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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子貧困家庭
202/332

俺、今、女子責任問題中

「ねえ、どうしたの……だまっちゃって?」


 といわれても……。

 俺は、和泉珠琴(いずみたまき)に『責任』を『どうとってくれるのかな』と言われて、そのまま何も言えず固まってしまっているところだった。

 いや、責任と言っても、なんか男女であれやこれやが起きて『責任とって』とかいうのでは断じてない。体入れ替わりの時に、キスはしてしまったが……。

 それは不可抗力だし、そもそも、俺は喜多見美亜(あいつ)に入れ替わっていたのだから女と女だし……いや最近は同性同士でも責任とらなきゃいけないのかな?


 ——じゃなくて!


 和泉珠琴のいう『責任』とは、彼女の秘密を知ってしまったことに対してであった。

 クラスのリア充トップ3の一人、意識高いキラキラ系女子であり、かつ日本一の無責任女的キャラで売ってた彼女は、実はかなり事情のありそうな貧乏な家の娘であったという……その秘密を俺はしってしまった……。 

 でも、正直『責任』と言われても——ではある。

 和泉珠琴がひた隠しにしていた秘密を知られてしまったというのは、彼女にとっては、とってもまずいことなのだろうというのはわかる。それは、クラスでの、彼女のキャラとの乖離も大きいし、そのせいでクラス女子トップカーストからの転落もありえるかもしれないような重大な事実となるだろう。

 和泉珠琴がどういう家庭環境だったとしても、喜多見美亜(あいつ)も生田綠も、手のひらを返して仲間はずれにするなんてことはするわけがないと思うが、問題は他の中途半端なリア充連中だよな。

 なにか人を引きずり下ろせば、自分が名実ともに上になれると思ってしまうような奴らが手ぐすねひいて和泉珠琴が弱点をさらすのを待っていることだろう。

 彼女は——その軽薄なキャラが俺は苦手であったが——あえて自分の家庭環境を語ることはしなかったかもしれないが、自分がどっかの金持ちのお嬢さんだとか吹聴してたわけではない。

 でも、あえて語らなかったというのは——隠していたってとられて、攻撃材料にされるのではないかと思う。

 心の中では、クラスのトップカースト女子三人組を妬ましく思っていて、なんならひきづり下ろせないかと思ってるような連中からすれば、和泉珠琴の家が貧乏であることはは絶好のネタとなるだろうと俺は思うのだった。

 もちろん、そういうことを馬鹿にするのは、ひどく下衆で、人間としてやってはいけないことだけど——自分より上の立場にに君臨していたように思えた奴を、言葉一つでひきづり下ろせると思えば……そんなことをカジュアルにやっちゃう、心の弱い人っているよね。

 実際は、和泉珠琴相手に貧乏をネタに馬鹿にする奴なんかいたら、生田綠(じょてい)に、完膚なきまでに叩き潰されそうだけど。

 問題は、和泉珠琴の心の方だ。

 あえて、それ(・・)を語ることはしなかった和泉珠琴にとっては、やはり自分の家庭環境は、隠しておきたいことなのだろう。きっと、彼女は、他の女子どもに、そう(・・)思われること自体が、もう耐えられないことなのではないか——と俺は思うのだった。

 で——話がやっと『責任』のほうに至るけど——それ(・・)を、俺が知ってしまったということも、相当にショックを受けている和泉珠琴は、俺に知ってしまったこと——その彼女の痛みの責任をとれというのだろう。

 もし、本当にそうならば、少々理不尽な気はするが、和泉珠琴は、秘密を知ってしまった者(俺)が下手な動きをしようものなら、即、抹殺してしまいそうな感情のない目で、じっと黙りながら俺を睨むのであったが……、


「まあ、いいや、責任とかそういうの……後で考えれば……」


 と、なんか、少し悲しそうな表情で和泉珠琴(いずみたまき)は言うと、立ち上がるのだった。

 俺は、じっと睨まれていた視線がずれて、ひとまずほっと息を吐くのであったが、

「まず、私の部屋案内するよ、着いてきて」

 まだまだ、つっけんどんな彼女の雰囲気に、俺の緊張は続いたまま、

「お……おう……」

 とりあえず立ち上がって、後に続くのだった。

 すると、

「二階に行くけど、階段気をつけてね」

 和泉珠琴は振り返って言う。

「……はい?」

 階段?

 まあ、そうか。

 そうだな。

 そりゃ階段は危ないからな。

 みんな毎日上り下りする場所だからってなんとも思ってないかもしれないが、日本全体で年間千人弱は階段から落ちて死んでいるからな。

 もっともた平らな所で転んで死ぬ人は年間6千人くらいいて、交通事故死亡者よりも多いらしいが……

 ——ちょっと考えてほしい。

 君は階段にいる時間と平面を歩いている時間でどちらが長い?

