俺、今、俺回想大会継続中
さてさて、この半年の回想大会はまだまだ続くというか、まだ百合ちゃんまでしか終わっていない。俺は、喜多見美亜と百合ちゃんの後も、いろいろな女子と入れ替わったのだが、
「次は僕だったね」
そのとおり。
学校では目立たず騒がずにこっそりとクラスに溶け込んでいた下北沢花奈が次に入れ替わった女子であった。学校では影が薄いというか、存在感ゼロのステルス花奈ちゃんであるが、実は、売れっ子同人作家ユニット斎藤フラメンコのメインメンバーであって、締切のプレッシャーから逃げようと、あの日、初夏の秋葉原で、俺の隙をついて入れ替わったのだったが、
「……よく考えたら、なんで知ってたんだろ?」
喜多見美亜が不思議そうな顔で言い、
「何が?」
「花奈さんが、向ヶ丘くんと美亜が入れ替わっていた事をしっていたのかっていうことよね」
和泉珠琴の疑問を、生田緑がフォローする……
確かにそうだよな。
俺も、あの時は不思議に思った。
なんで、下北沢花奈はキスをすれば体が入れ替わることを知ってたんだ?
そりゃ、喜多見美亜と俺がそんなことをしているところを見られてしまう危険はあった。喜多見美亜と俺は、キスで入れ替わったんだったらキスで元に戻るだろうと、毎日のようにキスをしていたし、どうやったらもとに戻れるかっていう相談もしょっちゅうしていた。
それを下北沢花奈がどこかで見て聞いていたんだろうと思っていたが……随分注意してたんだけどな。
当時は喜多見美亜と俺が一緒にいるのを見られるだけでもかなりの違和感がクラス内に走る状態だった。そりゃ俗にまみれたリア充と孤高のボッチ聖人が親しそうにしてたら『何?』と疑われて、まさか体が入れ替わたっとまでは思われないにしても、いろいろ詮索されたら面倒だと思っていた。
なので、喜多見美亜と会う時は、丘の上の人気のない神社とか、多摩川の河原の物陰とか、学校の連中に見られないことを入念に確認してからことにあったったものだった。
しかし、下北沢花奈は、俺たちのキスも見ていてその意味も知っていた。
「執筆に疲れて、散歩始めたら、なぜかあの神社のある丘を無性に登りたくなって……でも僕って体力ないじゃない? 急坂で疲れ切って神社の後ろで休んでたら喜多見さんと向ヶ丘くんがやってきて……キスしたと思ったら……入れ替わったとか、もとに戻らないとかすごい話始めて……」
「え、下北沢さん、それそのまま信じたんだ?」
そんな突拍子もない話を、なんで疑念も思わずに信じたんかと和泉珠琴が疑問に思う。
「確かに、あんな話を、僕は信じて……」
「私は入れ替わるその場面を見ていたので、あんまり疑問に思わなかったけど……今思えば信じる方がどうかしてて……向ヶ丘くんと美亜で何かあるなって疑ってたけど……それにしても……」
生田緑は自分で過去の自分が信じられないといった表情で呆然としているが、
「私は偶然キスしちゃったのだから不思議はないか」
「私もそうですね」
和泉珠琴も百合ちゃんもよろけてキスをしてしまって入れ替わったのだから不可抗力に見えるが、
「本当に不思議は無いのかな?」
「「え?」」
萌夏さんが何か疑っている様子。
「私の場合は、酔っ払ってわけわからなくなってたところでキスしてしまったのだけれど……なんか不自然さを感じてたかな」
「不自然?」
「不自然さ……ですか?」
「私が入れ替わったのって、美亜ちゃんに入れ替わった勇くんが合コン参加してたカフェのでのことだよね」
確かに、そうだった。
思い出したくもないあの頃の合コンの日々。
そういう性向のまるでない俺が、なんで男ときゃははうふふしてくてはならなかったのか。喜多見美亜になりすますためとはいえ……
ともかく、暇があれば合コンしていたリア充グループ女子と入れ替わってしまった俺は、街で萌夏さんと会うとすればその最中であるに違いない。
でも、
「私、あの時、あのカフェに行くつもりは無かったんだ。パーティが終わった後に、二日酔いで気持ち悪くなる前に、酔った勢いのままマンションまで帰ろうと思ってたんだけど……なぜか気持ちと裏腹に朝からやってたカフェに入ってそのまま席で眠ってしまって……なんで自分がそんなことしたかわからない」
「そう言われてみれば、私もよろけたときに、転んだ先に美亜がいるなと思ってよけなきゃってなったけど……体がなんか動かなくて。お腹が減ってるせいかなって思っていた……」
「私も、美亜さんが一歩近づいてきて礼するとぶつかるなって思ったのにそのまま止まれなくて……考えてみたら不自然な感じでした」
なるほど。
みんなの言うとおり。
女子たちと俺の体入れ替わりは、なんとも強引で不自然な感じでキスをしてしまった琴が多い。
って……
まあ、俺は答えを知っていて——この半年の入れ替わりに偶然なんて一つも無いのだが、
「セリナさんだよね……犯人は」
喜多見美亜が確信した表情で言う。
「……ええ」
ちょっと神妙な顔をしたセリナは頷きながら、
「そのことについては……みんなに私は謝らなければならないわ」
と言うのであった。




