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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、俺(トゥルーエンド)
332/332

私、今、女子リア充

「俺、今、女子リア充』ついに最終回です。皆様に支えられてついに感想できました。今ままで本当にありがとうございました。このあともしかしあらアフターストーリー執筆や、途中でプロットがおかしくなっているところの補足などはしようと思っていますが人まずは完結となります。また、作品の世界背景を同じとする作品「プライマル・マジカル・ワールド』https://ncode.syosetu.com/n7085dp/ の連載も開始しましたよろしければぜひご一読を。

 というわけで、あの銀河間での戦いから、あっと言う間に八十年後だ。

 この宇宙の命運を一手に引き受けるという、なんともありえない重責を果たしたからには、まずは地球に戻って、しばしの休息をと思っていたら……

 いつのまにかこんなに時間がたってしまったよ。


 でも、その長い時間を、ただの地球人——向ヶ丘勇として生きるべき平凡な人生をしっかりと真面目に生きた……つもりだ。多分。


 生来の怠け癖はそんな簡単に抜けるわけじゃ無いけれど、大学卒業後に務めた会社もなんとか定年まで真面目に勤め上げたあと、親の死も看取り、地域のボランティアをしたり、たまにはちょっと旅行したり……

 もっとああすれば良かったとか、こうすれば良かったとか、公私通していろいろと考えないわけでは無いが、それなりに充実して幸せな人生だったんじゃないか? 俺がもし最初の人生でトラックにひかれて異世界に転生するなんてことが無かったら歩んでいただろう人生を、過ごせたのだと思う。


 前世というか、別の宇宙での俺は宇宙スケールの冒険を何度もしていたし、この(・・)宇宙においても、宇宙全体に魔導回路を通じて操作するなんていう、すでに平凡とはほど遠い状況になっている俺が過ごした、平凡な日常が八十年も続いたというのは得がたい幸運であったとしみじ感じるのだ。


 とはいえ、別に平和な日常に飲まれて油断してたわけやないよ。いつでも暗きモノたちの襲来に備えて、宇宙にはりめぐらせた魔術回路が些細な干渉も俺に伝えてくれるようにしていたが、結局一度もその回路からの警報が鳴り響くことは無かった。

 

 まあ、しかし、それもそうかなって思うよ。

 何しろ宇宙を一個作り上げてぶつけてくるような準備をして、その上で暗きモノたちとその眷属たちの大群を送り込んできたのだ。

 それが壊滅した今、連中の大規模な侵攻は数百年は無理と俺は踏んでいた。しかし、小規模な軍団をくんで、ちょっとしたちょっかいくらいは出してくるぐらいはするかもと思っていたのだった。

 でも、何にも攻撃が無いどころか、そもそもこの宇宙に潜んでいた暗きモノたちもすべて虚無の中に逃げ帰ったようで、たぶんこの宇宙の歴史上で一番と平和な時代がこの八十年となっていたのだった。

 