 一日中、階段上り下りしている人なんて、まあいないと思うが、ずっと歩いてる人はいくらでもいるだろう。

 特に、老人とか、転んだら危なそうな人ほど、時間もあって散歩とかずっとやっているイメージがあるな……というのはおいといて。

 ——階段は、家のなかでも危ない場所なのだ。

 死ぬまでいかなくても、足くじいたり、擦りむいたり、頭ぶつけて血を流したりの怪我とかも考えたら相当数の事故が起こっている場所なのだ。

 たとえ、なれた家の中とはいえ、注意しないといけない場所であることは間違いない。

 その意味では、和泉珠琴が階段に注意するようにと言うのは、おかしな話ではないのだが、


「な……」


「何してんのよ? 早く上がって来なさいよ……」


 俺は、和泉家の二階にのぼる階段を前にして絶句してしまう。

 これは……階段と呼んでよいのだろうか。

「よく下を見てあがってきてね。変なところ踏んじゃうと板を割っちゃうから……そしたら弁償だよ」

「……はい」

 俺は、恐る恐る階段——かつてはそうであったもの——をのぼり始める。

 踏み板は半分くらい外れ、そうでないものも割れてしまっていたり、片方がぷらぷらしていて、うっかり足をのせたらそのままずっぽりとはまってしまいそうになってしまったり……

 壊したら弁償とか言ってるけど、それよりも怪我とかが心配だ。俺が足元狂ったら、傷つくのは今、入れ替わってる和泉珠琴おまえの体なんだけど。

「あ、もちろん。私の体傷つけたらただじゃおかないからね。この後の人生で、私が成り上がるための大事な資本なんだからね」

「ひっ!」

「あ、ほら! 言ってすぐにそれだ——そこは、手すりも外れているから気をつけて」

 踏んだ段が頼りなかったので、慌てて手すりを掴んだら、それがスポンと外れて、俺は危うく後頭部から階段に倒れてしまいそうになる。

「他も、とりあえずはめてるだけの場所いっぱいあるあからね。注意してのぼらなきゃだめだよ」

「……」

 なんで、たかだか家の中で二階に行くだけのことで、ロッククライミングかよ、という細心の注意をはらわねばならなくなるのだろうか。

 いくらなんでも直さないとだめだろ。

 これじゃ階段が、

「危ないって、私、言ったよね」

「は……はい」

 でもなあ。

 ものには限度というものが、と俺は思うのだが、

「しょうがないじゃん。お金ないんだし」

「……」

 かなりムッとした様子の和泉珠琴であった。

 彼女的には、かなり触れてほしくない部分でありそうなので、俺は、その後、もう何にも言わずに階段をのぼるのだった。

 何度か、重力の感覚なくなってひやっとっとしたけれど。


   *


「責任取れっていっても、向ヶ丘じゃね……将来もリアルは貧相そうだしね……まあ、最悪、稼ぎはちゃんと家に入れてくれて、私がキラキラした生活できるなら妥協案ではあるけれど……」


 結局、階段のぼりきった後の廊下の板がスライドして外れてしまうというトラップに、大転けしそうになったところだった。

 今度の『責任とれ』は、もし俺が和泉珠琴を傷ものにしてたら『責任とって』貰うという、良く使われる意味での『責任』であったが、今回は、俺が滑ったところに、和泉珠琴にタイミング良く、手を差し伸べてもらって助けてもらったので『責任問題』に発展する前に、事故は未然に防がれたのであったが……。

 あのまま後ろに倒れてたら大怪我の可能性もあった。

 で、彼女の体を傷つけてしまったらどうなるのかということで、また脅かしに『責任』と言われたのであったが、

「でも……まあ、向ヶ丘に責任とってもらうなんてしたら美亜に悪いか……」

 は?

 なんか、良くわからないことを言い出す和泉珠琴であった。

 なんで喜多見美亜(あいつ)責任(それ)が関係あるんだ? 和泉珠琴と俺が——責任とって——どうにかなったとして、それが喜多見美亜となんの関係があるんだろう。

 俺は、本気で良くわからなかったのだが、なんか和泉珠琴は、あらためて随分と納得いったというような表情で、

「ほんと、おかしいと思ってたのよね。なんで向ヶ丘が垢抜けたのかも不思議に思ったけど、その後なんで美亜と良い雰囲気になってるのかさ」

 ——?

「向ヶ丘ごときが美亜に気があるなんて生意気じゃない? って思ったけど、当の美亜もまんざらでもなさそうで何事かと思ったけど、そんないろんなことがあって……これが吊橋効果ってやつなのかな」

 待て。なんか、この女、すごい勘違いしてないか?

「今度、美亜に言っておかなきゃ。一時の気の迷いに流されたら、人生ずっと後悔するよって……」

 だから、あいつとは、良い仲間ではあるが、俺は……?

「……何考え込んでんのよ」

「あ……悪い」

 一瞬、考えても答えのでなかった、自分自身への問はちょうど良く、和泉珠琴の言葉で遮らられ、

「私の部屋行くよ」

「ああ……」

 俺は、またしても、それ(・・)についてよく考える機会から、自ら逃げたのであった。

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