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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
第三章 俺、今、女子オタ充
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俺、今、女子オタ充

第三章の開幕です。主人公、向ケ丘勇のホームゲーム——オタクフィールドでの物語となる予定ですが、中途半端にリア充に巻き込まれている今の彼にそれは果たして吉と出るのか?


ゆっくりペースの投稿になるかもしれませんができればおつきあいください。


2016/11/17 文章少し手を入れました。あと新ヒロイン(?)の名前の読み、あの人すぎるので少し変えました。かえって近づいた気もしますが。

 ひょんなことからリア充女子喜多見美亜と入れ替わってしまった俺、向ケ丘勇。

 気づけば、あれからもう二ヶ月もとっくに過ぎてしまっていた。

 その途中、まあいろいろあったなって思う。

 そもそも——慣れないリア充女子ライフに翻弄され毎日がへろへろだったこと。

 俺に入れ替わった喜多見美亜(あいつ)によって、「俺」が女装男子のネットアイドルまがいにされてしまったこと。

 百合ちゃんとさらに入れ替わって、彼女のヘビーな過去に向き合って、何とか彼女を助けようともがいてみたこと(なんだか結局俺がやったことは良かったのか悪かったのか、何とも言えない結果になってしまったが)。

 その後に喜多見美亜の体に戻ってからの体育祭では女子バレーの我がクラスの優勝に貢献できたこと。

 そして……結局いまだに自分の体には戻れていないこと。


「まあ、今日もダメだったわね」


 いつもの俺たちの集合場所、丘というか小山の上にあるひっそりとした神社でのキスを終えた後に喜多見美亜(あいつ)は言う。

「ああ」

「なんだか今日は正直入れ替わる気配さえ感じなかったわ」

「ああ」

 俺は鎮痛の面持ちだが、あいつはちょっとあっけらかんと言うか、なんだか少し楽しそうにさえ見えるのは気のせいか。

 だから、

「なんだか楽しそうだな……」

 俺はそん風に言ってしまうのだが、

「はい? なんで? あんたなんかとキスするのが楽しいとわたしが思ってるって言いたいわけ? いえ、キスをしてるのはあんたじゃなくて私の唇とだけど、その唇をくっつけてる相手はあんたなんだから——んっ?」

 なんだか言ってて混乱している様子の喜多見美亜(あいつ)であった。

 まあ、俺も俺自身とキスしているようで、でもあいつとキスしているような気もする不思議な感覚を毎回感じてしまう——同じように混乱しているのだが……

 ともかく——キスして入れ替わったんだから、もう一度キスすれば入れ替わるだろうと安易に考えて始めた俺とあいつの再度の入れ替わりのためのキスは、いまだ一度の成功も成しえていないのであった。

 百合ちゃんとは一度のキスで入れ替わって、途中あのにっくき沙月と百合ちゃんの入れ替わりもありながら、あっさりもう一度のキスで喜多見美亜(あいつ)の体に俺は戻ったわけなのだが、俺とあいつはどうしても元に戻らない。

 一度は夜の学校に忍び込んで、最初入れ替わった時の学校の廊下ってシチュエーションを再現してキスまでしてみたのだが——それでも結局戻らない。

 もうこれ以上シチュエーション再現と言うと、昼の学校でキスしてみるくらいしかないのだが、さすがにそれは躊躇するし……

 で、この誰もない小さな神社の境内で俺たちは何度もやってればそのうちうまくいくんじゃないか? 数撃ちゃあたる的に毎日のようにキスしているわけだった。

 だが、

「嬉しいと言うより……ほっとしていると言うか……」

「はい? なんか言った?」

「いや、なんにも」

 どうにも、喜多見美亜(こいつ)になんだかやる気が感じられないような気がするのは気のせいだろうか。

 と言うかね、こいつ「本当に」戻りたいんだろうか?

 そんな疑問の言葉が俺の脳裏にふと浮かぶのであった……


   *


 まあ、あいつのやる気どうこうが問題なのかどうかは分からないが——事実として、戻れてないものは戻れてない。

 これはどうしようもない。

 白昼堂々の学校の中でキスをしてみようかと言う最終手段はなかなか実行する勇気が出ないし——「それ」をしても結局ダメなんじゃないかって予感が俺はする。

 俺たちがもとに戻れないのはそう言う型の話じゃなくて、なんかもっと根本的な……

 本質的な……

 いや……

 その何か——うん。よく分からない。

 言葉にできないなんかそんなモヤっとした雲みたいな「それ」は目の前にぼんやりとあるような気がするのだが、本当にぼんやりとしていて、捉えどころがなくて俺はそれが何なのか掴めないまま、ただそれを無為に眺めてしまっている——そんな感じがした。

 なんだか捉えどころがなかった。解決の糸口が見出せなかった。ピンとこなかった。

 体育祭までのばたばたが終わって、喜多見美亜(あいつ)の日常に、やりたくもないリア充生活に俺は戻り、そんな状態が少し続き——ずっとこれが続くのでは? 

