俺、今、俺 偽物解析中
俺たちの……かつて多元宇宙一と言われたパーティのメンバーはかなりのくせ者ぞろいだった。
普段から明らかにやばそうなオーラ出しているローゼさんとサクアさんのコンビ。
聖女様らしい温厚な物腰の中にも圧倒的な迫力を持つロータスさん。
この連中がとんでもない力を持つことは、今までの俺の言動から察してもらえているんではないかと思うが……
それは本当に規格外という言葉がふさわしい。
本気を出したら一人で宇宙を一つくらい破滅させることができる……というのも大げさではない。というかローゼさんは過去に本当にそれをやったことがあるらしいが、なぜそんなことをしたのか他、詳細は語ってもらったことがない。
いや聞きたくもないが。こわくて……だが。
ともかく、俺がいたパーティというのはメンバ全員が俺ツエーなんていうレベルじゃなかった。
大人しく弱そうに見えるフェムにしたって、変容の後は宇宙をまるごと呪殺できるようだ。こっちはさすがに、そんなことはしたことがないようだが『銀河一つくらいなら、テへ!』とか言ってたな。
セリナと俺も武闘派ではないが、時間や魔導具でローゼさんたちとまともに渡り合うことができる。なんともとんでもない連中が集まったのが俺の仲間たちなのであった。
しかし、そんな規格外の俺たちから見ても、戦闘力という面では規格外の奴がいる。
——イクスだった。
もちろん多元宇宙の冒険者としての総合的な力と言うことであれば、ローゼさんの魔法の応用力、ロータスさんの霊力の世の深淵につながる力とかはイクスに比べて劣るわけではない。他にフェムだってサクアさんだって、セリナも俺も、場面場面によってはイクスに勝るとも劣らない力を発揮できるのだが……
こと戦闘力ということならば、イクスは俺たちの中でも群を抜いていた。
たぶん残りのパーティメンバー全員で挑んでも、返り討ちにされる。
そのくらいの差があった。
現に今二人がかりでも、闇魅の迎撃に空に昇ったサクアさんとフェムが地面にたたき落とされてしまったのだ。
このまま、全員でかかっても結果は同じ。
それに、ねちっこい搦め手を使ってくる闇魅も相手にするとなると……
俺たちは大ピンチである。
イクスが本気を出してきたら、逃げる暇さえ与えられずに俺たちは一瞬で倒されてしまうだろう。
しかし……?
俺は頭の中にはてなマークがつきまくる。
「いてて……でも、なんでイクスが……変だよね」
神社の境内に大穴をあけて墜落したフェムが腰をさすり立ち上がりながら言う。
イクスがもし仮に俺たちを裏切るなんてことあっても、
「あの男が私たちを裏切るにしても……闇魅だけはないですよね」
サクアさんも立ち上がり、空に浮かぶ二人の姿を睨みながら言う。
「それにしても……闇魅がずいぶんとうれしそうじゃの」
「そりゃ最愛の人の横にいるのですからね。でも……」
「うむ、しかしじゃの」
「ええ」
ローゼさんとロータスさんは何か変なことに気づいた模様。
「……あれは違うわね」
「そうだな」
セリナと俺もそれに気づいていた。
あのイクスは、
「偽物だよね、あれ」
セナが同意を求めながら言う。
俺は首肯した。
「良くできてはおるのじゃがの」
「イクスらしさが全然無いですよね」
ローゼさんとサクアさんは顔をしかめながら言う。
「覇気、闘気が下品な感じに思います」
「パチモンのイクスって感じだよね」
ロータスさんとフェムが言う。
たしかに、なんか雰囲気が違うんだよね。
イクスがイクスとなった今までの経験がぬけてその戯画を見せられている感じ。
それが微妙に不気味さに、みているとサブイボが出てしまいそうなくらい。
不気味の谷の底のイクスを見ているようで。
だが、その横に浮かぶ闇魅はニコニコだ。
どや顔にさえ見える。
時々ちらっとイクスを見てはポッと顔を赤らめる。
「気味が悪いの」
なんか二人の世界に入って、こっちのことというか、そもそもの攻めてきた目的を忘れたのではないかとさえ思える闇魅であった。
「あのままちちくり合うのに忙しくて、ここから消えてくれれば助かるんですけど」
サクアさんは手でシッシッと追い払うような動作をしながら言う。
でも、
「まあ無理じゃろうな……まだじっとこっちの様子をうかがっているようじゃし」
ローゼさんが面倒くさそうに顔をしかめながら言う。
「あれは……なんかこっちを意識しるんじゃない?」
フェムがそう言うと、図星だったのかちょっと顔を背ける闇魅。
「自慢したいのかしら?」
「自慢って? 何を? お母さん?」
「イクスとイチャついているところでしょ」
開き直ったのか偽イクスにぎゅっと抱きつくと顔を擦り付ける闇魅。
「しかし、偽物にしても良くできた偽物じゃな」
「私みたいにホムンクルスですかね?」
「……違うんじゃないかな? あたしが感じる魔力はイクスのパターンとそっくりだよ。外見をまねたホムンクルスというようなものじゃない……」
「確かに、あれはかなりの執念感じます」
「そうだな……」
俺は、同じように真実に気づいたらしきロータスさんに向かって首肯しながら言う。
「……あれは闇魅の物質想像力を何回、何億回、もしかしららもっと多く繰り返して再現した闇の世界のイクス……そう闇魅イクスだ」
「なに? そのヤンデレ女」
「「「「「「え?」」」」」
みんな、さすがにお前が言うなと言った顔でセリナを見るのであった。




