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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
第五章 俺、今、女子リア重
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私、今、男子中座中

 私、喜多見美亜は、その瞬間背筋をさあっとよく無い感覚が走るのに気づいた。


「あら? 私は構わないわよ」


 緑がそんな言葉を言った瞬間。

 ——え、それどういう意味?

 心が凍った。

 緑が言っている「構わない」とは、向ヶ丘勇と婚約——結婚までいのもの構わない。

 そういう意味にしか聞こえない

 そういう意味なの?

 ……とか思うと、胸がドキドキして、苦しくて。

 これは……。

 わかってるわよ——そういうことよ。

 隠さないわ、私は。少なくとも自分の心を自分の心には。

 でもまさか、緑もそんな……。

 ——わけはないわよね?

 クラスの女帝がオタクぼっち男と……?

 まあ、今その中にいるのは私だけど、あの言葉はそういう意味じゃない。

 「構わない」のは向ヶ丘勇というもの。そのもの。

 そういう風に聞こえた。

 中身が元にもどっても、それでも構わない。

 そんな風なニュアンスに聞こえた。

 ならば、

「俺なら扱いやすいだろうからな」

 え?

「あらわかった?」

「当たり前だ。俺くらい人間的に位が高くなると、そんなあからさまなひっかけトークに一喜一憂することもないからな。……渋沢家の御曹司なら、婚約してしまったら、もう破談にするのは両家ともにありえないが、俺となら『別れた』といえばみんな喜んでそれで終わりだからな。ていの良い見合いよけにはぴったりだな。よく考えたら」

「まあ、そういうことだけど? いや……まあそんな扱いで彼氏だって言われてもいやでしょうね」

「そりゃそうだ……」

 緑と向ヶ丘勇(あいつ)の会話。

 つまり「構わない」は、向ヶ丘勇と彼氏になることを、おじいさんがもってくる縁談を断るための盾に使おうってこと?

 いえ、今日、今の縁談を断るために、そうしようって言い出したのはわたしだけど、

「良い案だとは思うけど。……想定外に、なぜかおじいさんがあなたのことをきにいってそうだったのでそういうのもありかなって……」

「『良い案』って……そっちにとってだろ。まあ、そんな俺になんのメリットもない案になぜ俺がのらなきゃいけないのかってところはおいといて——気に入ってるのは、中に喜多見美亜が入った向ヶ丘勇だろう? 俺が、元に戻ったらあっさり嫌われるさ」

「あら? もどるあてがあるの? 春から戻ろうとしてずっと失敗続きだったんでしょ?」

「あて……はないが。戻るさ、絶対戻る。お前だっていやだろ、俺の体の中にいていけてない男子高校生の生活をつづけるのは」

「は、はい?」

 突然話を振られてどぎまぎとしてしまう私。

「な、いやだよな」

「そ、そうね……も、もちろんにょ!」

「『にょ』?」

「いいから! 絶対にいやよ! 早く変わってしまいたいわ!」

「ほら……そうだろ」

 なんだか必死になって焦って言ってしまったし、——そう答えるしかないけれど、実は向ヶ丘勇としての生活、慣れてきたらいやでもないというか、むしろ……。

 あれ?

 緑が幾分薄笑いのような。

 笑っているのは彼女が今入っている私の顔だけど。私ってこういう顔するんだ? なんか困ったような、面白がっているような……。

 これは気づかれているよね。それ(・・)に。

 「嫌でもない」というほうじゃなくて、私が冷や汗をかいた方の意味に。

 その証拠に、私が目線送ると、ニヤリと。

 はい。いいから。その通りだから黙ってて欲しいから。

 って、力いっぱい目で訴えかけたら、「あらあら」みたいな表情を浮かべて……。

 わかったから。後で何でも話したげるから。


 何でなのか?

 どこがなのか?

 いつからなのか?

 だから今は、黙ってて!


「まあ、じゃあ今後はともかく、今は目の前の案件をなんとか片付けることにしましょうか。あなたのいうように渋沢家の御曹司と違って向ヶ丘勇楢葉いつでも、別れたといえばそれですんてしまうわけだし」

「そういうわけだな、じゃあまあ、気に入られ過ぎてしまうかもとか心配せずに、今日は全力で仲良しアピールをするとして、……このあとどうしたら良いかな? 同級の友達同士でご歓談続けるだけで帰ってもあれだし」

「それは……」

「ちょっと待って!」

 私は、二人の会話がそれ以上続く前に割って入る。

 なぜなら、

「なんだよ」

「何?」

 それは、

「トイレ……はどこかしら」

 なんか緊張がとけたら、無性にそこに行きたくなってきたのだった。


 *


 生田家のトイレは家の奥の客間からほど近い場所にあった。

 廊下に出て、半分くらい開いた引き戸の奥にぎっしり本の詰まった棚が並べのが見える,、書斎のような部屋の前を通り、茶室のような畳敷きの部屋の先。突き当りにそれはあった。

 私は、首の周りにかいた粘着く汗を出て拭いながらトイレに入れば、——いつもどおり。そこで記憶が飛んだ。

 体入れ替わりのあとに適用されている謎の倫理規定。

 トイレとかお風呂とか相手が見られたら嫌だろうなと思うような、——入れ替わった相手に見られたらちょっとエッチかなって思うような事態の時には、記憶が飛んで、無意識ですべてがこなされる。

 まあちょっと、時にははみ出して、……あれがあれしたり、今日も朝とか起きた時に、なんだか男にはしょうがない(らしい)生理現象をパジャマ越しにガン見してしまったりもするのだけど、——大体は清く正しい倫理に従って私は記憶をなくして……。


 気づけば私はトイレから出た瞬間に我に返る。

「こんにちわ」

 そこには、あのとても怖い緑のおじいさんが立っていた。

「緑は……あんな性格の孫ですが、仲良くして上げてください。自分がが望むのは、あの子には普通の幸せを得て欲しいだけなのですが、……どうも頑張り過ぎてしまうところがあって」

 え? なんか話違うくない?

「この家のことなど、あの子の幸せにくらべたら小さいことなのに、……どうにも勘違いしてしまって、……自分はもこんな性格でうまく言えなくて」

 私は、その時、私らの作戦が、何か根本的な勘違いをもとに始めてしまったらしい。そのことに気づいたのだった。


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