俺、今、俺宇宙
おおこわい。こわい。
喜多見美亜が、すごい目で俺を睨んで説明しろと言っている。
でも顔を赤くて、なんかもじもじとしていて。
具体的に何を説明しろと言いたくないようだが、まあ、それはな、
「大事をなすためにしかたないことというか、今やってることの副反応というか」
「副反応? 何よそれ。ワクチンかなんかの話?」
「ワクチン……と言うなら、俺たちこそが宇宙に侵入してきた敵——ウィルスを迎え撃つワクチンだが」
「私達がワクチン自身だって言うの? なら、ワクチンが副反応に苦しんでいるというわけ?」
「まあ、そうだな」
「それおかしくない?」
まあ、副反応というのなら、ワクチンである俺たちが悩まされるのも確かにおかしいと思うが、ワクチンに副反応で苦しいですかとか聞いてみたこともないしな。もしかしたらワクチンなりに苦しんでいるのかもしれない……とか俺が思っていると、
「そもそも私達は、今、何をしているのかしら」
生田緑が喜多見美亜との会話に割り込んでくる。
あ、そりゃそうだよな。
当然の疑問だ。ワクチンが副反応で苦しむのかとかどうでも良い話をしてより、俺にはもっと女子たちに言わないといけないことがある。
円陣を組む前に、衝突してくる異宇宙から、これから俺たちがすることは、この宇宙を守るこというの伝えているが——それが具体的にどういうことなのか言ってなかった。
宇宙を救おうというとんでもないことを手伝ってもらっているのに、何をしているのか全く説明していないのもまずいからね。
でも、
「俺たちが今何をしているかの説明をするには……まずは宇宙とは何か? だな。それを説明しないといけない」
「宇宙が何か? それが何なの?」
なんかさらに怒った様子の喜多見美亜。
もっと切実な別のことで困って釈明を要求ているのに、いきなり宇宙が何か何だとか言われたらそういう反応になるよな。
「美亜、イライラしない。向ヶ丘くんも、さすがにこんな状況でふざけてるわけじゃないと思うわ」
さすが指摘が適切な女帝だ。
こっちも顔は少し赤いけど。
それは突っ込むと怖いから俺はスルーして、首肯しながら、
「宇宙とは……現在の地球の物理学の一説——超弦理論で言えば多次元空間の中に浮かぶ膜だな」
「やっぱ、怒って良い?」
「まてまて……確かに突拍子もない話に聞こえるが、本気で天才たちがそんな議論を行っているんだ」
もちろん、現代物理学の家庭がそのまま正解とはならないことを、前の生での多次元宇宙冒険で知っているが、今の議論のためにはおおむねその説明で良い。あまり話しすぎて歴史の強制力に存在を消されないようにしないといけない。
「その超弦理論と呼ばれる素粒子論では、本来は9次元か10次元である空間が俺たちの宇宙では3次元より大きい次元は小さく折り畳まれて見えない……となっている」
「あ、僕、その理論を作品の中で使ったよ」
結構SFものも執筆する斉藤フラメンコ先生こと下北沢花奈は超弦理論を知っているようだ。
「次元が折り畳まれてるとか、何言ってるのかいまいち理解できなかったけど、10次元の中に突き出た膜が僕たちの宇宙だって話聞いて、その設定いただき! って思って」
「……あんたが適当なこと言ってたんじゃないのね」
喜多見美亜も他の女子が同じことを言うなら信じるしかないようだが、
「これで男の膜がやぶれるって思って……」
「……」
どうも下北沢花奈はBL作品描いたように思えるがふかうは聞かないでおこう。
それよりも、
「……高次元空間に突き出た膜が宇宙とすると、その膜と膜は意外と近い……へたしたら数センチなんていう説もある」
「数センチ! 宇宙同士がそんな誓いと危なくないの?」
女帝と百合ちゃんの言うことももっともだが、
「いや宇宙はそんな簡単に動くものじゃないので数センチでもそんなに……というか何兆年たってもぶつかるようなものではないが、だからこそ……宇宙なんてものを動かして衝突させようとしている敵の力は信じられないほど強大だといえる」
「でも、そんな敵と今戦おうとしているんでござらぬか?」
「そんなのに勝の無理じゃない? ローゼさんでも無理だってさっき言ってたよね」
ユウ・ランドと和泉珠琴が心配そうな顔。
まあ、その通りだ。
多元宇宙全体を見渡しても有数の力を持つ闇魅や暗きモノたちを手足として使う超越した存在。その力は宇宙を作り衝突させるほどものもので、正直今の俺たちがまともに戦っても勝てるような相手ではない。
「でも勇お兄ちゃんは……何か手を考えているんですよね」
美唯ちゃんの言う通り。
「その手のせいでの副反応だ……」
俺は首肯しながら言うのだった。
この宇宙を奴らの目指す運命から切り離す!
そのために、俺と女子たちの張り巡らされた魔道回路と因果を通じて、宇宙のコントロールを得ることなのだが……
宇宙と一体になっていく、歴史を思い返す過程で、女子たちはいろいろなことを思い出すことになってしまっているんだよね。
こっ恥ずかしい思い出とか。




