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死に候え不思議の国〜モータル・ワンダーランド〜  作者: 飴玉鉛
第二部「抹消される“コールマン”」
34/74

ゲエンナの狼煙 (前編)






 目覚めは穏やかだった。


 痛いだとか、苦しいだとか。

 寒い、暑い、もどかしいなんて――そんな煩雑なものは何もなく。

 ただ体を縛る眠気を払い、自然と目を覚ましたかのような静謐さがあるだけだった。


「………?」


 いつもというわけではないにしろ、コールマンは起床直後に意識が冴えるタチだ。寝惚けて正常な認識を損なうということがない。

 だからだろう。頭の中に奇妙な靄が掛かり、なんとも言い難い重たさのようなものを覚えて呻き声を漏らす。まるで長い間ほったらかしにしていたPCを起動して、動作不良を起こしてしまったような感覚だ。


「目ぇ覚めたみたいだな」

「え……?」


 身じろぎして閉ざしていた目蓋を薄く開けると、視界に飛び込んできたのは見知らぬ天井だった。

 くるくると廻る四枚羽のシーリングファン。暖色の光を発する、華美ではない控えめなシャンデリア――懐疑する。

 懐かしの故郷の村(・・・・・・・・)にある自分の部屋ではない、ましてや闘技場の施設、百十一号室の病的に白い部屋でもない。

 ここはどこだと空疎な意識が訝しんでいたから、横から掛けられた声へ間の抜けた反応をしてしまう。


 反射的に声がした方へ顔を向けると、そこにいたのは長身痩躯の青年だった。


 硬質な黒髪を首元で結わえた、玲瓏な容姿の美男。スマートな印象を受ける細身の肢体は、しかし針金のような筋肉の網で編み込まれた鋼のそれ。

 糊の利いたドレスシャツを着込み、胸元までボタンを外した格好の青年は、血の色の瞳でベッドの上のコールマンを見下ろしている。呆気に取られ声もないコールマンに、青年は皮肉めいた表情で不躾な問いを発した。


「どうよ、あの世から黄泉返った感想は?」

「……よみがえった?」

「テメェは死んでたんだよ。で、エウェルに言って生き返らせてやった。オレらは坊主の命の恩人ってわけだ」


 オウム返しに呟く。よみがった……死んでいた。誰が? エウェルって……誰なんだ?

 意味が分からず困惑するコールマンには構わず、青年はやれやれと肩を竦めて背を向ける。手近のモダンな椅子にどかりと座り込むと、あくまで彼はマイペースに告げた。


「オレはキュクレイン。テメェは?」

「え、あ……」

「名前だよナマエ。ちゃっちゃと話を進めたいんだ、こっちは。頼むからサクッと答えてくれよ」

「……コールマン」

「あ? ……ああ、コールマンね。りょーかい」


 訳が分からないなりに、コールマンはなんとか名乗る。

 本当はアルトリウス・コールマンと、礼儀を尽くして本名を告げるべきなのだろう。だが状況の掴めない現状で、本名を名乗るのは軽率な気がする。故に幾らかの警戒心から、闘技場での登録名を口にしたのだ。

 キュクレインはコールマンという名前に怪訝な顔をしたが、特に不審に思った様子もなく頷いた。そして不意に虚空に視線を逸したかと思うと、まるで遠くの誰かと遣り取りを交わしているように表情を動かす。


 魔法的な、あるいは魔術による通信をおこなっているのだと察して、それとなく彼の表情の動きを見詰める。


『――やっこさんの名前が分かったぜ。コールマンだとよ』

『何、コールマン? なぜ彼が……』


 キュクレインに応じたのは、コールマンの蘇生に成功した後に接続された、アルドヘルムの思念である。

 身分の差を弁えない粗野な物言いに、しかし依頼主であるアルドヘルムは些かも気を悪くした様子はない。敬意とは言葉遣いではない、心の持ち様であると考えるアルドヘルムは、公の場でもない限りキュクレインの物言いを咎めはしないのだ。

 そしてそんなアルドヘルムを、キュクレインはそれなりに気に入っている。職業柄、王国外で活動することも多く、帝国や王国以外の――魔族との戦線から離れ、平和ボケした後方国家の腐敗貴族を知る故に、アルドヘルムのような真の貴族たる存在には好意的な心象を抱いているのだ。


