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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、俺(トゥルーエンド)
314/332

俺、今、俺仇敵分析中

 闇魅(ヤミ)——かつて俺たちと一緒に多元宇宙を駆け回った元パーティメンバーにして現在の最大の敵。

 この女について語り出すと、様々に絡み合った因縁や事件が次から次へと重なって、とてもじゃないが簡潔にわかりやすく説明なんてことはできない。なので、その辺は機会をあらためて語らせてとなるのだが……

 今回偽のイクスを創造した闇魅の能力について、まずは話しておく必要があるだろう。


 といっても、彼女の能力もまた、ちゃんと話し出したならば、宇宙の創世の謎に迫るような複雑な話が様々に絡み合うのだが……誤解を恐れずに、ごくごく簡単に話すならば——それは物質創造の力と言ってしまっても良い。

 無から有を作る力、へたしたら神の定義そのもののようなの能力を闇魅は自在に操るのであった。


 有りえる物ならば、基本的に、闇魅は何者でも作り出せるということだった。

 物理的存在でも魔法的存在でも。

 もちろん、神のごとき力を持つ闇魅とはいえ全能の神ではないのだから何もかも創りだせるわけではない。問題は彼女がそれにたどり着ける(・・・・・・)かどうかだけだ。


 少し考えてみてほしい、あなたがもし水素と酸素、炭素、カルシウム、リンその他微量の元素を与えるので人間を作り出してみろと言われたらできるだろうか? これらは人間の体を構成している原子たちであるので、原理的にはこの原子たちの組み合わせで人間の体を作り上げることができるのだろう。

 けれど——あなたにそんなことができるわけがない。


 生物というのは原始をただ適量を並べたら自然に発生する訳ではない。

 体の元になるタンパク質どころか原子がくっついてできる分子さえただ並べただけでそのままできあがるわけではない。


 だが闇魅にはそれができる。彼女が少し顔をしかめる一瞬のうち、あなたのまえに目の前には、人間でも虎でも、伝説の竜だって創り出されることだろう。


 無から(エネルギー)を引き出し、それを物質に変え組み合わせて求める物を作り出す。それこそが多元宇宙広しといえど他に例のない類い希な闇魅の能力であった。

 そもそも、原子をつくるのだってただ事でない。クォークの相互作用をちょっと間違っただけで破綻する微妙なものであるのに、その後にマクロレベルの物質を作り出すのに必要な計算量といったら。そのためにある宇宙一つをまるごと量子コンピュータとして制御する彼女だからこそできる奇跡であった。

 そして、この奇跡により彼女は多元宇宙最強の一角をしめる存在へとなったのだったが……


 いやいや。

 一角?

 そんな表現で良いのかと思った人もいるだろう。

 闇魅はまさしく無敵なのではないかと。


 もし強大な敵が攻めてきたら、その敵以上の強大な見方を作り上げればよいのだ。

 ならば彼女の敵など存在しないのではないか。俺たちのパーティメンバー全員を一人で倒してしまって、多元宇宙を蹂躙することだってできてしまうのではないか……


 しかし——そうはならない。


 神に等しき闇魅とはいえ、あくまでも「等しき」だ。等しきとそのものの差は、果てしなく遠い。もし、無限に時間をかければ何物でも生み出せるにしても、あくまでもこの世の存在である彼女にとっては、創造にかかる時間とそれが必要な時間が足かせになる。

 実は、その制限ありで戦った場合、俺たちの中で単体で闇魅に負けるのは……俺くらいか。 まあ、俺、戦闘タイプじゃないしな。

 頭脳労働者……ってことにしておこう。


 ともかく、闇魅は自分の限界はよくわかっていて俺たちに対して攻めてくるときには入念な準備をしてくる。襲撃してくる時は必ず事前にエグい創造物(クリーチャー)とか、物理で殴る用のブラックホールだとか色々てんこ盛りで現れる。