 少なくとも、この体入れ替わりは、しばらくはこのままなのかも?

 俺は、心の中で嘆息しながら、そんな風に思うのだった。

 なら……?


「ふふ、来ちゃった!」


 俺は秋葉原(ホームタウン)にやって来たのだった。

 久々のフリーの日曜日。今日は、喜多見美亜(あいつ)のリア充仲間、生田緑(じょてい)和泉珠琴(キョロ充)もなんだか湘南方面の合コンに遠征していて——もちろん俺もそれに誘われたのだが、今日は旧友(アキバ)と会う予定があるからと断って、俺はここにやって来た——いやアキバよ、私は帰ってきた! のだった。

 気がつけばリア充女子となってから一度も足を踏み入れていないここ(アキバ)だった。あいつには、特に名指しで秋葉原が禁止されてたわけでもないけれど、俺がリア充らしくない行動をするとすぐ咎められて説教されるので、まあここもダメだろうなと自粛していたのだった。

 ——だが、俺のアキバ禁断症状も限界だった。

 もうこの入れ替わり現象が始まって二ヶ月以上も経っているのだった。で、それは未だ終わる気配さえない。ならば、俺は、このまま、少なくともしばらくの間、外でのアクティブなオタク活動を封じられたまま、ずっと生きていかないといけないかもしれないのだ。

 そう思ったら——耐えられなかった。

 死んでしまうような気持ちになった。

 どうせ死んでしまうならなんでもしていいような気分になった。

 なら、思い切ってリア充(あいつ)が秋葉原に来てみたっていいじゃないか!

 ——いいじゃないか!

 なんだか勢いがついて電車に乗って、地下鉄に乗り継いで、最後は梅雨も終わりの炎天下の神田川沿いを嬉々として歩き、万世橋の先に牛のマークのビルが見えて来たら左に曲がると見えてくる、けばけばしくも、落ち着く、禍々しくも癒されるこの街……


「アキハバラ、イエー!」


 いや……今の言葉、俺が言ったんじゃなくて横の外国人観光客の叫びね。自撮り棒で動画取りながら大騒ぎしている外国のオタク(ナード)風味の人たちの横を俺は通り過ぎる……

 ——イエー!

 後ろでまだ騒いでる連中の勢いになんだか俺もつられて叫びそうになってしまうが、ここは我慢我慢。

 浮かれるにはまだはやい。

 俺は、そんな大味な観光客や、とりあえず来てみました的な冷やかしっぽい人たちを尻目に、クールな表情で、口元だけニヤリとさせながら歩くのだった。この爽やかな日曜にあえてここにやて来た、いや、やって来ざるを得なかった、人間として間違った方向に欲望いっぱいな感じの素敵な仲間たちと同じように、俺は期待と不安に満ちた薄ら笑いを浮かべながら俺は中央通りを進み……

 そして、ある角でさっと路地に入り……


「ぐへへ」


 俺は狩場(ショップ)に入るなり、お気に入りの同人作家の新作を見つけて不気味な笑い声を思わず漏らすのだった。


 そう、これこれ。


 探してたんだよ。


 ネット通販ではもう在庫がはけてしまって店頭にあるのみ——次の印刷もするか未定って話の、俺がちょっと前から注目している新進同人マンガ家、斉藤フラメンコ先生の最新作品。

 それは——ネットで仕入れた情報では——有名ネットゲームの二次作品でありながら、その設定を大きく離れ、少女たちの学園スポ根マンガになっている……いや、違う、異能バトルになっているとか混乱した情報が流布していたが——まあ無問題。

 この先生の作品は、いままで三冊くらい買ってるけど、未だハズレ無しなので、そんな情報なくても俺は即ゲットすればよいだけなのだった。

 むしろ問題は、なんだかいきなり探していた本が見つかったので、これは家まで読むの我慢できないと言うか、秋葉原の探索も気もそぞろになっちゃうことだった。

 だから、俺は、これは、さっさと買ってしまって、どこかこの近くのカフェで読んでしまおうと、レジに向かうのだったが……


「んっ?」


 その瞬間、店の隅から、じっと俺を見つめている少女の存在に気が付いたのだった。

 振り返り見た、その子は、どこかで見たことがあるような? ないような?

 なんだか、その思い出せそうで思い出せないその子のことが気になる俺。

 で、もしかして知り合い? って思って、じっと見返す——

 が……

 さっと目をそらしていなくなる少女。


 あらら……

 俺は、たまたま目があったのに睨み返したみたいになっちゃって気まずい感じになって逃げちゃったのかな? ごめんな——くらいに思って、その時は、あまり深く考えなかったのだが……


 俺はまだ知らなかったのだった。


 その少女のリアルに、俺はこのあと無理矢理に「充実」させられてしまうことになることを。そして、それは、もちろん俺の悪友(なかま)たちも巻き込んで行くことを。

 その少女、北沢花奈(きたざわはな)によって俺は……


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