『なんだ、知ってる奴か? てっきり偽名かと思っちまったよ』

『印象深い少年だ。一応聞くが、外見的特徴は?』

『おう。金髪碧眼で身長は170ちょいぐらい、歳は十代半ばってとこだぜ。魔力形質はレッドカラー、魔力量は第六位階の魔導師級だ』

『……こちらの記憶とも一致する。確かにコールマンのようだ。どうして彼が闘技場の外に……詳しく知りたい、詳細を聞き出してくれ』

『へいへい。自分で聞きゃあ良いだろうによ……』

『生憎と私は彼に恨まれている。私が君の裏にいると知れば、円滑に事は進まないだろう。変に嘘を吐かれても困る、君に頼むしかないんだ』

『あーあー、そういうドロドロしてそうな話をオレにするんじゃねぇよ。匂わされるだけで気が滅入っちまうじゃねえか』


 青年が端正な眉を顰めて嫌そうな顔をするのを見ながら、ふとコールマンは漠然と思い出す。

 キュクレイン。彼は確かにそう名乗った。それは元の世界の英国でメジャーな英雄の名前だ。

 アイルランド民族主義、および連合主義の政治的シンボル――イングランド人であるところのコールマンとしては、彼の英雄の叙事詩には素直に心躍るものを感じつつも、やや複雑な思いに駆られないこともない。


(……ジャパンでいうところの『キラキラネーム』ってヤツかな?)


 ぼんやりとそう思う。日本で言うなら自分の子供に、苗字が同じだからと信長とか、秀吉とか、家康などと名付けるようなものだ。自分だったらゴメンである。

 コールマンにもアーサーという愛称があるが、名前で言えばアルトリウスであり、さほど珍しくもないありふれた名前だ。アーサーという愛称からアーサー王伝説などに結びつける阿呆は身の回りにいなかった。


 しかし、なんというか、目の前でテレパシーか何かで他所の誰かと話し込まれると、あまり良い気はしない。コールマンはじとりとキュクレインを睨む。

 するとキュクレインもその視線に気づき、飄々と首を竦めてみせた。


「っと、待たせた。二、三ほど訊きたいことがあるんだが、答えてくれ」

「……私は状況が飲み込めていないんだ。質問に答えるのはいいけどね、先にこちらの疑問を解いてほしい。まず、なんで僕は裸なんだい(・・・・・・・・・・)?」


 ベッドに横たわったまま、起き上がる気力が湧かない。しかし白いシーツを掛けられた自分の体が、何も纏っていないことには気づいていた。

 なぜ自分は裸なのか。ここはどこで、どうして自分はこんなところにいる。キュクレインは一体全体何者なのだろう。コールマンの当然とも言える問いに、青年は微妙な表情になった。


「そりゃあれだ。テメェが木端微塵に砕け散ってたからな。身につけてた(モン)はお無くなりになっちまったんだよ」

「は……?」

「……よし、こうしようぜ。テメェの質問にオレが答える、次に坊主がオレの質問に答える。こいつを交互にやろうや。そっちの方が話が早く済みそうだろ?」

「……分かった」


 提案されて、それに頷く。数秒目を閉じて、なんとか頭の中の靄を払おうとするが、頑固な油汚れのように中々消えてくれない。

 もどかしさに自分への苛立ちが湧く。だが相手を待たせるのも悪いし、何がどうなって自分がこんな所にいるのか、ここがどこなのかを早く知りたい。仕方なく雑多な疑念を隅に追いやり、青年へと問いを投げた。


