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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、俺(トゥルーエンド)
298/332

俺、今、俺女子騎士回想中

 相変わらずの生田緑の迫力ある言葉に一瞬しんとなった喜多見美亜(あいつ)の部屋であったが、


「私の……次はランドさん……なのね」


 ちょっと凄みを出しすぎたかなといった様子で当の本人の生田緑(じょてい)がフォローをすると、


「あ、そうでしたね……でも私達は彼女に会ってなくて……いえ、学校で美亜さんの中の人になってたのは知ってますけど……実際に会ったことはなくて……」


 百合ちゃんが、PCの画面に映ったユウ・ランドの姿をちらりと見ながら言う。

 すると、みんなの会話が戻って、

 

「僕はゲーム内ではあってるけどね……あ、会ったのは勇くんか……」


 まあ、俺が入れ替わっている時に下北沢花奈がロータスさんに助っ人に来たので会ってるのかそうでないかは微妙な感じだが……そもそも俺もゲーム内であったのは下北沢花奈でなく(彼女がアバターで使っていた)異世界の魔王だがな。


「あの時、私だけ知らなかったんだよね。美亜にいったい何があったのかと思ったわよ」


 ああ、和泉珠琴と入れ替わったのは、まだこの後だったので、喜多見美亜(あいつ)の中の人が異世界の聖騎士になったのは知らされてなかったんだよね。学校で繰り広げられた騒動については俺も後で聞かされただけなのだが、そうとういろいろあったらしい。


「まず口調が拙者だったのが……すぐやめさせたけど……」


 生田緑が思い出してもなやましい……というような顔で言う。


「そうそう、美亜が、向ヶ丘と仲良くなったせいか、なんかオタク化してるとは思ったけど、拙者はないだろさすがにって……」

「私は事情を聞かされてましたが……それでも……」


 しみじみ……困ったという顔で和泉珠琴と百合ちゃんが言う。


「隣のクラスでも話題になってたよ……後ろに立った男子が謎の体術で投げられたって……」


 ちなみに投げられたのは生田緑のせいで影が薄い不遇のクラス委員だった秦野くんだったとのことだ。次の週に予定されていた全員参加のボランティアゴミ拾いの周知プリントを渡そうと後ろから机にさっと手を伸ばした瞬間、気づけば宙を舞っていたそうだ。

 クラス内は一瞬騒然となったのだが、押しの弱い秦野くんは生田緑(じょてい)に『あれ、足を滑らしたのよね?』と何が何でも察しろといった顔ですごまれたら『はい』としか言えなかったとのこと。

 で、もちろんユウ・ランドがやらかしたのはそれで終わりでは無く、他にも、


「運悪く……火災避難訓練あったんだけど……あれもまいった……」


 自分の体で好き勝手やられたのを思い出して顔を少し赤くする喜多見美亜(あいつ)


「美亜が三階から飛び降りたんだよね……何事かと思った……」


 ユウ・ランドも、事前に、その日はあくまで訓練であることは聞かされていたのだけれど、


『火災の時にこんなちんたらあるいているなど考えられん』


 と言うと窓からひらりと飛び降りたそうだ。

 これも生田緑の圧力で、みんな見なかったことになって、先生とかにばれることはなかったのは不幸中の幸いとのことだが、


「……近くの高校の不良グループしばいたのもすごかったわ」


 俺たちの高校の男子生徒が別の高校の不良グループと駅までトラブっているのをたまたま下校途中に見つけたユウ・ランドが中の人として交じるいつものリア充3人組であったが、すぐに警察に電話しようとした生田緑がダイヤルを押す時間も無く、路上に取り押さえられた3人のいかつい男。

 女に手も足も出ないで負けた悔しさに、一度謝罪してから突然ナイフを取り出して脅してきたと言うが、


『素人がそんなものを使ってけがするぞ』


 とつぶやくと、不敵に微笑みながらさっと不良たちに近づいたユウ・ランド。また宙をまういかつい男たち。再度取り押さえられているうちに警察が到着して、不良たちはそのまましょっ引かれて行ったそうだ。


