子、思ったよりも危険だった。危険物だ。取扱注意じゃん。こんなの僕に預けちゃって大丈夫なの、リルさん。

 しかも、当の本人はそのことを何か気に掛けるでもなく、かといって力を持っているからそれを使おうとするでもなく。ただ目の前の鍋に入っている未知の食べ物に興味津々なだけだった。

 ―心配するだけ無駄かもな。

「ねぇ、早く食べましょ!」

「待て待て。今つぐから待ってろ」

 こうしていれば普通の女の子なのだし、特別扱いする必要もない。それが今の僕に出せる精いっぱいの答えだった。

「―そういえば、メリルにプレゼントがあるんだ。後で開けてみてくれよ」

「プレゼント!」

 思い出したように言ったことに、メリルが目をキラキラ輝かせて食いついてきた。子供の頃って、どんなものでももらえるとなったらめちゃくちゃうれしいよね。

 しかし、今言ったのは失敗だったかもしれない。肉じゃがをついている横で、早く渡せ、早く渡せ、と視線で訴えかけてくるメリル。このままでは昼食をまともに食べ終えるまで待っていられるか。

「―メリル、あとでって言ったよな」

「ええ、あとで開けてみてと言われたわ。だから、今もらおうと思ったの!」

「…なんでだよ」

 言っていることが支離滅裂だった。いや、言わんとしてることは分かる。開けるのは後で開けるから、先に渡せと言うのだろう。

 しかし、今渡したら絶対にすぐに開けるだろうし、そのまま中身を汚しかねない。しかも、僕の分まで一緒に入れてあるから汚されると僕も困る。

 生活魔法ですぐに汚れを取れるとしても、気持ち的によろしくないのは確かだ。着ないうちに汚されるのは嫌な気がする。

「とにかく、渡すのも食べてからだ!わかったら、これを運んでくれ」

 言って、肉じゃがの乗っている皿をお盆に乗せてメリルに渡す。

 今すぐにプレゼントを渡してもらえなかったメリルはむすっと拗ねたように頬を膨らましたが、しかし反抗するのは得策でないことはすぐにわかったのだろう、素直にお盆をテーブルに運んで行った。やはり、なかなか利口である。

 メリルは運んで行った肉じゃがを並べて、その横にパンを並べていく。本当は米のほうがよかったのだが、見つからなかったので仕方ない。

 二人分並べ終えて、それぞれ席に着いた。

「さて、じゃあ食べようか」

 二人して手を合わせる。

「「いただきます」」

 そして、肉じゃがに手を付けた。

 リルにもらった力のおかげかわからないが、どうやら上手くできたようだ。あまじょっぱいジャガイモが口の中でほろほろと崩れていく。それと同時に、肉じゃが独特の風味も口の中いっぱいに広がっていく。しかし、こんなにも早くジャガイモってボロボロになるものなのか。

 ふと、メリルはどんな反応をするか見て見たくなって前に視線を向ける。どうやら気に入ってくれたようで、目を輝かせながら次々と肉じゃがを含んでいった。

 口いっぱいになっている―のは、幸せそうな顔を見たら、今は指摘しないでおこうという気になってしまった。しかし、合格した端からこうじゃ、今後もちょくちょく抜き打ちテストをやらないといけないかもしれないな。

 こうして、僕らは三度のお代わりを経て、昼食を終えた。

読んでくださってありがとうございました。

また明日、更新予定です。

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