「……ここは、どこなんだ?」

「オレん家だ。インナーシティの一等地にある。これでも冒険者の連中の中でも最高位の等級に昇格したばっかでな、結構良い立地に家を建てれたんだぜ」

「………」


 なぜ自慢されたのだろうか。得意げなキュクレインの様子に内心首を捻る。

 冒険者の最高位と彼は言った。訊いてもいない事を伝えられ、少し気になったが一先ず横に置いておく。今は最優先で解かねばならない疑問があるのだ。

 とりあえず、次はキュクレインの番だ。何を訊かれるのだろう。


「オレの番だな。坊主、テメェの一番新しい記憶はなんだ?」

「………?」

「ここで目を覚ます前の記憶だ」

「………」


 言われ、困惑する。なんでそんなことを訊くのか意味が分からない。黙っていると重ねて言われ、仕方なく思い出してみる。

 眠る前の、一番新しい記憶は――記憶、は……。




『劣等種如きが手間取らせてくれる。もういい、疾く失せろ……この世からな』




「っ……!?」


 氷のように冷たい、秀麗な美貌の少女。去来した決定的瞬間の記憶に身震いして、その姿と声に鳥肌を立てた。

 全身の毛が逆立つ。一気に頭の中の靄が晴れた。言われた直後に暗転した意識。キュクレインの言っていた、コールマンが木端微塵になっていたという言葉。統合すると、恐るべき事実を察してしまう。


 コールマンは、死んだのだ。あの瞬間に。


 殺されたのである。名前も知らないあの少女に。なぜ、どうしてと疑問と恐怖が頭の中に氾濫する。取り乱しそうになるのに、コールマンは咄嗟に首元に手をやった。

 そこにあるはずの演算補助宝珠のマーリンに、自身が冷静になるように魔力作用を及ぼしてもらおうとしたのだ。だがその手が空振る。慌てて確かめるとそこには何もなかった。


 ない。マーリンが、魔力派共鳴式魔導管制杖がない。キュクレインの言っていたように、粉々に砕け散ったのだろうか。自身の戦力低下に動揺しそうになるも、歯を食いしばってなんとか冷静さを取り繕う。

 動揺することはない。所詮はコールマンの認識の外で起こったことだ。認識できないところで死に、キュクレインが言うには生き返った。なら今更動転しても意味がない。情けないだけだろう。


「その様子じゃ思い出せたみてぇだな」


 どこか感心したようにキュクレインが歯を剝いた。笑っているらしい、と一拍遅れて気がつく。


「にしても大したもんだ。普通自分が死んでいたってことに気づいたら、大なり小なり混乱するもんなんだぜ? 肝の太い奴なんだな、コールマン」

「………」


 確かに昔から図太い奴だと揶揄される事もあったが、そうやって改めて言われるほどのことだろうか? 知らない内に死んで、知らない内に生き返ったなら、所詮は一夜の悪夢と割り切るのも容易いと思うのだが……。

 キュクレインはそんなコールマンの反応が面白いのか、にやにやとしながら問い掛けてくる。しかしコールマンが箇条書きしたような語調で事実を羅列すると、そのにやけた顔はすぐさま引っ込んだ。


「で、何を思い出した。教えろ」

「……闘技場の受付でダンジョンに潜る手続きをした。その後、第一層を探索していたのだが、モンスターと遭遇せずにいたから第二層に進み、ゴブリンを一体発見して斬った。丁度その辺りの壁面に亀裂があって、それを切り崩すと通り道があるのを見つけ……そこから外に出た」

「……は?」

「外に出ると、一人の少女に声を掛けられた。名前は知らない。私が覚えているのはそこまでだ」

 

 キュクレインは難しい顔をする。ポーカーフェイスができないのか、素直な感情が顔に出ている。


「今度は私の番だね。質問してもいいかい?」

「……おう」

「何故私は此処にいる? 君の言う事が本当なら、私は死んでいたのだろう。本当なら墓場にいる方がずっと自然であるはずだ」

「そりゃさっきも言っただろ。オレの嫁さんが蘇生魔術を使えてな、そいつで生き返らせてやったんだよ。なんせこの時期に不審な死体が見つかったんだ、是が非でもテメェから話を訊かなきゃならねえってんで、わざわざ坊主の体を再構成してやったのよ。オレん家に坊主を置いてやってんのは、エウェルの奴が身分的には一般人で、嫁さんとこじゃねえと蘇生できなかったからだ」

「………」

「で、意外とすぐ坊主が目を覚ましたもんだから、オレん家から動かす時間がなかった……理由なんざそれだけだ」

「……そうか。よく分かったよ」


 キュクレインを改めて見詰める。歳の頃は……コールマンよりも十歳ほど年上に見えた。苦手な敬語ではなく、我ながらどうかと思う不遜な物言いをしているのに気にした素振りはない。対等の目線で話してくれていた。