「ランドさんには……ああ言う連中に不用意に関わると、逆恨みされて大変だからってそのあと諭したんだけど……」


 思い出しながら疲れた目になる生田緑。


『ならば、今度は殺してしまえば良い。騎士に戦いを挑んだのだ、相応の責任はとっていただこう」


 とユウ・ランドは答えたそうだが、いやそれは過剰防衛と言うだろう、さすがに。

 この平和な日本でそんなことをしたら、たとえ正当防衛でも今あなたが走っている喜多見美亜(あいつ)の人生がめちゃくちゃになってしまうから勘弁して欲しいと懇願してなんとか納得して貰ったというが……


「あの不良の人たち、その後復讐とかにこなかったようですね。良かったです」

「そうね……」

 

 百合ちゃんの言葉にちょっと目を泳がせる生田緑。

 この事件の後処理に彼女の家の顧問弁護士である足柄さんが高校生をマジでチビらせるほど追い詰めた件は軽く聞いてはいたが、ここではこの頃、行動がますます乙女から離れていっている自分に悩んでるらしき女帝の沈黙を尊重しておく。

 それよりも、


「一番びっくりしたのは、あの体育館での事件だよね……あの時はなにやってるんだと思ってたけど……」


 本気でぞっとしたような顔で和泉珠琴が言う。

 なんでも、放課後帰宅前に、


『なにかいる……』


 と言い出した(喜多見美亜に入れ替わった)ユウ・ランドにつれられて、体育館の倉庫の前にきた生田緑と和泉珠琴。

 実は、かねてから、部活帰りの生徒とかのあいだで幽霊がでるとの噂のあったその場所は、夜という感じではないのだがすでに薄気味悪い。

 こんな場所には長居したくないと思っていた二人であったが、


『これは……まずいぞ』

 

 と言うと慌ててその場から走って去って行くユウ・ランド。

 生暖かい不気味な風が吹いてきて、気色悪いことこの上ない状態だったそうだが、


『これくらいしか用意できなかったが……今ならなんとか……』


 しばらくして戻ってきたユウ・らが手に持っていたのは、近くの神社あたりから拝借してきたらしき柄杓と松の枝、なにやら呪文らしきものを書いた和紙。


「美亜はいったい何をする気なのかと思ったけど……」


 喜多見美亜(あいつ)の中の人——ユウ・ランドは、柄杓と松の枝を両手に持って振り回す。倉庫の前で飛んだりはねたり、地を這ったり、空を殴ったりの大騒ぎのあげく、


『これでもう大丈夫だ……』


 倉庫の壁に謎の呪文が書かれた紙を貼る。

 その瞬間、なんとなく清浄な雰囲気にその場は変わったそうだ。


「あのときは美亜がおかしくなったと思ったけど、今思うと、あの時、あそこに何かいたのかな? 異世界の聖騎士様があんな行動をしたということは……」


 和泉珠琴はちょっと背筋をビクッとさせると、


「なるほど、だから今回はあれ(・・)がいなかったのね」


 セリナがなるほどといった仕草で手を叩きながら言い、


「あれ?」

「うん、和泉さん……あれはね……」

「?」

「世の中知らないほうが幸せな方が良いこともあるのよ。わかる?」

「……」

 

 そのまま震えながら黙るしかない和泉珠琴なのであった。


   *


「しかし私も会ってみたかったな、その聖騎士様に」


 その後もあれやこれ……ユウ・ランドに関する思い出話がいったん収まった後に、そう言ったのは経堂萌夏さんだった。

 夏の入れ替わりの後は、俺たちのドタバタに巻き込まれることもなくいた萌夏さんはユウ・ランドに会ったことはない。

 といっても、


「そういう意味では僕も会ったこと無いよ。本物には」

「あ、私もです」

「そうか、私もだね」

「私もよ」

「私も」

「あ、俺もか」


 喜多見美亜(あいつ)に入れ変わったユウ・ランドにはみんな会っているが、ユウ・ランド本来の体の完全体の彼女にみんな会ったことはない。俺も、ユウ・ランドになった(・・・)ことはあるが会ったことはないのだった。

 確かに、そういう意味では会って見たいな、俺が作り出した理想キャラの現実の姿に。


 と思っていたら、


「こんにちは!」


「「「「「「「「ええええええええええええ!」」」」」」」」


 机の上のPC画面の中からにゅっと出てきたのはユウ・ランド本人なのであった。


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