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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子魔法使い
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俺、今、俺聖者が出現中

 時間が止まり、何者も現れるわけのない世界——俺たちの前に、ブルース・フォン・ローナと名乗る男が突然現れた。

 彼は、自分のことを、伝説の聖者とのことだが、

「自分で『伝説の』と名乗るのは少し気恥ずかしくもあるが……聖者として、私がしたことが、この時代には、いろいろとおひれはひれがついて伝わっているだろうからね、自分がそんな名前で後世に呼ばれることは……予見していたのだよ」

 と、男の人は、ちょっとおちゃめな感じでほほえみながら言った。

「……まあ、そもそも僕は、聖者と呼ばれるにも抵抗がある俗世にまみれた男なので……気軽にブルースとでも呼んで貰うと嬉しいが……」

 伝説の聖者。

 俺がこの世界に転移してからの一日の間で、何度となく話題に出てきたその名前。

 何百年も前。この世界の危機を、予言によりいち早く察知して、勇者と一緒に世界を救った立役者。

 その他にも、何回も大予言を的中させていて、また死後にも、彼が残した予言が、この世界の争いや天変地異などの災厄を恐ろしいほど正確に的中させて、ますますその伝説を強化したという。

 そんな、過去の大人物がなぜこんなころに?

 伝説の当人が生きた時代はもう何百年も昔のことのはずなのだが……

 ともかく、いきなりブルースと呼んでほしいといわれても、その前にこの人が何者なのかが怪しくて、気安くどころか、俺の顔は険しくなる一方で、

「あ、ブルースもおローナも聞き覚えが無いかな? 僕の名前って後世に残ってないのかな」

 聖者を名乗るおじさんもちょと悲しそうな様子。

「そうなの?」

 俺は、セリナに名前に聞き覚えがあるか確認すると、

「……うん」

 大きく首肯するセリナ。

 どうも、この伝説の聖者と言っているオジサンの言うとおりのようだった。

「……何個か伝説の聖者の名前だとして伝わっているものがあるけど、どれも証拠はなくて……その中にブルースとかローナとかいうものもないの。そんな名前だって説聞いたことがない。似た名前もない」

 なるほど、セリナの話で、(自称)聖者のおじさんの信用度が少し下がったな。

 いくら証拠はなくても、根も葉もないとこにうわさはたたない。何個かの候補の中に正解がある確率はそれなりに高いのでは無いだろうか?

 長い間の伝承の伝言ゲームの中で名前が変わってしまっているにしても、似た名前が伝わっていてもおかしくはないのではないか?

 と思うのだが、 

「ああ、私の名前は完全に歴史から消えてしまったのかな? ……それもやむなしかな。私の正体がわからなくなるように色々仕込んだからね。その副作用で、私の後世は情報が混乱して世に伝わっってしまったかもしれないな……」

 なんか、名前が伝わらなかったのは俺のしわざ的なこと言い出してきたな。

 といわれても、俺には、この人が本物なのかどうかの判断の足しにはまるでならないのだが、

「あっ!」

 なんか思いついたといったような顔のセリナ。

「伝説の聖者様の名前の候補で、ちょっとだけあってるのあった」

「そうなの?」

「フォンだけあっている。ラガ・フォン・マギリアという説ある」

「なるほど……」

 いや、フォンって『の』くらいの意味しか無いけど、

「うむ、フォンだけでも伝わっていて嬉しいよ」

 随分とポジティブな聖者様である。

 というか、この人本当に聖者様ならば、聞いた伝説から想像したのと違って、ちょっとゆるい感じのひとだな——と思ってたら、


「伝説の聖者——ローナ……まさかあなたが……ここに」


 あっ、すっかり忘れていたけど、セリナの結界を越えて精神魔法をかけてきていたギラがすごい目でこっちを睨んでいる。

 そういや、この魔術団長、やたらと伝説の聖者様を恨んでいたが——どうも名前を正しく知っていそうだ。

 すると、このおじさん本当に聖者なの?

「……おっと、僕の名前を知っている人がいた? ん?」

 ギラの方を振り向いたおじさんの顔は険しくなり、

「君が……どうやら犠牲者のようだね」

「犠牲者? それは私のことですかね」

 カッとなった表情のギラ。

「……申し訳なく思う。君のような人を生み出してしまったのは僕の責任だ」

 頭を下げるおじさ……

「伝説の聖者ーブルース・フォン・ローナ! まったく予想どおりのいけすかない野郎ですね」

 あれ、やっぱり、この人、本物の伝説の聖者様?

 ギラの方は、冗談とか言ってるような様子ではない……

 というか相当テンパってますけど。

「……予想どうおりと言われると、さすがに傷つくのだけれども……まあ、確かにそんな褒められるような男ではないのでね。僕は……しかし君は、どうやってそんなに僕のことを知ったのかな? 少女の話だと、一般には名前さえ伝わっていないようだけど……」

「はは、聖者よ。あなたは、今では、完璧無比の空前絶後の超人——神同然のように皆に思われているのに、名前さえ正しく伝わっていない。世間はあなたのことを大きく誤解していますよ」

「なるほど……確かに、僕はそんな聖人ではないな。聖者は名乗ってるけど」

「聖人でない? そんな生易しいものですか? あなたは、悪魔ですよ」

「お? 流石に、そこまで言われなくても良いと思うけど……」

「いえ、謙遜を……この世を終わらせてしまおうと思っている人が悪魔以外のなにものですか?」

「……え?」

 ギラの言葉に、少し意外そうな顔になるおじさん——でなくて伝説の聖者。

「私は読んだのですよ。禁書庫にあったあなたの計画を書き記した書を! あなたは、破滅の魔女を使い、この世を終わらせる計画をたてた!」

「……それは」

 考え込んだ様子のおじさん。

「どうしました? 図星で何も言えないですか? 世間には聖者と思わせて実は裏では極悪非道で快楽にふける……」

「ちょっと待った!」

「なんですか? いいわけですか?」

「その、君が読んだ本って、僕が極悪非道で、快楽にふけっているって書いてたの?」

「そうですが?」

「ミリーって人が作者じゃなかった?」

「作者? 著者なら確かにミリー・デル・マギ——あなたの弟子の一人ですか?」

「まあ、そんなもんだけど。彼女の名前も後世に残ってないのかな?」

「ええ。ミリーという名もきいたことないですね」

「その本以外では名前は残ってない? 禁書庫の奥に眠っていたその本以外では」

「そうですね、聞いたことはないですね」

「やったー!」

「は?」

 うれしそうに小躍りするおじさん——伝説の聖者?——の姿を見てあっけにとられるギラ。ああ、あと、今更だけど、おじさん現れてからテンパってるギラは、俺らに精神魔法掛けるの忘れてるな。このまま、攻撃を忘れてくれると嬉しいのだけど、

「……だってミリーの名前が残っていないってことは、彼女のろくでもない本も残ってないってことでしょ。あの子、僕と勇者とか、僕と魔王とかの男同士をエロいことさせる小説書くのが好きでこまってたんだよね。なんだか、その手がすきな女子にそれがやたらと出回っていて……」

 は? BLかよ。ギラが読んだっていう禁書は!

 って、俺が驚愕していると、


「ぎぎぎぎ……殺す!」


 彼の歪んだ生涯の目標をあっさりと、最悪の形で否定されて、怒髪天をつくと言った様子のギラ団長。


「三人ともまとめて……殺す」


 やはり、俺らも巻き添えをくらってしまうようなのであった。


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