表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したので宿題です。  作者: あおい
1/11

プロローグ 転生先では天使の世話をするようです。

はじめましての方、のほうが多いと思います。初めまして。あおいです。

連載小説の投稿は初めてなので、若干緊張しています。


これから毎週2~3回ほど投稿していく予定なので、よろしくお願いします。

 ―異世界転生。

 死んだはずの魂を別世界に送って、より過激な第二の生を得る行為―のように、よく小説の中では書かれている。

 実際、この平和な世界よりも過激でない世界なんてなさそうに思える。

 でも、過激なことって、いいことか?

 確かに、新しい体験をしたり、この世界じゃありえないことを経験できること自体は素晴らしいと思う。魔法を使ったり、新たな仲間と冒険に出たり、魔物になってみたり。そういったことを一切したくないと言うと、嘘になる。

 心躍る冒険や、魔王を倒した栄誉、美女との恋愛、ハーレム、異世界最強、バトル系主人公。願望はいくつ挙げても切りはなく、人によってなりたい姿かたちも全く別物である。

 異世界に転生したら、~したい、という思いも、全部を否定するわけではない(中にはどうしようもないものもありけれど)。

 けど、別に暴れまわったり、大それたことをしなくちゃいけないわけじゃない。小説の中にだって、転生してからおとなしく過ごしている者もいるだろう。

 そして、僕はおそらく後者になりたいという願望が強いのだろう。

 何もしたくないわけでも、大暴れしたいわけでもない。長寿や不老不死、最強能力なんかも、別にいらない。だからと言って、目立ちたくないというわけではない。

 じゃあ、どうしたいのか。

 それは、多分。転生してからの、お楽しみだろう―


「―で?君は、何がしたい?」

 目の前の、頭にわっかの乗った誰か―たぶん、天使―が、僕に問いかける。

 後光が強すぎて直視できないけれど、多分金髪。ところ所でくるくる曲がりながら、腰まで伸びている髪は、触ったらふかふかそうだ。目の色も顔の色も、後光が強すぎて分からない。後光のせいで真っ黒にしか見えないが、おそらくキトンと、その上からヒマティオンを着ているのだろう、体全体が布に包まれているように見える。身長は、立ってる僕(165cm)よりも、少し高いくらい。胸はでかい。ついでに腰も。

「何がしたい…難しい問題ですね」

 顎に手を当てて、真剣に考える僕、多分、享年30。

「やりたいこと、ないんですか?せっかく生まれ変わってなんでもさせてあげると言ってるのに」

 半分あきれたように言う天使は、早く決めろと言わんばかりに僕を見ている―ような気がする。相変わらず後光がまぶしすぎて直視できない。

「…とりあえず、まぶしいんで後光弱められませんか?」

「できません。私たちは、顔を見られるわけにはいきませんから」

「そうですか」

 次にここに来るときは、サングラスをしてこよう。たぶんもう来ないけど。

「とりあえず、まだこの状況を飲み込めていないんですけど…何がどうなっているんですか?」

 僕が尋ねると、「えっ」と詰まった声を出す天使。軽く動揺しているようだった。

「あなた、ここに来るまでに何か説明を受けなかったの?」

「普通受けるものなんですか?」

「ええ。説明専門の天使がいますから、彼女らが説明する手はずなのですが…」

「わかんないですけど、僕は何の説明も受けてません。と言うか、天使ということは、僕は死んだんでしょうか?」

 僕がそう伝えると、天使は何やら思案したようだった。そして一声、名前を呼んだ。

「メリル!いらっしゃい!」

 彼女がそういうと、目の前に魔法陣のような幾何学模様が浮かび上がった。後光ほどまぶしくなかったので、直視できた。

 名前を呼んでから一秒足らずで、メリルと呼ばれた天使らしき少女が、その幾何学模様の中心に現れた。少し金の混ざった銀色の髪の毛が、まっすぐ腰のあたりまで伸びており、雪のように真っ白な素肌と相まって輝いていた。真っ白なキトンに身を包まれ、座り込んだその姿は、おそらく中学生―いや、小学生くらいの大きさではないだろうか。まだ顔と体のバランスが完全に取れているように見えないくらいだった。目を閉じたその姿に後光は差しておらず、水色の眉毛とまつげ、小さな口、その間にある小鼻に至る隅々まで、はっきりと見ることができた。