 悪い人間ではない、と思う。赤い瞳はアルビノのそれだが、肌は白人のもので病的ではない。いや――虹彩の中に七つ瞳孔がある。黒目の部分が七つだ。異様な眼……前髪と白い肌に紛れているが、額には白い環のような入れ墨らしきものもあった。そして左手の指が七本……三つの束に編んだ黒髪に、中性的ですらある整った容貌……。

 ツ、と嫌な汗が額を伝う。キュクレインという名前の、元の世界の叙事詩に語られる英雄の外見的特徴と一致する符号が多かった。常識に縛られず考えてみると、嫌な予感がする。


 努めてそれから目を逸らし、彼個人の人間性を考えるに、コールマンに嘘を教える性格ではないように見えた。というよりも嘘を吐かない、嘘を嫌うタイプなのかもしれない。

 この人は信じても良い。そんな気がする。コールマンはその直感を信じた。


「次は君の番だ。私に訊きたいことは?」

「ちょっと待て。……もう無ぇとよ。後は全部そっちのターンだ。訊きたいことがあるなら言えや」

「そうかい? なら遠慮なく……」


 拍子抜けした。実質キュクレインからの問いは一つしかなかったのだ。彼を介しているらしい、姿の見えない誰かも訊きたいことが他にないとは……。

 まあ自分が気にすることでもない。そう言ってくれるのなら厚意に甘えよう。


「私を蘇生してくれたことには感謝するよ。けれどそこになんらかの手数料なり、金銭の支払い義務が発生することはあるのか?」

「あ? ああ……本当なら法外な額を吹っ掛けてやるところだが、今回は無料(タダ)でいい。別口に請求するから気にすんな」

「? ……私に支払いの義務がないならいいよ。それで、私は闘技場に戻ろうと思うのだけど、その前に何かすることはあったりする?」

「無ぇな」

「服は貸してくれたり……」

「流石に素っ裸で追い出したりはしねえから安心しろ。貸して……いや、くれてやる。返さなくていいぜ」

「ありがとう」


 良い人だ、と話していて思う。コールマンは素直に礼を言った。

 丁度その時だ。がちゃりと扉の開く音がして、そちらに目を向けると一人の女性が入室して来る。


 柔らかなウェーブを描く黒髪。包容力のある優しげな容貌。美人ではある、しかしそこに華はない。地味な印象の容姿だった。

 ロングスカートを履き、白い縦編みのセーターを着ている彼女は手に蒼い長方形の布と、ドレスシャツと黒ズボンを持っていた。男物の下着まである。コールマンにくれる物だろう。


「話は終わりましたか?」

「おう、いいタイミングだ。坊主、コイツはエウェル・エリン。オレの嫁さんでテメェの命の恩人だぜ」


 エウェル。再度耳にしたその名前に、キュクレインの外見的特徴を認識していたコールマンの顔が引き攣る。

 年上の女性の登場に緊張しているとでも思われたのか、エウェルは柔和に微笑んだ。


「ご紹介に与りました、キュクレインの妻エウェルですわ。よろしくお願いね、えっと……」

「――私はコールマン。こちらこそ、よろしくお願いするよ。それから、助けてくれてありがとう」


 頭を下げるとエウェルは上品な所作で会釈をしてくる。

 これまで会ったことのないような、お姫様みたいな人だ。キュクレインの横に立っているのを見ると、なんともお似合いの二人に思える。


「気にしないで、コールマン。むしろわたくしの方こそ『救けさせてくれてありがとう』と言わせてちょうだい。貴方みたいに生き返らせて上げられる方は滅多にいないから」


 わたくしの波長に合わない方は、生き返らせてあげられないの――そう言うエウェルには、恩着せがましさは欠片もない。嘘偽り無く本心で言っているのが分かる。

 欲がなく、ふわりと柔らかい雪のようなヒト。まるで聖女だ。

 焚き火のような慈愛の眼差しを受けてたじろぐ。エウェルという(ひと)の人となりは、この数カ月で感性の擦れてきたコールマンにとって眩しいものに見えた。

 尊い善性、白雪の如く穢れのない乙女。そんな彼女へ言葉に詰まっていると、エウェルは相手の反応を気にせずベッドの上に下着と服を置いた。折り目よく畳んでいる蒼い長方形の布も。


