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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子魔法使い
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俺、今、俺確認中

 劇を見ていただけのはずなのに、俺が紛れ込んでしまった異世界(?)。自分も幼児になって、セリナと名乗る幼女の閉じ込められている石壁に囲まれた薄暗い部屋にいた。一体、何でこうなってしまったのかさっぱりわからないのだが、——ともかく、今、セリナから、この部屋のあるワドムという土地は戦争中という衝撃の事実を伝えられてしまったのであった。

 俺は、どうやら、とんでもない場所に来てしまったものである。なんでも、エストという近隣の大国がワドムの領主継承の混乱に乗じて攻め込んできたのだという。

 そのゴタゴタの始まりは、領主の突然の死であった。

「領主様がエストに親善の訪問をする途中に……」

 謎の盗賊が襲いかかってきたのだという。

 もちろん領主の警護にはワドム最高クラスの腕利きの騎士が揃えられていたのだが、

「全員……お父さんも、殺されてしまった」

 その中にはセリナの父親もいたという。

 でも、

「……盗賊なんかに負けるはずがない」

 セリナの父親をはじめとした、領内きっての腕利きの騎士たちで構成された護衛がただの盗賊ごときに倒されるわけがない。ところが、たまたま、その現場を近くの森に隠れて偶然目撃していた木こりの弁によれば、盗賊と相対した騎士たちの動きは途中から明らかにおかしかったという。

 剣の振りが鈍くなり、足がもつれ……

「毒をもられたのよ」

 セリナのいうには、盗賊の現れる直前、領内最後の休憩をとった他国との境に築かれた砦、そこで飲んだ水に遅効性の毒薬が入っていたのではということだった。ちょうど毒が効き出す頃合いを見計らって襲いかかる。こんな事は盗賊には不可能だった。

 毒が入っていたのは領主にも出した水だ。万一のことがあってはと、安全が確保されている井戸からくまれ、入念に管理されたもののはずだ。

 すると、毒を入れたのは砦の内部にいた者となるが、騎士たちが、たかが森の盗賊ごとき小物と通じ合って領主を殺して自らの騎士の地位と名誉を棒に振るような真似をすることは考えにくい。

 砦には、その日、小間使いの村人なども誰もいなかったようだし、騎士の中に裏切り者がいるとしか考えられない。盗賊に扮した半領主派の騎士たちが襲いかかったのだろう、というのがセリアの考える今回の事件の真相であった。

 だが、真犯人は真実の隠蔽を行っていた。その後すぐに、領主を襲ったとして捕まり殺された盗賊たちは、その辺を根城とする本物の盗賊にすり替えられていたのだった。

 たぶん、領主を襲った騎士たちは、もともと盗賊を捕まえて殺しておいて、その服装を奪って変装したのであると思われる。そして、事が終われば、盗賊の死体を、領主殺しのけしからん一味を討伐したといって町に持ち帰り、』自分たちが領主の敵をとった第一の功労者として後継者争いで優位に立つ。

「そこまでわかっているのなら……」

 俺は、真犯人に憤りを感じながら言った。

 しかし、

「でも……確実な証拠がないの」

 国境沿いの森での出来事で、木こりしか目撃者がいないし、その木こりにしても領主の護衛の騎士たちの動きに不自然さは感じたものの、盗賊が偽物だと断言できるわけではない。

 もっとも、犯人は誰の目にも明らかであった。

 このワドムの領内で二番目の実力者である、三代前の領主の外戚が起源となるキグナス家。領主が殺されたああと、いの一番に現地に駆けつけて盗賊を討伐したのはキグナス家の息がかかった騎士だったのだ。もし、すべてを仕組んでる者がいるといたらこの一族以外にはありえない。

 ということなので、キグナス家の仕業と確信している人は多かったのだが、軍のトップを任せられている実力者であるこの一族に対して憶測だけで告発するのは難しい。おまけに、キグナス家の現在の当主であるスワン氏は領主の継承順位こそは十数番目と低いが、継承順位3番となる領主の妹の長男の後見人におさまっている。

 であれば、領主なき今、ワドムで一番の勢力といっても良いキグナスにくみして、勝ち馬に乗ろうと考えた騎士たちも随分と多かったようだ。その長男を傀儡として、スワン氏がワドムを実質支配する……

 そんな策略が実現しそうになった時、


「今度はスワンが殺されたの」


 今度はキグナス家の内紛であったようだ。スワン家は、ワドムの実権を掌握してから、ほとぼりが覚めたら傀儡を廃して自らが領主になり、名実ともにワドムの支配者となろうと考えてたようだが、スワンに冷遇されていたその三男が、親が絶対権力を持つ前にと夜に彼の仲間数人と、スワンの寝室に押し入った。

 そこからはもうぐたぐただったという。

 スワンの三男は、父親を殺した後にすぐ長男に捕らえられて監禁されているうちに自殺。と思うと次はその長男が、この騒ぎで薄くなった警備のすきを突いて領主派が送った刺客に殺される。

 となると、スワンの嫡男で唯一残った次男では役不足と軍がキグナス家から離反の様子を見せる。これを見て慌てた、逃げ足だけは早い三男は、隣国のエストにスワンが後見人をしていた領主の甥を連れて亡命。

 これが強国エストにワドム侵攻の大義を与えてしまう。

 正当な継承者をその甥だとして、エストは、隣国へ義を果たすためとワドムに大軍を送る。しかし、本来ならば海と山の要害に囲まれたワドムの地はそう簡単に攻め入られるような場所ではないはずであった。実際、唯一の侵攻路となる海岸近くの街道に陣を張ったワドム軍は、エストの先発隊をあっさりと撃退した。

 しかし、ワドム側で、今度は領主の長男と次男の主導権争いが起きてしまった。

 どちらがこの戦いで軍功をあげるかで後継者が決まるといっても過言ではない戦争であり、兄弟で争いまではしないものの、騎士たちが二つに割れ、連液がまるで取れない戦いを続けるうちに、港に強襲したエスト海軍によって、そこに橋頭堡を築かれてしまう。

 となれば、後はワドムの劣勢が続く。

 ついには、ワドムの騎士たちは領主の城にまで押し込まれ、大規模な反撃がまるでできないまま、籠城とゲリラ戦を続けるだけどなった……


 なるほど、確かに、セリナの言う通りに、とんでもないことになっているところに俺はやってきてしまったのだと思うが、


「一つ聞きたいのだけど……」

「何?」


 俺は、今までのセリナの説明ではどうにも腑に落ちないことを聞く。


「……それで、なんで君はここに閉じ込められているの?」


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