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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、俺(トゥルーエンド)
290/332

俺、今、俺喜多見家に訪問中

 さてさて、場面はまた土曜日の朝に戻る。 

 そこは地元駅前というどこで知り合いに見られているかわからない場所に男は俺一人で、ほかは女子高生5人であれば……


 危険であった。


 喜多見美亜(あいつ)が入れ替わっている間にダイエットして髪も眉も整えて、服装もきれいになって、ずいぶんとチャラく見えないこともないようになった俺。そんな男が美少女5人をはべらしている。

 いや、俺ははべらしているなんて、そんなつもりは毛頭ないのだが、俺がまわりからどう見えるかはわかっているつもりだ。


 どうみてもヘイトの対象だよね。


 へんなやっかみを買う前に、この場はさっさと退散してしまった方が得策である。

 幸いにも同じ学校の生徒とかは近くにいないように見えるが、俺たちのちょっと横に集まってる大学生っぽい男子の集団があからさまに女子たちに品定めの視線を向けてきていて、


「……それじゃそろそろ移動しようか」


 なんか男のうち一人が明らかに女子に声をかけようといった様子で歩き出したのを見て、俺たちは出発した。

 でも、


「ちょっと、君たち……」


それでも男は執念深く追いかけてきたのだけれど、


「うわっ!」


 ——バタン!


 突然足を絡ませて顔面からアスファルトに派手にころんでしまうのであった。


「勇タンと私たち(・・)の恋路の邪魔は誰にもさせないわ」


 ニッコリと笑いながらも凄みのある顔で言うセリナ。さすが多元宇宙にその名を轟かせた魔女。魔素の薄い地球でもナンパ男の撃退くらいは指先ひとつ動かすことなくできてしまうようだった。


「なんだ? 今の人、勝手に転んだね」

「そうですね」 


 和泉珠琴と百合ちゃんが不思議そうにこけた男の人を見ているが、そのあと下北沢花奈と生田綠が、そっと横目でセリナのことを見たのはなんとなく原因を察知しているのだろう。そっと目を伏せ、触らぬ神にたたりなし的な雰囲気を醸し出すのだった。

 

「……じゃあ、ともかく進もうか」


 俺は改めて出発を促して……


 ——さてさて。


 ちょっと邪魔が入ったが、歩きだしてしまえば駅前から喜多見美亜(あいつ)の家まではあっという間であった。実測したなら歩いて十数分と言ったところであるが、体が入れ替わって通学でこの道を毎日のように通ったことを思い出しながら歩けばいつの間にか着いていたという感じだ。

 ほんと色々あったなとこの半年を思い出せば、ちょっと思い返すだけでも1時間や2時間じゃたりない。まあ、過去の俺、別の時間ループの俺も思いおこせば、この半年どころじゃない事件が山盛りだ。体入れ替わりなんていう経験以上の荒事がごろいているのだが、なんか別の世界の出来事感が強いんだよな。この人生での出来事が、やはり印象が強くてリアリティがある。この人生の中でもすでに宇宙の果に(セナの体に入ってだけど)行って帰ってきていたりするので、日常の超常現象っていうレベルをとっくに通り越した体験をしていたりするのだけれど……

