俺、今、俺会話継続中
牢の中で、俺とセリナ会話は続く。
聞いたのはセリナが牢に閉じ込められている理由。
——それに対して、
「……ユウは、この国のことなんにも知らないの?」
俺がうなずくと、
「じゃあ、一番最初から」
セリナは、まずはと……
伝説の聖者の予言について語り始めた。
「ずっと昔……この地、ワドムに破滅の魔女が現れると予言されたの」
聖者は、今俺がいる場所——ワドムの地に、世界に地獄をもたらす魔女が現れると言ったという。現れるのは争いの最中。エストとワドムの戦争の最中に自らの力を暴走させ、残虐の限りを尽くすという予言だそうだ。
まあ、予言だなんて、どこの馬の骨ともわからない者が思いつきであったならすぐに忘れられてしまいそうなものだが、それが信じるに足る実績が十分な伝説のの大聖者のものなので世代を超えて伝わっているということらしい。何でもその聖者は何度も大予言を的中させていて、特に存命中、世界に暗きものたち(?)が侵攻することを察知し、討伐の勇者チームを集めて世界を救ったことから、他の予言も皆信じられているし、死後にこの世界の争いや天変地異などの災厄を恐ろしいほど正確に的中させているとのことだった。
でも、と言われても……というところはある。
俺的には、来たばかりのこの世界の伝説を語られても、さっぱりリアルに感じられないというのが正直なところ。新宿で、怪しげな、演劇だかたまぼろしだ判然としないものを見ているうちにやってきたばかりのこの世界だ。
俺は、昔の話どころか、つい最近はじまったらしい戦争のことも何も知らない。大昔の聖者さまがどんな人だったのか、この世界でどんな風に思われているのかなんてまるでわからない。だが、聖者は後にも信じられるほどの予言の実績を残している人らしいということはわかって、その聖者の予言とセリナが閉じ込められていることが関連するなら、
「セリナがその魔女なわけ……?」
俺は、頭に浮かんだ疑問をセリナにぶつけてみた。
エストとの戦争が始まり、閉じ込められているということは彼女がその破滅の魔女であるということなのではないか。
聞いた話から考えるとそうなのだが……
こんな幼女が、まさかとは思いつつ、
「……私が、そんな大それた者のわけが……」
そうだよな、こんな幼い子が破滅の魔女なんかじゃ、
「……ない——って思う?」
「——?」
疑問形なのは、
「……可能性がゼロではないってこと?」
うなずくセリナ。
「私は、魔法の才能があって——まだ魔女と呼ばれるようなレベルじゃないけど……でも少しでも予言の魔女の可能性があるなら……」
閉じ込められたってことか。
とはいえ……
さすがにこの幼女がこの世に地獄をもたらすなんてことはないよね?
元の世界の(成長した?)セリナなら『ユウタンが望むならするわよ』って真顔で言ってきそうで……俺も『そんなまさか』とは全否定できなくなりそうだが、ここにいるのは見るからにか弱い、幼女セリナだ。
「私だけでなく、念のため、魔法の素質ある女の子はエストとの戦争が始まったら閉じ込められる事になっているの、なぜなら……」
セリナは少し不安そうな顔になって、一度言葉を切ってからいう。
「……予言では、この世に地獄をもたらすのは小さき魔女だと……」
もっとも、
「予言がなされたのはもう何百年も前で、その後エストがワドムに攻めてきたことなんて十回以上もあるの……正直、大半の人は、さすがの大聖者さまもこの予言は間違ったのではと思っているけど……」
「そんなに戦争があっても破滅の魔女が現れないのであれば、予言は嘘だったんじゃないか」
「そうかも知れないけど……」
ワドムの地はもともと、その聖者が本拠地としていて民の信仰を集めていた場所であるし、大聖者によりワドムの地を任されたのがキグナス家が領主となった起源である。
そのため、いまだ失われぬ大聖者への強い崇拝もあり、代々のキグナス家は予言を忘れることなく破滅の魔女の可能性のある幼女をエストとの戦争中は予め閉じ込め、幼女の家族も反抗することなく差し出るすことを続けているそうだ。
なるほど……
こんな幼い女の子が、外も見えない石牢に閉じ込められていて、いったい何事が起きているのかと思ったのだが。
どうも、もう惰性で続いている慣習のようなものでここにいるだけのようだった。
つまり、セリナはこのエストとの戦争が終われば開放されるのだ。
もちろん、セリナは、こんな牢屋の中にいるのは嫌だし、一刻も早く出たいと思っていて、突然現れた俺が彼女を助けに来たのかと期待したようだが別にすぐに逃げ出さないといけないような状況だったわけではないようだ。
そもそも、すでに戦争で劣勢のワドムは、騎士が領主の城に逃げ込んでの持久戦となっている以上、戦況が変わらない限り城から出れるわけもない。セリナとして、牢の中でじっとしているのは、この戦時下では別に最悪の状態というわけでもない。
俺はセリナの話を聞いて、ということならとちょっと安心した。
しかし、最初の疑問が解消され、気が緩んだ俺は、
「この世界には……魔法が普通に存在するのか……」
もう一つの、気になっていた疑問を思わず口から漏らしてしまったのだった。
「普通?」
おっと、明らかに魔法が存在する世界で魔法の存在に驚いている。
転移者確定の発言である。
それをセリナに今話すことが得策なのか良くわからなかったので、
「あ……いや……それは……」
俺は発言をごまかそうとしどろもどろとなるが、
「私が普通に使えるかってこと? 魔法を?」
「あ……そうか、そういう意味のほうが良いか」
セリナの言葉に乗っかることにする。
「?」
「いや……セリナも普通につかえるのかなって思って……」
「私、魔女候補だっていったじゃない……」
そうだよね。ならすでに魔法がつかえると考えたほうが普通だよね。
「へんなの……ユウって。ワドムの人じゃないのはわかったけど、なんか何にも知らなくて、なんだかこの世界の人じゃないみたいな……」
「——ギクッ!」
「?」
「いや、いや、なんでも無い……」
「……まあ、いいけど」
「……」
セリナは、しっくりとしない顔をしているが、俺が黙るとそれ以上追求はしてこない。
俺は、なんとなくうやむやにすることができたのかなと思い、
「それで、話は変わるけど……」
それではこの後どうするかの話をしようと思った。
セリナが牢に閉じ込められているのは、念のための話なのはわかったが——でもどうすれば良いのか?
俺も一緒に閉じ込められている、そのままで良いのか。
もっと、状況を深掘りしようと俺は口を開きかけたのだが、
「待って! ユウ、急いでどこか隠れて!」
慌てた表情でセリナが言う。
「……誰か来る」
この牢屋に向かって近づく、足音が聞こえた。