「貴方の着る物がないからこれを上げるわね。ハランさんが貴方ぐらいの時に着ていたお古だけど……」

「ハラン?」

「わたくしの旦那様よ。昔ク・ハランって名乗ってヤンチャしてて。ハランさんったらわたくしを攫ってしまったの。お父様はもうカンカンに怒ってしまわれて……でも楽しかったわ」


 ころころと笑うエウェルは幸せそうだった。つい、つられて笑みをこぼしてしまう。

 仲睦まじいのがよく分かるが、幼馴染みと言うにはやや騒がしい関係だったらしい。まるでドラマか何かの一幕を聞かされたようで、本当にお姫様みたいだなと思った。

 照れ臭いのか、キュクレインはこれみよがしに嘆息する。


「いつの話してやがる。それよりそれ(・・)、なんだ」


 青年が顎をしゃくって示したのは蒼い布。コールマンも気になっていた。衣服の類いには見えないが……。


「カンサスの樹海の麓にある、樹木の三角葉で編んだマフラーですわ」

「樹木の……?」

「おい。それ(たけ)ぇ奴じゃねえか。なんでコイツに渡そうとしてんだよ」


 カンサスの樹海。聞き慣れない名詞だがそれはいい。気になったのは樹木の葉で編んだというマフラーだ。……どう見ても布の生地にしか見えない。どの辺が葉っぱなのだろう。キュクレインの反応からして高級品らしいから、受け取るのも気が引けた。


「……カンサスの樹海やら、それが布にしか見えない点が気になる。すまないが、それらがなんなのか教えてくれないか?」

「ご存知ないのね。カンサスは人類圏と魔族の版図の境にある霊峰ですのよ。過酷な環境で、どうしてか人も魔も近寄らない自然の霊地がカンサスの樹海なの。そこで採れる樹皮や葉は、高値で取引されるのよ。一部の樹木の枝葉なんて、布の生地に近いものになってるの。これがそれね」

「……よく分からない。けれど安価なものじゃないのは分かった。どうしてそれを私なんかに?」

「どうしてだと思う?」


 分からないから訊いたのに、はぐらかすように微笑むエウェルに渋い顔になる。当惑しながらキュクレインを見ると、不意に彼は険しい顔になった。


「……エウェル。もしかしてとは思うが……」

「はい。この方はきっと、皆さんのためになる(・・・・・・・・・)と思うの」

「……視えた(・・・)のか?」

「はい。この方を蘇生した際に、とても大きなモノが」

「………?」


 何か、コールマンには理解できない意図を交わしている二人に首を傾げる。

 キュクレインがコールマンに言った。


仕方無(しゃあね)ぇな。持ってけ」

「え?」

「首にでも巻いてろ。マフラー(そいつ)は弾力があってな、一定以上の力で押し込むと反発して跳ね返してくれる。限度はあるが、斬っても打っても破れないし、内側のモンを保護してくれるぜ。ついでに抗魔力もある程度は底上げしてくれる」

「………」

「闘技場に帰るんだろ? 送ってやる。さっさと服を着な」


 聞くだに凄まじい品だ。思わず蒼いマフラーを見ていると、エウェルが踵を返す。殿方が着替えるのに、わたくしがいたら邪魔ですわよねと苦笑して。

 コールマンは咄嗟に、彼女の背中に向けて――勿論キュクレインにも向けて言った。


「何から何まで、手間を掛けさせてしまい申し訳ない。この恩は忘れない、本当にありがたく思う」

「うふふ。そんなに畏まらなくてもいいのに。でも――恩だと思ってくれるのなら、いつかわたくし達が弱ってる時に救けてくれたらいいわ」

「ああ、分かった。約束する」


 そんな時が来るとは思えないが、コールマンは快諾した。もし彼女の言うような時が来たのなら、この約束を絶対に果たすと。

 少年が約束してくれたのを聞くと、顔だけ振り返っていたエウェルは嬉しそうに相好を崩し、そのまま部屋から退室していく。それを見送って、キュクレインが言った。


「いいから服を着ろっての。オレの依頼主がなんでか急かしてるんでな、さっさと出ねえと煩くて敵わねえよ」


 ややうんざりしたように急かされ、コールマンは頷いて与えられた衣服に袖を通した。







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