俺、今、俺 それは宇宙?
闇魅最後の攻撃は……宇宙!
って……
いわれても何じゃそりゃと思う人がほとんどだと思う。
ブラックホール、ストレンジ物質。
この戦い今までに出てきたものを思えばそれ以上のもので出てくるとしたらもうそれくらいしかないかとおもわないでもないが、
——宇宙はないだろ!
でかすぎる。
というか、宇宙って言われたらそりゃなんかでかくてすげえと思ってしまうかもしれないが、実際衝突したら何が起きるのか、そこからちょっと疑問じゃないか?
宇宙っていうとものすごいものがぶつかって来たという風には思うけど、宇宙って星のないところはスカスカなんじゃないかって思わない? もちろん天文学的なレベルの時間と空間で考えたならば宇宙どうしの衝突は大きな乱れを引き起こすのだと思うが、少なくとも今の俺たちの戦いへの影響は無いんじゃないか?
だって……宇宙とかいきなり考えると大変なので、まずは銀河と銀河の衝突。宇宙そのものに比べたらずいぶんと密に星や物資の満ちた空間である銀河。それが衝突したらどうなるか考えてみよう。
ていうかね、どうなるかっていったら、こうなりますが答えなんだよね。今の地球の状態がそれそのものだと。
どういうことかというと、今の我々の天の川銀河系って、別の小さな 銀河と衝突中なんだよね。それでも今地球の生活には何にも影響ない。地球ともっとも近い恒星って4光年以上離れてるよね。銀河中心の星が過密になっているところではもっと密集してるし、銀河平均では1光年とかと聞くけれど……
どちらにしても、宇宙全体からすれば物質が大きく密集している場所である銀河にしたって、星と星の間はすかすかで、衝突したところでよっぽど運が悪くなければそのまますり抜ける。実際、今、天の川銀河には矮小銀河が何個もぶつかっている途中のようなのだが、地球は特にどうともなっていない。
ましてや宇宙そのものがぶつかってきたのなら、天文学的な観点での影響はとてつもないとしても、今の戦いに対してはほぼ影響無しといっても良いのでは……
さにあらず。
「まずいのじゃ」
大人の見た目に戻ったローゼさんが深刻そうな表情で言う。
さっきまでのゆるキャラ形態のままだとまるで緊張感が無かっただろうが、今のローゼさんの表情は事態の深刻さを正確に伝えてくれる。
「宇宙の終わりに……いや奴らにとっての始まりになるかのしれぬのじゃ」
現代地球の科学でエピクロティック宇宙論というものがある。宇宙というのは十次元空間に浮かぶ三次元空間の膜であるという超弦理論の仮定から、その膜、つまり宇宙どうしがぶつかる事によりビックバンが起きるという説である。さらにサイクリック宇宙論というものでは宇宙どうしがぶつかる前に量子サイズまで
縮むとか……人間の想像力って果てしないなと思わせる理論である。
この理論が当たっているのか外れているのかは、前の人生の時に答えを知っている俺も、下手に話して歴史の矯正力の禁忌に触れるのがいやなのでなにもコメントすることはできないのだが、
「我々の宇宙を消し去る宇宙ぶつけてくるつもりね」
セリナの言うとおり。将来の我々の宇宙の運命は置いておいてm闇魅の引き寄せた宇宙は、俺たちの宇宙にとってものすごく危険な宇宙だった。
俺は、こちらのあわてぶりをあざ笑うような嫌らしい表情の闇魅を見ながら言う。
「このままだと飲み込まれるな……あの宇宙に」
迫りくる宇宙は俺たちの宇宙とは物理法則も魔導法則もまったく別のものであるようだった。その宇宙を構成するのは俺たちの知る物質でなく、俺たちの宇宙の法則を書き換え、消滅させるように入念に仕込まれた素粒子たちが、今にも魔方陣から漏れ出しそうになっていた。
「あんな宇宙……闇魅ひとりで作り出すのは無理だよね」
フェムの言うとおり。いくら神に等しき物質創造能力を持つ闇魅とはいえ、宇宙を、それもこんな都合良く俺たちの宇宙を消し去るように設計されたものを作りさせるとは思えなかった。
「つまり、あの宇宙を作り出した奴が、私たちが探している本当の敵と言うことですね」
ロータスさんの言葉に俺は首肯する。
すると、サクアさんがメイド服を腕まくりをしながら、
「それじゃ、さっそく闇魅共々あんな宇宙はぶっ壊して裏にいる奴に向かわないといけないですね」
「ふむ。ただ実際問題、あれを我らはそれをきるのかな? なのじゃ。さすがの妾たちも宇宙が相手だと荷が重いとは思うぞえ」
ローゼさんが俺を試すような目で見る。
確かにそのとおり。
「……ここは一度引いて別の宇宙で反撃を気するという方が利口だ。いくら俺たちでも、あの宇宙に取り込まれてしまたら瞬く間に虚無にかえされてしまうと思う」
いつのまにか俺たちはチェックメイトされていた。闇魅と暗きモノたち、そしてその背後の連中が今回は俺たちより用意周到だった。であれば、この場の勝利にはこだわらず、別の宇宙に逃げた方が良い。
今までの冒険で散々多元宇宙を渡り歩いた俺たちにとって、女子たちもつれて別の宇宙に移ること自体はたいしたことではないのだが……
「みんなと過ごしたこの宇宙を無になんかさせるわけがない」
俺はじっと俺を見詰める女子たちに向かってそう言うのであった。




