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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、俺(トゥルーエンド)
307/332

俺、今、俺到着中(神社へ)

 俺たちが向かった、この宇宙を消滅させるかもしれないという乱れの元凶。

 それは近所の何の変哲もない場所であった。


 って……いつもの丘の上の神社なのだが、


「……久しぶりに来ましたが……やっぱりすごい坂ですね」

 百合ちゃんが、息を乱しながら言う。

「そ……う……で……ちゅ……はあ、はあ……」

 下北沢花奈はなにか話そうとするがうまく話せないようだ。

「ここには、私あんまり来なかったかな? 勇くんは毎日のように来てたのよね? 結構……な坂ね……あ……これ、ちょっと足にきてる……」

 いつも踊って鍛えているパーティーピープルお姉さん萌夏さんでも、ちょっとよめきながら、きつそうな表情。

「……ここわざわざ来ようとはおもわないわ……ここ……用があるならしかたないけど……ここ……こ……いえ、なんでも……」

 クールな表情を崩さないが辛そうな女帝生田緑である。

「? みんなはなぜ苦しそうなのか?」

 さすがに、普段から実戦で鍛えられている異世界の聖騎士様は何の問題もなさそうだが、

「……はあ、はあ……」

 息もたえだえで言葉が声にならない稲田先生。

「……ここに歩いて登るのなら辛くないですが……走ってたんだよねお姉ちゃんたち……」

 美唯ちゃんは問題なさそうだが、そのとおり。歩いてたんじゃないんだよね、ここに来る時、俺たち。

「でも……歩いても無理……というかわざわざこんなとこで無意味にお腹すかせるなんて……」

 どうも体力よりも、空腹になることの財力への影響を気にしている和泉珠琴。

 ともかく、みんな勘弁してくれとい表情になっているのを見ながら、


「みんな自分の体に戻って……サボってたんじゃない(ユウ・ランドさんのぞく)」


 でまったく息も乱れていない喜多見美亜(あいつ)が言う。さすが健康バカ。自分の体に戻っても……いや、戻ったからこそダイエットのため健康のため自らを鍛えるのは欠かさない喜多見美亜(あいつ)であった。

 キスで入れ替った喜多見美亜(あいつ)と俺が、キスすれば戻るのかと思って……そのために使ったこの神社の境内。ここばかりでキスをしていたわけではなくて、他も、ジョギングついでに多摩川の河原とかでも多かったし、学校で入れ替ったんだから学校ですれば元に戻るんじゃないかと寄りに忍び込んでしたこともあったが……

「毎日のように、こんな丘の上まで好き好んでやってきていたとは物好きなものじゃな」

「ローゼ様の言うとおりです。魔法も使わずに坂を登って疲れて何が楽しいのですかね……あの怠け者の勇が反抗もせずにここに来たのも不思議です」

 いや、俺も好き好んでここに来てたわけじゃないぞ。

 入れ替わった喜多見美亜(あいつ)が、自分の体をなまけさせないため、負荷をかける運動に丁度いいと強制されていたんだ。

 ハードディスクを人質に取られて……

 ととちょっと遠い目になっていると、

「ん? なのじゃ?」

「勇よ、何かしましたか?」

 俺が嫌なことを思い出して顔が曇ったのを見逃さない二人、

「いや……」

 なんでもないので。

 こんな女子ばかりのところでそんな(・・・)話……

 喜多見美亜(あいつ)と入れ替わった時、俺のパソコンの中身をハードディスクにコピーされて、それを盾に、ジョギングはじめいろいろと強制されていたこと。

 その話は口外無用に。

 と思うと、ついついあいつのを方をちらっと見てしまうが、


「……ぷ」


 俺の意図を察してか意味深な顔になる。

「? 喜多見さんと勇タンがなんか目と目で話しててなんかやな感じというか……羨ましいというか……」

「そうだよお父さん。この泥棒猫となんかまだ秘密あったら許さないんだからね」

 違うぞ。やましいことは……なくもなくもなくて……だけど……思ってるやましいのとはちがうんだから、特に娘のセナに言われるとなんか妙に心にくるんだから。

「……なんか勇も苦労してたんですね……ふふふ」

困った顔をしていたら全てを見通したような聖女(ロータス)様が、慈愛に満ちながらも悪戯っぽい笑みを浮かべながら言う。

「思春期男子なら仕方がないのですので」

「おお、あの魔器の件じゃな!」

「男子の欲を詰め込むあれですね……」

 ローゼさんとサクアも気づいたようだ。

 前もそれっぽいこと話してたしな。

 やはり俺のかつてのパーティー仲間は鋭いとしか言えないが、

「?」

 セリナはいまいちピンときてないようだ。

 そういや、セリナが俺に本格的に関わり始めた秋口以降はハードディスクで脅されなければしないようなことが減っていたからね。喜多見美亜(あいつ)との波長があってきて、強制されてやるようなことも減っていた。

 ジョギングも、始めてみればだんだん楽しくなって、いくら急坂と言っても標高差100メートルくらいの、こんな坂を登るくらいじゃなんともないような体力も精神力もついていた。今は、あいつが鍛えた俺の体に戻っているから、こんな坂、歩くくらいじゃ息もほとんど乱れない。春までの不摂生の子デブ高校生だった春までの俺とのなんという変わりようだろうか。

 そう。俺は変わったのだ、変わったのだから。


「ハードディスク?」


 百合ちゃん……


「なんか前にそう言ったら……向ヶ丘君が美亜さんに従ってましたよね……毎日みたいにこの丘を登ったのもそのせいでは……と思ったのですが」

 はい。無自覚に意味もわからずこの言葉を言って俺を凍り付かせたことがありましたよね百合ちゃん。その時は話が別の方(喜多見美亜(あいつ)との仲の良さ)に向いて追求されることも無かったのだが、


「へえ、向ヶ丘がびびるハードディスクか……」

「珠琴、あんまり詮索することでは」


 和泉珠琴と生田緑がハードディスクの意味に気づいたようで、


「?」

「お父さんのハードディスク?」


 セリナとセナも神妙な顔になり、他の女子たちも、異世界から来たばかりでハードディスクの意味がわからないユウ・ランドを除いてなんか気づいたような顔。


 不味いよこれ。微妙にみんな気を遣ってくれてる雰囲気なのが帰って恥ずかしくて、これは一体どうやってごまかしたら……と思っていると。


「みんな、ちょっと何やってるんだよ!」


 フェムの言葉でみんながふりむく。


「……こんな時空の乱れを前にして何でそんなのんきなんだよ。これは本気で宇宙の危機だよ!」


 古色蒼然とした業物のワンドを出して、厳しい顔をして祠に相対している妖精の姿がそこにあった。

 お、これで、みんなの関心がハードディスクからこっちに映るかな?

 良いぞ! 宇宙の危機!

 と俺は思うのだった。



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