俺、今、俺謝罪を傾聴中
セリナの謝罪。それは、女子たちを、俺の復活のために利用したことにたいしてのものだった。
「ごめんなさい……勇タンと、あなた達の入れ替わりに偶然なんか一つもなくて……すべて私がしくんだことなの」
すでにセリナの今までの苦闘についてはここにいる女子はみんな知っていた。この間、廃部になった茶道部室で、俺を蘇らせるために繰り返した無数の時間についてはすべて隠さず話していた。
その場にいなかった萌夏さんにも、この場に呼んだ和泉珠琴が全て伝えておていたようだった。こんな突拍子もない話を、和泉珠琴にいわれて萌夏さんもよく信じたなと思うが、そもそも体入れ替りなんていう超常現象を経験したのだから、今更何を言われても驚かない気持ちとなっていたとか……
ともかく、セリナは、彼女が何者で、何をしていたのかは、ここにいる女子たちは知っていたのだが……一気に話して混乱してしまわないようにと、まだ話していないことがあった。それは、俺と入れ替わった女子たちは偶然にそうなってしまったのではなく、そうなるようにした犯人がいるということであって、
「……セリナさんのせいだったのか」
下北沢花奈はなるほどといった表情であった。
俺と喜多見美亜が入れくぁっていることを知ったきっかけ。なぜか丘を登りたくなって、俺と喜多見美亜がいつも隠れてキスをしていたあの神社までいってしまったことが、やはりしっくり来ていなかったようだ。
生まれてからずっとインドア派で体力が人一倍無いうえに、激務である同人執筆活動に少しでもそれを取っておこうと思っている自分が、なんであの日だけわざわざ急坂を登って疲れるようなことをしたのか、それがセリナのせいと知って納得のようだった。
「たしかに、セリナさんの正体を知ってしまった今となっては、花奈さんの気持ちをちょいといじるとか、経堂さんの倒れた先に偶然勇くんがいるとか、普通に操作できるんだろうなとしか思わないけど……何のためなのか……だね」
ただし、生田緑は別の疑念を抱いたようである。
全てを操作していたのがセリナなのであれば、なぜ彼女はそんなことをしたのか?
「それは……」
セリナは俺の復活のための繰り返しでどうしても解決できなかった必然について語った。それは、この宇宙における必然であった。
俺の前世……と言う言い方で良いのかはあるが、別の宇宙で、新たな宇宙の創造に巻き込まれて死んだ俺。不世出の時間の魔女セリナをしても、巻き戻せない違う時間の流れの中に溶け込んでしまった俺を蘇らせようと、この宇宙でセリナはループを続けた。
宇宙の中に薄く広く広まってしまった俺が偶然に収束して復活するのを期待して繰り返しを無数に行ったセリナ。
「俺」どころか、人も存在しない、地球もない……最初は物理法則さえ違う宇宙を前にしても諦めず、ひたすらに時間を巻き戻した。そのかいあって、彼女は元の世界とほぼ同じ歴史の流れる時間線をみつけた。ついに、「俺」と同じ向ヶ丘勇という人物が生まれる地球が現れた時、セリナは嬉しさのあまり泣き出してしまったという。
しかし、その「俺」は俺ではなかった。俺によく似た「俺」はなんど時間を繰り返しても、けっして俺自身とはならなかった。
因子は別れ収束しない。
それが必然であった。
繰り返しがたりないのではないか。そう思ったセリナは、物理的には似ているのだが決して俺自身とは違う「俺」に対し絶望をした。無限に繰り返しを行う覚悟はあったセリナであった。そんな彼女をしてであった。
目の前にゴールがあると思ったに、それは決して届かない彼方にあると言われたに等しいんであった。何度繰り返しても、到達できないその場所。それは、足りないのではなく、絶対的な断絶であった。
セリナがそれを知るのは、仲間とともに行ったある冒険の最中であるが、それはこの世界の俺のとはまた別の物語……
ともかく、セリナは、その冒険の中で決して到達することのないゴールをその冒険の中で得た解決方法——決して向ヶ丘勇に収束しない因子を持つ女子たちの人生を俺に経験させることで、俺の真の復活を得られることを知るのだった。
あとは歴史の矯正力と、その結果虚無から湧き出た暗闇との戦い。セリナは、その中で、彼女の存在が消滅寸前となるまで追い込まれてしまったのであるが……
「ちゃんと理解しているのか不安ですが……」
「勇くんの復活のため僕らが役に立ってこと?」
説明が終わった後、女子たちは別に慌てず騒がず。自分たちを利用したと宣言したセリナのことを怒ることもなかった。百合ちゃんも下北沢花奈もなんだそんなことかって表情だ。
生田緑と和泉珠琴もなにか言いたそうではあるが、
「私達は、まだセリナさんが因子と言っている概念がなんなのか理解していないのかもしれないれど……」
「向ヶ丘が経験すべき人生が私達にまぎれていたってこと?」
やはり怒っていない。というか、むしろニコニコとしている。
しかし、
「和泉さんの言うとおり……だいたい経験という意味で思ってもらって良いわ。正確に言うとかなりめんどくさくなって……あなたたちが生まれる前の宇宙の歴史が織り込まれたうえでの経験だけど……結論から言うと、みんなの人生には、本来勇タンとして生きるべきだったものが混じっているのを私は欲して……」
それを、利用したセリナは、まだ申し訳なそうな顔をしていて、
「なら、結果論だけど、セリナさんがやったことってあんまり問題ないんじゃない?」
「え?」
喜多見美亜の言葉にびっくりしたような顔になる。
「というか、むしろ問題なのはセリナさんにとってだけど……それはセリナさんの自業自得というか……」
「?」
「このことを恨んでる人いる? 向ヶ丘勇の復活のために私達をセリナさんが利用したこと」
女子たちはいっせいに首を横に振り、
「だって、そのおかげでこうやってみんなで正々堂々と……向ヶ丘勇を取り合うことになったってことでしょ……それってセリナさんの一番の計算違いじゃないのかな?」
「……む、でも……」
今まで申し訳なさそうな様子だったセリナは、一転、ちょっと焦ったような表情になると言うのだった。
「負けないわよ……」
セリナが少し涙ぐんでいるのにみんな気づいていたが、だれも指摘することなく、暖かい笑みに部屋は包まれるのだった。