 呼ばれて―たぶん、召喚された?―から少しして、メリルと呼ばれた少女は水色の目を開き、それから周囲を見渡してはぱちくりした。

 そして、事態を飲み込めていない様子で、目の前にいる天使に向けて疑問を呈した。

「…え、何ですか、リルお姉さま?」

 目の前の天使―どうやらリルと言うらしい―は、メリルのその様子を見て、怒ったような口調を向けた。

「メリル?お仕事はどうしたの?」

 声を荒げているわけでもないのに、リルと呼ばれた天使のその声には震えあがるには十分な圧力が込められていた。

 そういえば、メリルと呼ばれた天使はわっかがないが、子どもの天使にはわっかはないものなのだろうか。この場では関係ないので気になっただけなのだが。と言うか、質問できる空気じゃない。

「え、ちゃ、ちゃんとやってるわよ!もちろんだとも、ですよ!」

 慌てているのが見て取れる。部外者の僕でも、嘘だとわかる挙動だった。

 そんな動き方で身内にばれないわけもなかった。

「本当のことをおっしゃい?」

「……ちょっとだけ…………さぼって…ました…」

 嘘をつきとおせないと悟ったのか、メリルは観念して正直に告白した。

「はい、正直なのは美徳ですね」

「で、でしょう?私ってば、美徳!」

 無理やり笑顔を作って、おどけて見せるメリル。しかし、リルはそんな彼女を許すわけではなかったようだ。

「ええ、美徳です。そんな美徳なあなたなら、天使の仕事をさぼったらどうなるのかも、当然わかっていますよね?」

 メリルの表情が固まり、額からあり得ない量の汗が流れ出る。背中からも出ているのか、来ている布一枚でできたキトンにも、汗の跡が浮かび上がっている。

「…冗談、ですか?」

「冗談で言っているように見えますか?」

 しばし、沈黙が流れる。なんとも言えない空気が二人―巻き込まれた僕を入れて三人―を包んでおり、身動きすらまともにできそうにはなかった。

 何秒かたったころ、メリルがリルにばれないように腰を少しだけ浮かせて、一気に逃亡を図った。

 ―が、目にもとまらぬ速さでリルに捕まった。見えない何かで首根っこを掴まれているようで、メリルがいくら足を動かせど、ただ上体が後ろに傾くだけで動ける気配がなかった。

「は、離してください!お姉さま!私はまだ、何もしてない!ですよ!」

「それがだめだと、何度言ったら分かるのですか?職場(ここ)にいたかったら、与えられた仕事をしっかりと遂行しなさいと、もう両手で数え切れないほど言っていますよね?いつになったら遂行するんですか?」

 引っ張る力を強くしたのか、だんだんとリルのほうに引き寄せられていくメリル。必死に抵抗しているようだが、むなしく。ただ引かれるがままにリルのほうに引きずられていく。

「ひっ!つ、次は、次こそはちゃんとしますから!罰だけはお許しを!ですよ!」

 涙目で必死になってリルに許しを請うメリル。許しを請いながらも、抵抗することはやめないあたり、本気で嫌がっている。いや、本気で嫌がっているのは見ればわかるのだが。

 気づくと、メリルが引きずられていく先に、人が一人入れそうな穴が開いていた。このままいくと、メリルはその穴に落ちてしまいそうであった。

「ダメです。今度という今度こそは、しっかりと地上(がっこう)で学びなおしてきなさい!」

 リルは落とす気満々で、言い放つと同時に引っ張る力をさらに強くして、そのままメリルを穴に投げ落としてしまった。

「いーやーー!!ですよーーー!!!」

 有無を言わさず、メリルを外に放り出すリル。妹にめっぽう厳しい姉のようだ。

 本来ならば、だんだんと声が小さくなっていくはずなのだが、その過程が完了するよりも前に穴が閉じてしまう。

 完全に取り残された僕は、その光景をただ眺め、メリルの行く先を爪の先くらい案ずるしかできなかった。

「…大丈夫なんですか、今の…?」

 ここがどれくらいの高さかわからないが、おそらく普通に落とされたら死ぬんじゃないかと思う。たとえ天使であっても、何の準備もなく落とされたら大けがくらいはするんじゃないだろうか…。

