俺、今、俺反撃中
で、闇魅の攻撃を前に、百合ちゃんと下北沢花奈の手をぐっと握る俺に……
——ええ?
とっいった顔になる女子二人。ブラックホールだ、ストレンジ物質だと、地球の終わりがすぐ目の前にあるような戦いの最中に、いきなり手を握られたら戸惑うだろう。もしかしらた、俺がびびって、不安でこんなことをしてるおかと思われてしまうかもしれない。
これこそが今の俺たちの最大戦力だ。
さあ、
「俺たちであれをはじき返すぞ」
「「?????」」
と言われても何が何だという顔をしているな。
でも、大丈夫だよ。
実際、二人とももうわかっている。
「あれ、なんか変な感じがします」
「……僕も。なんだ、これ?」
まだそれを言葉にできなくても良い。
ただ感じるまま、手伝ってくれるだけで良い。
「なんか……暖かい」
「でも、なんか怖いような……」
「あれ、空が!」
和泉珠樹がびっくりした声で言う。
「消えている。あの変なものが……」
「本当だ」
俺が手を離すと、百合ちゃんと下北沢花奈は驚いた表情で空を見る。
自分たちが何かしたのをなんとなくわかっているのだろう。
そのとおり。
二人のおかげで空いっぱいに広がっていたストレンジ物質は消えて。
「何か降ってる? 雹?」
空から落ちてくるのは、一瞬、雹かあられかと思うような、キラとキラとした粒であるが
「違うな。あれはダイヤモンド……に変えてみたよ」
「ダ……ダイヤモンド!」
この間ローゼさんから巨大ダイヤモンドをもらって(今の地球では使えないけど)、ダイヤモンド欲は収まったはずなのに、思わず一歩踏み出しながら言う和泉珠琴に、
「外に出たら危ないぞ」
と俺は言う。
「え……」
本気で、結界に向かって無意識で数歩進んでしまっていた和泉珠樹は、慌てた様子で振り返って、
「そんなつもりは……」
ありありのようだったが、
「……外に出たら、私たちなんて瞬殺なんでしょうね」
「うん……あ……ひえっ!」
俺が和泉珠樹に頷くと同時に、空から雷光が降り注ぎ結界の周りに降ってきていたダイヤモンドは消し炭となる。
もちろんそれが落ちた結界はなんともない。
ブラックホールに耐えていた結界が、雷ごときでなんとかなると闇魅も持っているわけでは無いと思うが、頭にきて文字通り雷落としたんだろうな。
その閃光と衝撃に和泉珠樹はすごいバックステップで俺の後ろにかくれてしまったけど、
「向ヶ丘君、今『変えてみた』って言ってたけど、そのままの意味?」
こんな時も沈着冷静な生田緑が問う。
首肯する俺。
「それは……向ヶ丘君は物質を変成させる能力があるっていうこと?」
今度は首を横に振る俺。
結果的に言えばその通りであるが。
正確に言うならば、
「こういうこと」
俺は生田緑の手を握る。
「え、私も……」
後ろにいた和泉珠琴の手を握る。
「あ、なんか、自分が広がっていく……」
「……宇宙になっていくように感じる」
危ない人のような発言だが、それはおういうもんなんだよね。
今は、説明している暇は無いけど。
二人の力を借りて、
「何あれ?」
「空にでかいハンマーみたいなものが」
「ふりおろそう」
「「はい……え」」
空に突如出現した大きなハンマー。
それは雷を纏いながら闇魅に振り下ろされる。
「あれ?」
「私……私たちがやった?」
ハンマーを操った感覚が有ることに不思議そうな顔をして、俺を見る二人。
それに首肯しながら握った手を離す俺。
そのとおり君たち二人があれをやったんだよ、
しかし、
「ずいぶんダメージは与えたと思うけど……闇魅はまだ戦う気満々だな」
体のあちこちが吹き飛んでボロボロになりながらも、まだ目には闘志を浮かべ、虚空に手を入れてまた何かだそうといている。またブラックホールなのかストレンジ物質なのか、はたまた別の危険な物質なのかわからないけれど……ださせてたまるか。
俺は並んで立っていたユウ・ランドと美唯ちゃんのところに行き、二人の手を握る。
「なんか……わかります」
「拙者もできそうでござる」
武道の心得のある二人は俺がやろうとしたことを瞬時に理解してくれたようだ。
空には大きな刀が現れ、
「はっ!」
美唯ちゃんの気合い一閃。
刀は闇魅の手を切り落とす。
「まだでござる」
しかし瞬時に手を再生する闇魅。
というか、こっちが本命だったか、三本目の手を腹から生やして、自分の胸に開けた虚空から何か取り出そうとするのだが、
「斬!」
空中に突然現れた聖剣が闇魅の体を真っ二つにするが、
「やったか……でござる」
だから『やったか』禁止だってと、俺は心の中で思うのだが、
「女の人……死んでない」
稲田先生が言うとおり。
分かれた闇魅の体からうねうねとした触手が何本も飛び出して絡み合い、元通りに再生していく。
「怒っているよね、あれ」
萌夏さんの言う通り。
完全に感情が死んだ目をした闇魅。
これは怒り心頭で何をするかわからない状態だね。
多分この後、闇魅が今回用意した最大の攻撃が行われる。
でも、となると、これ以上は……
俺たちはともかく、地球が危ないかもしれない。
ならば、
「あ……」
「やっぱり次は私たちの番ね」
稲田先生と、萌夏さんの手を握った俺は、二人の力を借りて、
「何? ここ?」
俺の後ろにいた喜多見美亜が、一瞬で周りの風景が変わったことに気づいて言う。
「ここって……宇宙?」
その通り。
闇魅との戦いには狭すぎる地球を遙かに何十億光年離れた、遠慮せずに奴らを思う存分にたたきのめせる場所に俺たちは移動したのだった。