 なので、


「まあ、平和で楽しく良い人生だったよね」


 喜多見美亜(あいつ)が病院のベットに寝転がる俺の横で話す。


「そうだな」


 点滴が差し込まれて体が思うように動かせない俺は、目をちょっと伏せて同意の気持ちを伝える。


「……今、あんたは平和とは言いがたい状況だけど」

「うむ……」


 ああ、そうだな。

 どうも。俺は危篤状態ということらしい。

 何でって……

 だって高校生から80年後だよ。

 普通なら(・・・・)こんな風になってもおかしくないよね。


 むしろ、


「不摂生の極みのあんたがこんな長生きするとは思ってなかったけど」


 言われるとおりでございます。

 私なんかがこの歳まで生きてる割に、


「緑も珠琴も十年前になくなったし……百合さんも五年前……稲田先生は百歳越えてピンピンしてるのすごいと思ったけどさすがに去年に……」

「下北沢花奈は短命ってよくいわれる漫画家にしては長生きした方だと思うけど、九十歳越えて連載持ってたりしたからさすがに無理しすぎだよな」

「花奈さん無くなったときは……編集者さんが、そこに逃げられたら原稿取りに行けないって悔しがっていたわね」

「編集者、血も涙もないなって思うが、下北沢花奈なら逆にそこに逃げたってことも考えられなくもないな」

「あんた、ひどいわね……っていいきれないとこが花奈さんは……」

「あと、萌夏さんは80歳こえてパーティで酒飲んで踊りまくってても平気だったのに、朝の散歩くらいでいきなり心臓発作ていうのもびっくりしたが……」

「美唯も心臓発作で……寒い朝でも庭で居合の稽古欠かさないから……やめとけっていったのに」

「ユウ・ランドはゲームが終了しちゃったもんだから、この世界との繋がりなくなっちゃって、今どうしてるかもわからないしな……」


「なんか……」

「ああ……」

「残ったのわたしたちだけになっちゃったね」

「そうだな」


 でも、


「……あんたもう一日持つかどうからしいわよ」

「そうだろうな」

「あたしたち二人だけなのも今日だけになるかもよ」

「そういうことになるな」


 歳を取るというのは、やっぱり寂しいもんだな。きづけば親しい人たちも、ひとりふたりと消えていってしまい、親しい人でもう残っているのは喜多見美亜(こいつ)と俺だけになってしまっていた。なんとも寂しい状況になってしまったが、


「なら、どう?」

「どうって……?」


「結局、あんた誰も選べなかったけど……何人の女性の人生振り回したかわかっている?」

「……」

「結局思わせぶりでみんなにいい顔して、だれも選ばない。そのせいでひとりとして結婚もせず、子供も持たず」


 ごめんなさい。

 としか言えない。

 俺なんかと関わったせいで……

 俺のことなんて見捨てて、もっと良い男と結婚してしまえばよかったのに。


「まあ、あんな体験したんじゃ、あんた以外の男と運命感じろって言ったって無理というものだし……やっぱりあんたのせいじゃない」


 体入れ替わりの騒動から始まっていろいろ親密になって、心を融合させて一緒に宇宙の危機を救う。確かにこんなこと普通の人生じゃ絶対出てこないよね。


「あんたが誰か選ぶならみんな納得して身を引くつもりだったのよ……もちろん私もね」


 それはわかるのだけれど……


「……まあ優柔不断なのはわかっていたけどね……一生かけても選べないか……」


 うん。よく考えるとひどいね俺。本当はいろんな未来や幸せがあったはずの人たちの一生を狂わせて……


「で……なら、どう? なのよ」

「どうって……?」

「まだ残ってるじゃない?」

「何が?」

「選べるじゃない?」

「何を?」


「わ……た……し」

「……」


「どうよ?」

「もう一日だけなんだろ?」

「明日まで持つことはないだろうってお医者さん断言してたよ……今、目が覚めたことだけでも奇跡だって」


「それで良いのか」

「なんで」

「一日というか、俺が意識失ったらそれで終わりなんだぞ。数十分……へたしたら数分間だけかもしれないんだぞ」

「いいじゃない」

「いいのか……」


「結局、あんたが選んだのは私だったってことが重要なんだから……一秒だって、それ以下だって構わないんだから」

「なるほど」

「もちろん、嘘ついてまでって言うわけじゃないよ。でもね……」

「?」

「他の女子たちの手前今まで言いにくかったんじゃないかなって思って」


「俺の本心をか?」

「そう」

「そうだな……」

「どうなの」


 あいつにしては珍しくちょっとしおらしく、不安そうな目で俺を見るのだが、


「決められない……もちろん喜多見美亜(おまえ)のことは大好きだけど……」


 やっぱり最後まで優柔不断な俺。というか、一生かけけてもどの女子(ひと)を選ぶとか言うことができなかったので、ここで喜多見美亜(こいつ)残っているから、


「……今、私を選ぶっていうのは無いよね。まあ、そうだと思う。私たち、人間の一生で選んだり選ばれたりっていう範囲を超えた状態になっているよね」

 