 なんか孤高のボッチを貫く徳の高い男子高校生でしかなたはずの俺が、今こんな女子たちと一緒に地元の道を歩いている方がもっと異常なことのように思えてしまうんだよな……

 とか考えながら喜多見家の玄関をくぐれば、


「あ、勇お兄ちゃんいらっしゃい」


 出迎えてくれたのは喜多見美亜(あいつ)の妹の美唯ちゃんだった。


「美唯ちゃんこんにちわ」

「こんにちわ」


 俺に続いて玄関に入る女子たち。


「みなさんも、ようこそ……うわ、しかし壮観だね。冷静に考えれば、勇お兄ちゃん、こんなきれいな人たち独り占めって世の中の男の敵だね」

「……」


 こんな可愛らしく純真な美唯ちゃんに眉をしかめてそんなこと言われたら黙るしかない俺であるが、


「でも、こんな彼女多いなら……私一人くらい追加でもいいのかな?」

「え!」


 なんだかとんでもないことポロッと言われたような気がしたが、


「向ヶ丘……ロリコン」

「勇さん、顔がにやけてますよ」


 和泉珠琴と百合ちゃんに速攻突っ込まれて、


「犯罪ね」

「犯罪だね」


 生田緑と下北沢花が淡々と言う。


 いや、まてそんなんじゃ無いから。美唯ちゃんは、お姉さんの喜多見美亜(あいつ)が大好きで、その中にしばらくいた俺にもちょっと好意を持っていただけなのだから……

 でも、


「……これはもしかしたら」

「ん?」


 なんか神妙な顔つきのセリナだったが、


「美唯ちゃんも、もしかして……」

「どうしたんだ?」

「あ、いえ……後で話すわ……」


 微妙な笑いでごまかされて、俺たちは喜多見家の中に入り、


「あら、いらっしゃい!」


 リビングに通されたら、そこで待っていたのはお母さんだった。


「へえ、この子たちが美亜のライバルになったわけね……こりゃ大変だわ我が子も……」


 とても面白そうにニコニコと笑いながら女子たちをざっと見回しながら言う。

 ライバル——恋のライバルと喜多見美亜(あいつ)に聞かされているのだろうか。だが、娘のために他の女子を追い落とそうとするとか味方するとか言う気はまるで無いようで、


「うん、面白い。美亜はいつも完璧もとめて、危ない目にあわないようにしてたから……このくらい疾風怒濤のほうが青春で良いわね」


 修羅場も娘の成長のための良い機会と思っているのか。冷静に考えると、たくさんの女子になん股もかけているろくでもない男子に娘がひっかかったとも見えるが。どっちかというと俺が引き気味で押されている方というのもちゃんとわかってくれているようだ。

 だが、この家には娘のことになると頭に血が上って冷静な判断ができなくなる人もいたはずなのだが、


「ふふ、お父さんなら『女を何人も彼女にしているような不埒な男はこの家の敷居をまたがせない』とか言ってたので、今日は監禁してるので心配しないでも大丈夫よ」


 ああ、家で一番立場の弱い男子はまた例の監禁部屋かと思えば、同性として少し同情してしまう俺なのであったが、とりもとりあえず、いったんリビングのソファーに座った俺たち。でもなんだか落ち着かないのは、


「美亜はどうしてるの?」


 和泉珠琴がみんなが思ってた疑問を口に出すと。


「料理中なのよ!」


 隣のキッチンから喜多見美亜(あいつ)の声が聞こえた。


「え? 料理?」


 あいつ料理なんかできたっけ?

 俺が入れ替わって喜多見家にあいつとして過ごして時には一度も料理作ってとか言われなかったが。


「美亜も変わったよね。突然、今週から、料理するとか言い出して……腹を他の女子に掴まれたらまずいと焦りだしたのかしら?」


 そうだよな。お母さんもそう言うのだから、あいつは料理なんて全然しなかったはずだ。

 けれど、


「……なんかあの子作って見たら料理結構上手なのよ。一体どこで修行したのか?」


 って……ああ、そうか。

 あいつは入れ替り、俺となって半年を向ヶ丘家で過ごしたんだった。両親ともに社畜で、朝早くから会社にでかけて夜遅くまで帰ってこない。食事も自分でなんとかしなければならないそんな家庭だ。

 俺は、めんどくさくてスーパー惣菜やコンビニ弁当なんかですますことも多かったが、そんな毎日食べたら不健康な食事に我慢できないなら、


「みんなようこそ! 料理は後でね!」


 エプロンを着た喜多見美亜(あいつ)が自信満々な表情でリビングにやってくるのだった。

 それは、


「……美亜さんの新たな(フォース)の発現ね……これは気をつけないと」


 セリナがちょっと眉間にシワを寄せて力を暗黒面に使いかねない様子でいうほど破壊力のある姿であったのだった。


   *


 さてさて、そんなわけで無事喜多見家に集合した俺たちはまずはあいつの部屋でくつろごうと、リビングを出て2階にあがりかけたとき、


「はい、どなたさまでしょうか?」


 インターフォンからチャイムが鳴り、お母さんが訪問者の名前を聞けば、


「経堂萌夏様……美亜へのお客様ですか。はい……どうぞ、お上がりください」


 って……


 なんで萌夏さんやってきているの?



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