 ここぞという時には、今回のように、暗きモノたちの軍勢を引き連れて宇宙を一つ消滅させる勢いで攻め込んでくる。


 だがそんな闇魅にだって、簡単にやられるような俺たちの仲間ではない。

 絶対でなければ。可能性が少しでもあるのならば。

 今までも必ず俺たちは勝利した。

 結局。無から有を作るといえども、結局有るモノしか用意できない闇魅に、不可能を安濃とする俺らが負けるわけがない。


 はずであるが……


「今回はちょいとヤバいのじゃ」

「闇魅が一人なら影たちが何億匹いたってローゼ様の敵じゃないのですけど」


 ローゼさんとサクアさんが少しでも緊張している様子なのは本気で珍しいというか……それこそヤバい。ヤバすぎの今の状況を表している。


「イクスさんの偽物といっても、あれは相当再現度高いようですね」

魔剣プライマル・スクリームも持ってるよね、あれも偽物だろうけどヤバそうだよ」


 ロータスさんとフェムも真剣な表情。

 そうだね。魔剣を持ったイクスというのは絶対的な強者以外の何物でも無い。

 俺の魔導技術の粋を集めて作った、次元さえ切り裂く剣。

 イクス以外の誰にも使いこなせないじゃじゃ馬であるが、逆にイクスが使うならばこの世の何物よりもやっかいな凶器となって、


「来るのじゃ!」


 天空の偽イクスが剣を上段から振り下ろす。

 その瞬間、時空を切り裂く波動が放たれて俺たちに到達する瞬間、


絶対聖域(サンクチュアリ)!」


 ロータスさんの最強の防御聖域によって魔剣の攻撃を防ぐ。


「まだだよ。無限迷路インフィニティ・ラビリンス!」


 ロータスさんの聖域がひび割れた瞬間に打ち込まれた第二撃をフェムの精霊魔法で迷わせて遙か彼方の空間に誘い込んで回避する。

 俺たち相手にこの程度の攻撃が通るわけがない。


「まずいよお母さん。あの偽物完成度高いよ……消えないよ」


 しかし、このくらいでは向こうの攻撃も終わらないようだ。

 攻撃を何発か仕掛けたら偽物は消えるとセナは思っていたようだがまったくそんな様子はない。

 確かに闇魅は攻撃力が高いが存在時間の短いクリーチャーを良く攻撃に用いたりするが、この偽イクスにそんな欠点はないようだ。


「相当、時間をかけて偽物を作り上げたようね。この宇宙に入り込めなかったのを好機と捉えて、自分のものとなるイクスさんを作ることに全能力を集中したのかもしれないわ」


 セリナが、ちょっと感心したといった表情で言う。

 自分が俺を蘇らせようと時間のループを重ねたその裏で、同じようにイクスの再現を行わせようとした敵に多少尊敬の念を抱いたのかもしれない。


「……でも、偽物で満足している奴なんて、私は許せないわ」


 結局は相容れないんだけどね。


 ちなみに、闇魅が、俺が時間ループを続けたこの宇宙に入り込めなかったのは、セリナやローゼさんがこの地球にある以上の魔力を使えなかったのと同じ理由——歴史の矯正力のせいだ。

 本来のあるはずの歴史に闇魅というイレギュラーは入り込むことができなかった。もし無為やりにでも現れたなら、いかに暗きモノたちと共闘する彼女であっても虚無の中に取り込まれてしまったであろう。

 そして、今、俺たちが力一杯の魔法をはなてているのと同じように、闇魅もまたおれたちのこの後の未来に関して制限無く介入できるようになっていたのだった。


「何? もしかして危ないの?」


 何度目かの偽イクスの攻撃をサクアさんが拳で粉砕したのを見ながら喜多見美亜(あいつ)が言う。 いや、正直俺たちにはまだ余裕があるし、闇魅たちの方も、本気の本気をぶつけているというよりはまだまだ様子見の感じがする。

 でも、


「……なんかすごいね」

「うん」


 呆然とした様子で力と力のぶつかり合いで極彩色に輝いた空を見ながら和泉珠琴と下北沢花奈が言う。


「私たちがどうこうできるものではないのはわかっているけど」

「足手まといじゃないかと心配です」


 女帝(生田緑)と百合ちゃんは申し訳なさそうな表情。


「……!」


 美唯ちゃんは剣を構えたまま、少し足下がふらふらと怪しい感じだが必死に空を見詰めている。


「拙者も力足らずでござるが……」


 ユウ・ランドはその横で、こちらはさすがに見事な構えで、さすがに偽イクスや闇魅と戦えるとは思っていなさそうだが、暗きモノたちの一体でも紛れ込んできたらすぐに切り捨てようと思っているのだろう。


「年上のわたしが頑張らないととは思うけど」

「いざという時にはみんなの盾になるつもりですが……そういうレベルじゃないようですね」

 

 年上の自分たちが弱音をあげるわけにはいかないと思ってキリッとした様子の萌夏さんと稲田先生。


 みんな、こんな世界の終わりみたいな状況見せられて、気絶したり腰がぬけたりしないだけでもたいしたものだが、自分たちが何もできないことにやはり悔しさを感じているようだ。

 しかし、


「いよいよ……みなさんの助けがいるような状況になってしまったようね」


「「「「「「「「「……え?」」」」」」」」」


 セリナに言われたことの意味がわからずぽかんとした顔になる女子たちなのであった。


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