私、今、女子友
私、和泉珠琴、今、女子友……に入れ替わってる。
——って、とても信じられないんだけど本当のこと。
昨日、突然、マンガやドラマの世界の話みたいなことが起きて、親友の美亜と入れ替わってしまったのでした。
と、思ったら……
私の体に入ったのは美亜じゃない! 実は美亜はすでに入れ替わっていて、私の中の人となったのは、クラスの異分子、オタクボッチの向ヶ丘勇。
まったく、一度に二回驚いてしまった。
特に後者の方。なに、なに? まわりの人たち、実は、いろいろと派手に入れ替わっちゃってて、知らないのは私だけ状態だったって。
それを聞いて、私は、ちょっと疎外感を覚えるののと動じに、そんなことが周りでいつの間にか起きていたことに一気に狼狽してしまうのだけれど……
——でも、驚くのと同時に納得感もあった。
だって、おかしいと思ってたんだ。なんか、緑とか、稲田先生とかの行動に違和感バリバリ時な時に、実はあれは向ヶ丘が入れ替わってたんだって知ると、ああなるほどってなる。 そして、それよりなにより、美亜と向ヶ丘が、この頃妙に仲が良いというか、これもうカップルでしょ、って状態になってたこと。
これが、ものすごく不思議だったんだ。おまけに、正反対の二人がなんでそんなことになってんのかさっぱりわけがわからない……というわけっでもなくなんかお似合い風になってきちゃってさ。中の人が美亜になったんっだったらさもありなんだけど、向ヶ丘が垢抜けてイケメン風になって、逆に美亜もちょっとゆるい感じになって、いつのまにか良い感じの二人になってたんだよね。
なんで二人がそんな風になったのかが不思議だったけど、体が入れ替わっていたのだったねんてね。
——なら、まあ。それもそうか。
雰囲気や見た目が変わったのも納得だけど、恋愛的な面でも、体入れ替わりなんて言う異常な状態に置かれて、二人で助け合って……いいな。
あっ、普通に本心がでちゃった。
だって、普通に良い奴じゃん、向ヶ丘。今回の体入れ替わりで、私も奴のことをいろいろ知って見直した。
いやいや、でも、流石に好きになったとかじゃないよ。
いくら雰囲気変わっても向ヶ丘だよ。クラスのオタク王で孤高のボッチ……だった男。
私が好きになるわけ無いよね。
——たぶん?
って……
なに、なに!
何で疑問形になってるのよ。
ないから。ない、ない。
私の理想はもっと高いんだから。
今の、ひどくイケてない家庭環境から抜け出すには、相互に自分を高めていけるような理想の彼氏を見つけて切磋琢磨していかないといけないんだから。向ヶ丘みたいなゆるい男子なんて……
まあ、この話はここまでとしましょう。
少なくとも、美亜がどう見ても好きになっている相手について、自分の思いを詰めて考えても良いことは何もないんじゃないかと思う。
それよりも、問題は私のお母さんのこと。
モデルにスカウトだなんて甘い言葉に引っかかって、のこのこと悪徳事務所に足を運ぶなんてありえなくない?
……いや、私もちょっとは『モデルいいなあ』って、
この話聞いた時に思っちゃったから、お母さんのこと本気では怒れないんだけど、それにして迂闊すぎない?
契約書の内容をろくに見もしないでサインしちゃっていたんだよ。何かとんでもないこと書かれてたらどうっするの……って書かれてたんだけど。ありえない額のモデルレッスン料金と、払えない場合の契約解消と莫大な違約金について。
それを、ろくに確認しないでサインしちゃってたんだよ。
で、社長を何も考えないで信用してて。
そりゃ、中には、こんなろくでもない事務所でも成功するモデルとか女優とかもいるみたい。そういう意味では社長もまるで嘘をついたわけではないとは言える。たまたま成功したモデルとか、事務所のホームページっで紹介しているような、そんなレアケースの場合はレッスン料も問題なく支払われてお釣りが来る。これは嘘では無いみたい。
とはいえ、大抵の場合はレッスン料を払うことができず、怪しいところからお金を借りることになったり、頼れる実家があったらそこからお金を無心したりになるようだけど……
でも、そんなことをしなくても——と、お金を払う手段を思いつかなかった女子に、悪徳社長は、甘い言葉をささやく。アダルトビデオにでれば、今までの借金は帳消しの上に、派手なキラキラした生活ができるって。
あの事務所は、そんなことをずっと続けていたみたい。実は、すでに結構被害者がいたようで、駆けつけ得てくれた弁護士の足柄さんの雇い主の渋沢さんの選挙区でも問題になっていたようっだった。
なので、私が緑に相談したあと、速攻駆けつけてくれることになったのだけど、さてさて、相手もプロ——今回の件で悪徳事務所を潰すことができるかは今後の展開次第とのことだけど……
少なくとも、私のお母さんの件は、相手のほうが逃げ出した。
これから契約の重要事項を説明しようと思ってたんですよとか、説明前にサインされてこっちもびっくりしたんっですよとか、いろいろ言い訳をしてなんとかその場をしのごうとしている。
それでも、事態を理解できないで『あれ、私の仕事どうなるのかしら?』と残念そうな顔つきになっている我が母には結構落胆するけれど、ともかく社長の方は、もう早く帰って欲しい雰囲気を醸し出し、弁護士の人もここはいったん引くことを判断。我が家が更に貧困になる未来は回避できたのだけど……
私は、複雑な思いでいた。
なんでかって?
だってばれちゃったよね。
私の家庭環境。
ワーキングプアのシングルマザーの母親の元で育った私が、意識高いキラキラ系のリア充であろうと無理してたこと。
そんな自分の本当をごまかすために、ひどく軽く適当な女を演じていたこと。
でも、今回、母親を助けるためには、そんなこと隠していられないと思った。
だから、美亜にも緑にも全部本当の琴を話して屋透けて欲しいと言った。
その結果。私が、とてもリア充だなんていうグループにいられるような女じゃ無いことがばれて二人は……
「友達なら、これくらい頼って当たり前じゃ無い」
「親友の危機に駆けつけないようだと女がすたるわ。それより、弁護士の足柄さんが前の仕事で遅れてギリギリになってしまって申し訳なかったわ」
親友のままだった。
私は、逆に、そんなことで関係が壊れることを疑っていた自分が許せなくて……
号泣した。