 がっかりしたような、いやむしろ安心したかのような顔。


「まあ、しょうがないか。期待してたわけじゃないけど……」


 なんて言ってよいかわからずに、黙るしかない俺。

 すると、


「じゃあ逆にさ。私に聞いてみたいことってある? この(・・)人生の最後に」


 なるほど、俺がこの(・・)人生で話すことができるのは、もうこの瞬間だけ。どうやら、今や手の施しようのない危篤状態である俺は、この話が終わればそのまま昏睡状態から死に至ってしまう状態らしい。

 ならば、逆に俺が今、話したいこと、



「それは……」


 俺がこの一生でずっと気になっていたことといえば、


「あれでしょ?」


 言わずともわかるよといった表情のあいつ。


「うやむやになっちゃたもんね……私に好きな人が前にいたかってこと」


 そう、そのとおり。

 それだ。

 銀河間宇宙での戦いの途中、思わぬ展開で女子トークが始まってしまい、昔好きだった人がいたかどうかなんて話に花が咲いていたのだが……

 ちょうどこいつの語る直前、戦いがそれどころじゃ無くなってしまっていたのだった。


 正直、無理に聞きたいわけでもないが、なんかもやもやと気になる、といった風な状態のまま80年がたってしまったのだが、


「そんなの、もっと気軽に聞けば良かったのにって……思うんだけど……私も何かあらたまると……なんかちょっと恥ずかしいけど……」


 あいつは、なんか考え込んだような表情になり、


「……まず答えを言うのは簡単で、私に、あんたと合う前に彼氏とかいたと思う?」


 ああ、それは、


「ないな」


 俺は即答した。


「だよね。私に入れ替わって、私のことを誰よりも理解した向ヶ丘勇ならわかってるよね」

「ああ」

「私なんて、とんでもなく嫌な女だった。人の目を気にして、どう見られるかばかり気にして……自分がどんどん自分じゃなくなっていくように感じて……」


 俺と入れ替わる直前の喜多見美亜(こいつ)は、容姿端麗、成績優秀で性格も良い、完全無欠のリア充として振る舞おうとして……本当の自分とのギャップに苦しみ、自分を失っていた。

 その前も、


「自分しか好きでない人に、好きな男の子なんてできるわけもないよね。なんで自分がこうなっていくかわからないまま……すごい恐怖だった。このまま私は何者にもならないお人形さんで終わるんじゃないかって……でも……」


 俺と入れ替わって、


「……いろんな事がわかった。変わった。こんなふうに自由に生きても良いんだとか。人のことを真剣に考えて助けることって、実は自分もそれ以上に助けられることとか……ともかく」


 喜多見美亜(あいつ)の目に薄っすらと涙が滲ませながら、


「私、あなたと会って幸せだった。この人生……少なくとも私にとって最高だったって自信をもっていえる……私……」


 俺の手を握り、


「私、今、女子リア充……」


 と言うのを聞きながら俺の意識は次第に遠のいてゆくのだった。


 そして……


 さらに五千年後。


   *


 俺、向ヶ丘勇は久々に地球に戻って来ていた。

 ついに再びこの宇宙に侵攻を始めた暗きモノたちを迎え撃つために、パーティメンバーを招集した緊急会議を行おうとしていたのだった。

 俺は会場となる太平洋の孤島で女子たち(みんな)の到着を待っていたのだったが……


 いや、ちょっと待て。

 おまえは、死んだんじゃなかったのかって?

 二、三十行前の感動シーンは嘘なのかって?


