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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子魔法使い
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俺、今、俺伝言確認中

 で、俺が避難器具の上に置かれていたのは皮にしては随分薄いがもしかして紙かな——と思って手にとって見ると、やっぱり皮であった。随分薄く引き延ばされているのか、バックとか靴に使われるような厚さではなく、一瞬紙かな? と錯覚するほど薄いもの。ちょうA4くらいの大きさで、表面はでこぼこが無くつるっとしていて——そこには文字が書かれている。

 これは……羊皮紙というものなのかな?現代日本で見ることはあまり無いが、ヨーロッパ中世で文字を書き記すために使ったという動物の皮を薄く紙のように伸ばした物。まだ牢屋の中でセリナから聞いた情報からでしか判断できないとはいえ、どうもヨーロッパ中世風の感じがするこの異世界で羊皮紙があるのはおかしな感じはしない。


 でも、さっき食事の下にそっと隠されていたメモは紙だったと思うが、


「あ、古い時代のだねそれ」


 とセリナが俺が持っている羊皮紙を見ながら言う。


「その金属の箱がサトウの遺物だとすると、サトウさんがやってきたのは百年以上前っていうから、それもその頃のものなのかも」


 なるほど。この国の建設史に伝説を残したらしい異世界転移者——佐藤さんが来た頃には羊皮紙であった文字を書き記す媒体が植物から作る紙に今はじゃかわっていると。

 俺の世界のヨーロッパだと、活版印刷が始まって紙の利用がどんと増えたというけど、なんとなくまだそこまで時代は行っていないような気がするので——この世界は十字軍ぐらいの時代かと思うが……

 ワドムと言うらしいこの場所、騎士だとかヨーロッパ風の文化を持ってるらしいが、別に異世界のヨーロッパに俺はやってきたわけではない。

 ここは、魔術もある異世界だ。俺の世界と同じような発展をしているとは思えないし、ここの土地の住人であるセリナは、別に西洋人のような顔立ちをしているわけではない。

 目の前の幼女セリナは、ちょっとバタ臭い可愛い女の子という感じだし、女子高生セリナも——この幼女が成長したのが本当にあの(・・)セリナだとして——普通に日本の高校にいても特段不思議な感じはしなかった。もろ和風といった顔立ちではないが、こういう感じのちょっと外国人っぽい人っているよね。もしかしてハーフ? ですむ範囲だ。

 とはいえ、セリナの顔は、あらためて思えばヨーロッパ系の雰囲気あるなとなるのだが、もしかして、俺の世界と違う歴史をたどったここは、人種の混じり合いなんかも全く別の経過をたどったのかもしれない。

 ならば、文明も全く違った発展や混じり合いをしたのかもしれない。俺の世界の日本やヨーロッパと歴史を比べることは全く意味がないのかもしれないなと俺は思うのだった。

 少なくとも、

「これは読めないよね」

 俺は手に持った羊皮紙をセリナの前に出す。

「うん。これニホンの文字?」

 首肯する俺。

 セリナは顔立ちは日本人風と言えるにしても日本語はまったくわからない世界であることは確かだ。

 で、

「中身、何て書いてあるの」

 当然その中身が気になるだろう。

「それは……」

 俺は佐藤さんから、どうやら俺向けに残されたと思われる文章を読み上げるのだった。


   

  いつか来ると予言されている同胞の君——向ヶ丘くんへ。


  君は、今、この部屋に閉じ込められていることだと思うが、あせることはない。

  僕は、君が脱出できるよう仕掛けをしておいた。

  以下の手順を慎重に踏むこと。


  ・避難器具の右の壁で、床から十段目にある一つだけ緩いレンガがある

  ・そのレンガを外せ。後ろにある4つの数字を回して君の誕生日に合わせろ。

  ・そして横のスイッチを押したらすぐに壁から離れること。

  ・壁のレンガが崩れて外に出る穴があく。

  ・そうしたら避難器具の蓋を開けて中の説明書の通り、救助袋を外に向かって足らせ。

  ・あとは、君が小学校でみんなに見本を見せたように……

  ・その中に飛び込むんだ。


  では、君と君の大事な人の幸運を祈る。

  いつか君と日本で合うことを楽しみにしながら。佐藤より。

 


 なんだか、俺の名前知っているばかりか、小学校時代の俺の黒歴史もしってそうな佐藤さんであるが……何故なのかは考えてわからなさそうなので、まずは文章に書かれていたレンガを探してみることにした。

 すると……

 下から数えて十段目のレンガを何個か押して見て——最後に触ったものが随分とグラグラとしているように思えたので、指先をねじ込んで引っ張ると、

「……はずれた」

 それだけまるで荷重が載っていなかったらしき、問題のレンガがスルッとはずれてきた。

 で、佐藤さんの書いたとおりならば、

「その後ろにあるの?」

「うん」

 俺は外れたレンガの奥を覗き込んで見る。確かにそこには、回して合わせる数字、スーツケースとかについている鍵のような物があった。そして、その横には、いかにも押してくれとばかり赤い色の塗られたスイッチがあるので、

「ぽちっとな……」

 俺は人差し指をとんがらせて、思わず声にしてしまったが、

「触ってないよ」

 俺は必死に我慢したといった表情で言う。

「?」

 いや異世界でこれはわからんか。

 電気とか無いとスイッチってあまりないような気もするし。

 ボタンがあったら押してみたいという欲望はあまり理解されないかもしれない。

「……まあ、まだ数字合わせてないから佐藤さんの言うとおりだとすると押しても壁が崩れることはないのだろうけど」

 しかし、なんだな。ボタンを押すと壁が崩れ仕掛けとか、かなりロマン有るな。

 城の自爆装置だったりしたらもっとすごいが……

 それなら俺セリナと一緒にバ◯スとか言いながらボタン押しちゃんだが、

「……城が崩れちゃ俺たちも巻き込まれちゃうか」

「え、城崩れるの!」

「あ、違う、違う……」

 バ◯スがなんなのか、俺たちがネットで斉唱するバ◯スにいかに取り憑かれているかの説明をするのもむずかしいだろうし、

「壁に穴があくだけだよ」

 俺は佐藤さんの伝言に書かれていたことをセリナに伝える。

「穴があくんだ、外に出れるね! ……でも、この部屋随分高いところにあるよ。飛び降りたら、怪我どころか死んでしまうかもしれないよ」

「それは大丈夫。この避難器具……高いところから安全に地上に降りれる仕掛けがある」

「……サトウさんが残してくれたの」

「ああ、たぶん」

 俺がいつかこの部屋に現れるのを知っていて。

「じゃあ、安心だね。サトウの遺物なら、今でもあちこちで現役で動いているから。これもきっと大丈夫だと思う」

「そうだね……」

 とはいえ、百年以上立っている袋を信用して命を預けるのも心配であるが、そうしないとセリナを助けられないというのなら、これに賭けてみるしかない。

 それよりも、

「問題は……いつやるのかだな」

「いつ?」

「うん。せっかく牢屋から逃げても、下でつかまちゃったらしょうがないから。下に見張りがいないときを狙わないといけないけど……」

「それがいつなのかわからないってこと?」

 苦渋の表情で首肯する俺。

 しかし、

「あ、それなら多分大丈夫」

 とニッコリと笑いながらセリナは言うのであった。


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