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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、俺(トゥルーエンド)
316/332

俺、今、俺超重力対処中

 さてさて、ブラックホールのメテオクラッシュである。

 闇魅がその物資創造能力で準備した凶悪な攻撃であった。

 なにしろブラックホールである。

 そうブラックホールと言えばあれである。その周りに広がる事象の地平線内にはいったならば、光さえ逃げ出せないこの世の行き止まりである。

 太陽の数十倍以上の大質量の恒星が爆発するときに質量が一点に収縮することによってできる宇宙の特異点。中には太陽の何十万倍、何億倍の質量をもった巨大ブラックホールも存在し、銀河の中心の質量となっていたりするようだが……

 別にそんなどでかいものでなくても普通のサイズのブラックホールが地球に近づくだけ地球は飲み込まれて消滅である。

 もちろん今地球の上に立つ俺たちもである。


 でも? なら、闇魅たちだって飲み込まれるんじゃない? と思わないだろうか。


 もし太陽の50倍程度の質量のブラックホールが現れたのならその事象の地平線——シュワルスシルト半径は150キロメートルほどにもなる。

 空高くふんぞり返っている闇魅でああるが、その距離はさすがにそんなにはない。

 もし俺たちに宇宙にあるブラックホールをぶつけたならば、その中に自分も飲み込まれてしまう……とはならない。


 一つは、闇魅も俺たちも重力魔法を相当のレベルで使えるためブラックホールにとらわれないような反重力を制御することができることだ。中に落ちてしまっても、重力を制御して逃げ出すことができるからだ。光さえ逃げ出せないブラックホールとは言っても、それは超重力があってのもの。重力そのものを操作できる能力を持つ物には決定打に至る攻撃とはなり得ない。

 しかしだからといってブラックホールの重力に捉えられて良いというわけではない。

 重力を制御できるといってもブラックホールのような特異点で行動しようとしたら、俺たちでもさすがに動きに制限を受ける。

 その隙が命取りとなる。


 闇魅も同様なので、シュワルスシルト半径の中に自分が入るような愚はおかさないというわけだ。


 なので彼女が創造し地上に落としてくるのは、恒星の爆発ではできない半径が数百メートルクラスの扱いやすいブラックホールとなるが、小さいからと言って危険度が減りはしない。重力に飲み込まれてしまえば、極限の一点にまで収縮されてしまうのはブラックホールが大きくても小さくても同じ。

 むしろ、大きいのが一つ落ちてくるより、小さいのがいっぱい落ちてくる方がたちが悪い。 

「とりあえず最初のほう消しとくね」


 フェムが魔方陣を空中につくり、その中に入ったブラックホールを絵に変えて燃やす。妖精幻術にかかればブラックホールのひとつやふたつなんてこともないのだが、


「……あわわ、ミスっちゃった」


 十、二十となるとさすがに手に余る。

 何個かのブラックホールが幻術を逃れて、地表に近づいてくる。

 幸い時間が止まってるから、事象の地平線内に地面が地球が飲み込まれたりすることはない(時間が動き出せば吸い込まれるだろうけど)のだが、そのまま地面に衝突したら、その質量は人類絶滅クラスのエネルギーが放出されてしまう。


「大丈夫よ」


 セリナの手元から魔力線が飛び出してフェムが仕留め損なったブラックホールに到達する。

超加速(スーパー・アクセル)


 セリナが短く詠唱すると、ブラックホールはあっという間に消え去っていく。

 蒸発したのだった。本来は永遠ともいえるような時間がかかるブラックホールの蒸発を、時間を超加速させることによって瞬く間に起こす。その周りの空間だけ、時間が進み、冷えた宇宙の中でブラックホールが消える。

  

「セリナありがと。あたしも気合い入れて……」


 闇魅がさらに落としてくるブラックホールをさっきの何倍もの魔方陣で包みこみ、


反転迷宮(リバース・ラビリンス)


 吸い込まれたブラックホールは、


「行けええええ!」


 空の闇魅の間近に現れ、そのまま降り注ぐ。

 自分が放った必殺兵器が闇魅に集中したのだが、


「やったか?」


 おいおい。その台詞禁止だろ。

 

「……やっぱ無理か」


 大爆発の後の空には、なんてことなさそうな顔の闇魅。

 まあ、でもこんなもんだろうとは思ってたけどね。

 闇魅の後ろにはぽっかりと虚空が開きブラックホールは膠着円盤を激しく発行させながらその暗闇の中に吸い込まれていく。

 重力子の創造によるブラックホールの誘導を瞬く間にやってのけた闇魅であった。

 フェムも、あいつならこのくらいはするよねと納得顔。

 しかし、


「さすがにブラックホールは弾切れのようね」


 セリナの言葉の通り闇魅の攻撃は一時休止。

 もう手持ちのブラックホールも無いのか、苦々しげな顔で俺たちを睨めている。


「けど、これで終わりってことは無いよな……」


 そうじゃないと良いよなと思いつつ。

 闇魅がにやりと笑うのを見て。

 そりゃそうだよねと、緊張して身構える俺であった。

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