 いやいや、嘘はついてないよ。

 平凡な地球人、向ヶ丘勇として、俺は一生を終えこの世から旅立った。

 それは嘘じゃない。

 しかし、単に死んで消えられるほど状況は甘くはない。

 宇宙に魔導回路を張り巡ら一個の武器として利用できる能力を持つ男——俺は、敵との決着が済むまではこの世からいなくなるわけにはいかないのだった。


 俺の仲間にはローゼさんもオータスさんもいる。

 正直転生の秘技を使うことなんて容易なことで——最初からこうするつもりで、一度は自分のあるべき人生を生きてみたかったということなのだった。


 女子たちもそれは同様。

 このまま俺と永遠を過ごしてしまうことになることも厭わず、全員が不死者へと転生。

 新たな俺のパーティメンバーとなって、多言世界を飛び回ってくれている。


 で、今日は、そんなみんなが久しぶりに集まるのだが、


「ただいま」

「やっぱり、地球は落ち着くね」


 最初についたのは百合ちゃんと下北沢花奈。

 それぞれ、今の師匠であるロータスさんとローゼさんとともに会場入りであった。

 百合ちゃんは聖女としての才能を見込まれ、下北沢花奈は魔術的ともいえる芸術能力を伸ばすにはローゼさんのもとでの修行が有効と判断されてのことだった。


「萌夏さんと稲田先生はもう近くの銀河まで来てますがちょっと遅れるそうです」


 それはもう連絡入っていて、いまや宇宙的な音楽プロデューサーとしてあちこちの銀河からひっぱりだこ萌夏さんはなかなか予定を合わせるのが大変だったろうし、宇宙の教育格差の是正につねに銀河を飛び回っている稲田先生もそれは同様。


「緑さんも遅れるみたい」


 そりゃそうだよな。

 いまや汎銀河連合の初代大統領。

 実は連合の本部がある地球に彼女は常駐しているのだが、それでも、もしかしたらここにくるのが一番遅れるかもしれない大忙しの女帝であった。


「剣士二人はイクスさんと一緒にちょっと敵をけちらしてから来るそうです」


 ゲームの配信が終了してからつながりが耐えていたユウ・ランドであったが、墓の女子たちと同様にこの世界に転生。剣の師匠としてイクスに師事している。もうひとりの剣士とは、もちろん美唯ちゃんで、その居合の腕はすでにイクスも舌を巻くようなじょうたいになっていrそうだ。

 この脳筋三人は、どうも、地球に向かう途中に暗きモノの軍勢と遭遇したらしい。

 ならちょいとそいつらを叩き潰してからこちらに向かう……ということらしいが、あの三人ならあっという間だろうな。


「おっちょこちょい師匠と弟子のふたりは道に迷って宇宙の反対側に行ってしまったようだよ」


 おっちょこちょいというのは、もちろんフェムと和泉珠琴のふたり。

 そろって何も考えずに行動するのだが、ふたりが合わせて動けば、トリックスターとして宇宙を引っ掻き回す力は二乗、3乗と増えて行く。

 今では、虚無に向かうこの宇宙の運命を引っ掻き回して修正できるのはこのコンビなのではと思えるほどだが……

 到着は一番遅いかもな。

 迷うのがこの一回だけとは思えないし。


「あと……美亜さんは? 私たちより先についてたとおもいましたが」


 ああそれね。

 俺は百合ちゃんとしもきた花奈に目配せをすると立ち上がり、後ろの隣の部屋に続く扉を開ける。


「セリナさん……もう私あなたをこえたかな」

「何を言ってるのかしら……確かに時の魔女としての腕前はなかなかのものになってきたいるけど……一番の大事なところは私のほうがまだまだ上ね」


 一応、セリナと喜多見美亜(あいつ)は師匠と弟子の関係ではあるのだが、負けず嫌いのふたりは最初からライバルとして張り合っている。

 きょうもまた久々にあったらこの状態なのだが、この頃はかなり拮抗してきた魔術の他に張り合うものとして、


「勇タンを愛する心に決まっているでしょ」

「はあ、何を言ってるの? それこそ負けるわけないでしょ」


 なんだか怒鳴り合っているのに随分楽しそうなふたりである。


「そうだ……良いこと考えた」

「何よ……あ、(あんた)見てたの……そうか、良いことか」


 ふたりとも振り返り、俺を見て似たりと笑う。


「勇タンに判定してもいましょうかね」

「そうだね、あんた……」


「「どっちが……!」」



 ——ピシャリ。


 せまりくる宇宙の危機からは全く逃げる気のない俺であるが、この場はそっと扉を閉じるのであった。




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