 しかしそんな僕の心配をよそに、リルは何事もなかったかのように頭を下げた。

「愚妹が迷惑をおかけしました。どうもあの子は、ここに就職が決まってからというもの、その地位に甘んじてさぼり放題していまして。いい機会なので、もう一度再教育をと」

「は、はぁ…まぁ、大丈夫ならいいんですが…」

 天使ってのは、よくわからないものだとは思っていたけど、それでも学校とか就職ってのはあるんだな、うん。

「それで、あなたのやりたいことでしたね。どうしますか?」

 話戻すんですね。そんな気はしてたけど。

 まだ頭がついていっていなかったが、考えても無駄だと思考を切り捨てる。

「ええと、やりたいことですか…」

「もし、やりたいことがないようでしたら」

 と、僕が決めかねている様子を見て、リルは一つ提案をしてきた。

「うちの愚妹の面倒を見てやってくれませんか?」

「…は?」

 愚妹…メリルちゃんの面倒?

「…頭が全く追いついていないので、詳しく教えていただけませんか?」

「ええ、もちろんです」

 そこから先の話は長かったので、割愛する。

 内容としては、まず、天使にも学校と職場があるのだが、職場によって出るべき学校が地上と天界に分かれているらしい。先ほどのメリルは、天界の学校を出て天界を管理する職に就くはずだったのだが、失敗して、流れ着いた先が姉のいるここだったらしい。しかし、本来ここは地上の学校を出た天使しか就職できない場所で、メリルは本来働けないはずだったところを、最高責任者たる姉が捻じ曲げて就職させた。けれど、本人が全く働かないものだから同じ職場の先輩同期後輩全員から白い目で見られており、今に至る、とのことだった。

「なるほど…つまり、ニートしてた妹を更生させるために、地上に落としたってことですね?」

「そうなります。つきましては、人間のサポーターに手伝っていただけると、あの愚妹の更生もはかどると思うのですが…どうでしょう、手伝っていただけませんでしょうか」

 要するに、メリルの世話係、というよりも、監視役をしてほしいってことなのだろう。死んだばかりの僕に要請するなんて、どれだけ信用されていないんだよ、メリル…。なんだか、無性に悲しくなってくる。

「もちろん、愚妹の面倒を見ていただけるわけですから、お礼も差し上げます。と言っても、規定で勇者や魔王転生クラスでない人には、大したものを渡せないのですが」

「いえ、もらっても使わない気がしますから、ほどほどにいただければいいですよ」

 むしろ、転生して第二の人生をもらえるんだ。すでにもらいすぎと言ってもいいくらいだろう。

「そうですか?みなさん転生する際は、結構無茶なお願いをされるのですが」

「参考までに聞いてもいいですか?」

 尋ねると、思い出すように上を向くリル。気付くと後光にも慣れてきて、ようやく目の色が山葵色だというところまでわかった。

「広大な農地と大量の奴隷、王様の地位、働かなくても生活できる環境、最強武器…中には、運命を司る力が欲しいなんて言った方もいらっしゃいました」

 なんというか、思っていた以上に無茶苦茶であった。

「…まぁ、そんなものはいらないので、大丈夫です」

 何が大丈夫なんだろう。いった直後に自分に聞き返してしまう。

「それで、そうでしょう?引き受けてくださいませんか?」

 再び尋ねてくるリル。

 まぁ、転生させてもらえるだけラッキーなんだし、そもそもやりたいことなんて対してない。転生しても前と同じような生活をするんだったら、暇つぶしがてら、目的があった方が生きがいがあるというものだ。

