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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、俺(トゥルーエンド)
311/332

俺、今、俺時間停止中

 さてどうするか?

 俺は黒雲が立ちこめた中に開いた虚無よりの入り口を見ながら考える。

 今にもそこからあふれ出てくるだろう暗きモノたちにどんな対処をとるべきかということを。


「出口を抑えるのは間に合いそうもないのじゃ」


 ローゼさんが言い、


「いつの間に侵入してきたんですかね。ローゼ様の遠見の使い魔をくまなくこの宇宙の結節点に配置して、見張りは十分だったと思いますが……」


 とサクアさんが続け、


「この間イクスさんが大軍団を撃退してすぐの侵攻ができるのかのも不思議ですね」


 ロータスさんがちょっと考え込んでいるような顔になる。


「妾の監視をすり抜けられるような少数で襲ってきても何の意味も無いことくらい奴らは骨身にしみてわかっているはずじゃからな」

「ローゼさん暗きモノたちには骨も身もありませんよ」

「たとえじゃ、たとえ。これだから冗談のわからない聖女は……」

「あら、この状況で冗談が言えているとはさすがローゼさんは余裕ですね。さすが存在自体が冗談のようなものだけのことはあります」


「は? 冗談で宇宙を滅ぼしかねないロータスに言われとうないわい……じゃが……」

「ええ、あの女が来るんでしょうね」


 セリナ言うと、


「うむ」


 ローゼさんが深刻な表情で頷き、


「ともかく……時間を止めます」


 あたりは静寂が支配して、空に開いた虚無の動きも止まる。


「何?」

「どうしたんでしょうか?」


 境内の様子がかわったことに気づいてキョロキョロとあたりを見回しながら、和泉珠琴と百合ちゃんが言う。


「魔法でござるな」


 剣と魔法の世界から来たユウ・ランドは何が起きているかに気づいたようだ。臨戦体制というような、真剣な顔つきになると、何もない空間から剣を二振りを出し両手でかまえる。


 セリナがきょとんとした様子の女子たちに説明する。


「時間を止めてあの……」


 空の禍々しい妖気の中心を指し示しながら、


「……侵攻も止めたのだけれど……こんなのほとんど足止めにもならないでしょうね。でも、これで、この戦いが地球の他の人たちには気づかれないようになった」


 暗きモノたちは時間を止めたくらいで止まるような連中じゃない。

 だが、時間が止まっていれば、この天変地異の様な騒ぎを地球の他の(・・)の人たちには知られないようにすることができる。

 それは今後の俺たち(・・)の地球での生活を考えれば十分に意義があることなのだが、


「あれ、それってつまり……」

「?」


 その意味に喜多見美亜(あいつ)が気づく。


「私は……私たち(・・)は、他の人じゃないってことよね」

「ええそうよ、強敵さん。この戦いを見ておいて欲しいの」


 セリナはもちろんというような表情で首肯する。


「別に時間が止まっていれば安全なわけじゃないぞえ……とはいえ、怖ければここから逃げても誰もせめないのじゃ」


 とローゼさんが続ける。


「停止した時間の方にいえば、全てが終わるまで何も知らないでいられますよ。セリナがそうしてくれますよね」

「もちろん」


 サクアさんのちょっとあおるような発言にセリナも同意。

 一瞬、何か考えたような表情となる女子たち。

 しかし、


「正直怖いけど……向ヶ丘くんのそばにいるというのはこういうことなのよね」


 怖いとかいいながらも、ずいぶんと落ち着いた口調の生田緑。


「そりゃ怖いけど……マンガの参考になるこんな絶好の機会を逃すわけにいかないな……それに僕も隣にいたいし」


 なんか本当に参考にする気なのかポケットから小さなスケッチブックを取り出した下北沢花奈。


「これ、なんかすごくない? ちょっと普通じゃない感じで、こんな体験する私なん特別な感じしない?」


 内心は怖さを感じているのかもしれないけれど、いつも通りの軽い感じでみんなを和ませる和泉珠琴。


「役にたたないかもしれませんが……私も向き合います。逃げるなんて……自分がゆるせません」


 心から、真摯に、事態に向かおうとする百合ちゃん。


「ランドさん、一本、剣を借りれますか……」

「ん……美唯どの……おお!」


 ユウ・ランドが異世界から持って来ていた剣を持つと、背筋を伸ばしスッと美しく伸ばし脇に構える美唯ちゃん。そういや居合いの達人だった。


「素晴らしく隙の無い構えですな! これは拙者も負けてはおられないですぞ」


 残りの一本の剣を両手で構え直すユウ・ランドは気合い十分。


「……お姉さんとしてはみんながこんな一生懸命なのに逃げ出すわけにはいかないわね。そうですよね、先生?」

「もちろん……生徒を見捨てて自分だけ逃げるなんてありえません」


 足をブルブルさせながらも、強い意志のこもった目で萌夏さんに向かって首肯する稲田先生。


 そして、


「それじゃ勇くん……パーティタイム!」


 萌夏さんの言葉がきっかけとなったかのように空が裂けて中から影たちがあふれ出した。

 時の止まった世界の中でも、そもそも時間も空間も無い宇宙が故郷と思われる暗きモノたちには止まった世界でも何か支障があるわけじゃない。

 ただ突如変化したこの宇宙の物理に自らを調整する必要があっただけであった。

 

 動き出した奴らはもう止まらなかった。 

 あっという間に空一面に虚無の暗闇が広がる。

 

「鬱陶しいやつらじゃ」


 ローゼさんが無詠唱で火球を飛ばす。それは、二つに分かれ、次に四つに、さらに八つに幾何級数的に増えて蒼穹を覆う虚無を焼き尽くす。


 しかし、一度消えた虚無は、すぐにまた空間の裂け目からしみ出して空一面に広がる。


「今度は私が」


 ロータスさんが聖なるの光を身にまとい、


「手伝うよ」


 フェムが精霊力をそれに加える。

 輝きはさらに増し、地上からの太陽のように空を照らす。


「やったか……」

「いやそれはフラグだよ。サクアさん」


 とセナが突っ込むと、


 そう、


「来るわ……」


 セリナが空の裂け目を指さす。


闇魅(ヤミ)


 俺は、そこから現れた仇敵の名前を小さな声でつぶやくのだった。


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