「わかりました。妹さんの監視役、任されます」

「ありがとうございます。では、さっそく準備しますね」

 そういうと、リルはさっさと魔法陣らしき幾何学模様を浮かび上がらせた(その場から全く動かずに)。先ほどメリルを召喚した模様とは、素人目にも全く違うものだとわかり、興味がわいた―が、多分自分には使う機会もないだろう。

「さて、あとはこの点の位置に来ていただければ、あなたはメリルのすぐそばに転生することができます。後は、あなたのお願いを聞くだけです」

 さぁ、願いは?と、言わなくても聞こえてくる。

「えーと、いくつくらいまでならいいですか?」

「ほどほどの願いなら、3つまで。とんでもない願いなら、一つだけ、それに代償もつきます」

「なるほど…じゃあ、こんなのはできますか?

 まず、あっちで生活するためのお金と住居を提供してほしいんです。別に豪邸とかじゃなくて、僕とメリル、あと数人が暮らせるくらいの大きさでいいので。

 それと、食生活が心配なので、僕の料理の腕を、日本のちょっと料理がうまいお母さん並みにしてもらえませんか?

 最後に、メリルをいつでも監視できるアイテムがあると、とても便利なのですが…」

 さすがに、最後のは無理かな?と思いつつも、ほどほどと思える内容で三つ願い事をしてみる。

 リルは少しだけ思案するように顎に右手を当てて下を向き、一秒ちょっとくらいで顔を上げた。

「一つ目はもともと渡す予定でしたので、全く問題ありません。二つ目も問題ないでしょう。あっちの世界だと、簡単なお店が開けるくらいの料理が作れるレベルだと思います。問題は三つ目ですが…まぁ、使い方を間違えなければ良いので、お渡しします」

 言うと、リルは右手を頭上に掲げ、何かをつぶやく。そのすぐあとで、自動車のリモコンキーのような形状のものが僕の手中に落ちてきた。

「これは…?」

「メリルを監視するための、持ち歩き式のモニターです。中央のボタンを押すとリアルタイムの動画が流れて、もう一度押すと消えます。向かって右の赤いボタンで録画、左の緑のボタンで視聴・録画予約ができます。詳しいことは使ってみればわかると思います」

「へぇ、便利ですね…」

 ものは試しと、中央のボタンを押してみる。すると、地面にへたり込んで今にも泣きそうなメリルが映し出された。

「…あの、めっちゃ泣きそうなんですが…あれなだめるのも僕なんですか?」

「はい。お世話係ですから」

 いい笑顔で言われた。もしかしなくても、自分で面倒を見るのが嫌で、僕に押し付けたんじゃ?

 まぁ、今更考えてもしょうがない。問題は、どうやってあっちでなだめるか、だな…。

 そんなことを考えていると、メリルがちらっ、とこちらを見て、急いで涙を拭いた。

「…え?もしかしてこれ、メリル側からも見えるんですか?」

「はい。一応あれでも妹ですから。悪用はなるべくできないようにしてあります」

「まぁ、会ったばかりの僕のことを完全に信用するのは無理ですからね。僕でもそうしますよ」

 僕とリルが話している時、メリルが画面越しに何か言っていたようだが、二人とも聞こえないふりをしていた。なんだか、天界に戻せだの言っていたようだが、それは叶わないだろうから。

 これ以上騒がれてもどうしようもないので、とりあえずボタンをもう一度押して、画面を消した。

「最後に、一つだけ聞いてもいいですか?」

 僕は模様の中心にある点に向けて歩きながら、ずっと気になっていたことをリルに質問しようとする。

「なんでしょうか」

「僕は、どうして死んだんでしょうか?」

 あと一歩で、模様の中心の点と言うところで、リルから返答を得られた。

「転落死です―会社の窓が突然割れて、落ちて死んでしまったんです」

「そうでしたか。ありがとうございます」

 それだけ聞くと、僕は中央の点に両足を乗せた。

「―妹を、よろしくお願いします」

 最後にリルから、妹を任され、僕は天界を去った。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


まだプロローグなので、本編早く書かなきゃなんですよね、急ぎます(汗)


コメント・いいねなどいただけると、泣いて喜びます。嘘です。泣きません。


次回更新は木曜日の予定―ですが、どうなることやら、です。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