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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子貧困家庭
200/332

俺、今、女子キョロ充

 

 和泉珠琴(いずみたまき)

 喜多見美亜(あいつ)と体が入れ替わって所属せざるを得なくなったクラスのリア充三人組の中で、俺が一番苦手な女だ。

 うるさくて、調子よくて、浅はかで適当なことばかり言っているが、その憎まれにくい絶妙なこすっからしいキャラでなんとなく何事もくぐり抜ける。

 喜多見美亜みたいな誰しも振り返るような美人ではないし、生田緑のような存在感もない。とはいってもその二人とつるんでるくらいだ。やはり相当の美少女で独特のオーラあり……。

 まあ、一般的な意味で言ったら相当上級ランクの女子高生だよね、和泉珠琴は。ルックス的に。で、喜多見美亜や生田緑だとちょっと近寄りがたいみたいに思ってる男子にとっては、逆に話しかけやすくてむしろ人気があるというか……。

 実は——ぼっちで安楽に暮らしたい俺にはどうでも良い話だが——世の男子は実はそっち(・・・)の需要の方が多いらしく、実人気で言えば、和泉珠琴はもしかしたらクラス女子で一番かもしれないという、絶妙にお得なポジションを得ているのであった。

 生田緑の事情(・・)が少し改善されたので、前ほどの頻度ではなくなったけど、それなりにまだ行われ続けている合コンでも、いつも一番人気でムードメーカーなのが和泉珠琴なのであった。

 だから、そんな彼女なら、望めばそこそこスペックの男子を捕まえるのなんてたやすいことであろう。


 ——しかし、和泉珠琴には未だ相手はいない。


 この女、実は、彼氏いない歴イコール年齢の、キモオタ連中を笑えないような状況であった。

 本人は、このまま高校生活を処女で過ごすことになるのか焦りまくっているようだがな。彼氏には相当高望みしているらしく、絶対要求ラインをさげて妥協するなんてことはする気がないようだ。

 ともかく、ここ半年、体が入れ替わって、喜多見美亜として、和泉珠琴と友達付き合いをしてみてわかったのだが、異常なほどの上昇志向なんだよね。このキョロ充女子。どうも、男子に、ありえないような高スペックを要望しているらしく、顔が良くても生っちょろい、体力おばけが現れたら頭悪そう。秀才がきたら要領悪そう、妙に気が利く奴を見たら男はもっとドーンとしていて欲しい……。

 何もかも持っている完璧超人でないと彼氏として許容できない。いや、そもそも、マッチョだけどスレンダーだとか、いつも暖かくホンワカさせてくれるけどクールでかっこいいとか、常にクレバーで頭良いけどあわせてもっと感情で考えて欲しい……この世にそんな矛盾した利点を持つような奴なんているわけないだろ!

 ——とまあ思うわけだが、そんなこの宇宙の摂理では見果てぬ夢となる、理想の男子を求めて決してくじけることのないガッツを持ち続ける女子高生。それが和泉珠琴なのである。

 まあ、夢は夢のままだろうけど。

 そんな筋金入りの夢追い人(ドリーマー)に俺は、

「……まずいよ、何これ、向ヶ丘と入れ替わったの私? 美亜に入れ替わったって思ったら、中身は相手は向ヶ丘だって! 私、キモオタになっちゃったの!」

 人身事故でダイヤが乱れて、隣駅に向かう途中、随分具合悪そうだった和泉珠琴によろけられてキス——体が和泉珠琴と入れ替わっちゃた。

 もう様式美とも言えるこの展開だが、俺も頻繁に違う女子と入れ替わって違う悩みにとらわれるのも嫌だから、さすがにこういうもつれ合った時にはいつも唇を警戒しているのだけれど——なんか俺がふと気を抜いた時、超自然的ともいえるタイミングでそれ(・・)はおきてしまうんだおね。

 ……というのは、おいといて、

「いつからよ? 美亜と向ヶ丘が入れ替わってたのは」

「春からかな」

『春?」

「百合ちゃんの騒ぎあったときあっただろ」

「ああ……」

 さすがに動転している和泉珠琴の様子を見て、落ち着いて話せるようにと、近くの多摩川河原まで移動したのであった。

 体が入れ替わってすぐ、今日の合コンはこれじゃ無理だろうなと、すぐに生田緑(じょてい)に状況を報告したら、とっさに全ての事情話して和泉珠琴を落ち着かせるようにと指示が来た。

 なので、俺は、天下の往来、道路のどまんなかで、体が入れ替わったとか叫んでるやばい人にしか見えない状態の和泉珠琴を無理やりひっぱって人気のない、目立たない場所まで連れて行ったのであった。

 合コンの方は、生田緑の方で別の女子二人すぐ見繕っておくからとのこと。仲間で一番取り乱しそうな和泉珠琴に、俺が入れ替わったと聞いても——あわてず騒がず、沈着冷静。

 さすが女帝。

 咄嗟に状況を把握して、的確な判断をくだす。

 できる(じょうし)は違うなと、いったんは感心する俺であった。

 が、……よく考えたら現場の面倒くさいの丸投げされただけではないのか! 俺は、この半年の事情を一気に説明したあと、血相を変えて俺にくいかかってくる和泉珠琴の様子を見ながら思う。

 こういう事態になると、指示を出した生田緑の方には、なんとなく有能なイメージがつくのに、俺は目の前のクレーム処理を任されて、失敗したら失点となる。

 ああ、宮仕えってくいうものなんだな——と高校生にして世のサラリーマンの悲哀を感じる俺であったが、

「緑もこれ(・・)を知っている……

というか……緑とも入れ替わっていたって!」

「夏休み、萌夏さんと野外パーティに行った時……」

「萌香さんとも入れ替わっていた! 何、私の憧れを返してよ!」

 ああ、そうだったな。

 和泉珠琴は、自分の憧れの女性像であった経堂萌夏さんにも随分と執着していた。

 この女の上昇志向と言うか、高望みは、彼氏選択に対してだけでなく、女子の知り合いにかんしても適用されるようで、ファッション雑誌の読者モデルなんかもやっている萌夏さんと知り合ったというのは、夏以降全く付き合いのなくなった今でもたまに口に出るほどの自慢案件(・・・・)であったのだろう。

 そのうえ、

「……稲田先生とも」

 尊敬する恩師とも。

 他に、

「ちょっと前は美唯ちゃんと……百合ちゃんや、下北沢花奈とも……」

 もうひとりいるが……。ゲームの中の女子騎士(ユウ・ランド)と入れ替わったのは黙っとこ。さすがに、そこまで言ったら頭がおかしいと思われるかなって……。

 まあ、体入れ替わりなんてことが起きてる時点で、ゲームの中の異世界に行ったなんて大同小異な話であるかもしれないが、ーーこれ以上情報量を多くして和泉珠琴をさらに混乱させても得はない。

 だって、すでに混乱の極み。

 なぜか怒り方面に感情は高ぶって、体をぷるぷると震わせながら、

「……そんなことが起きてたなんて。なんでみんな話してくれなかったのよ」

「……」 

 話しても、信用しなかったと思うが。多分。

「なんか、美亜の様子が替わったり……向ヶ丘(キモオタ)が痩せて垢抜けたりして何かおかしいと思ってたけど……ああ、どっちにしても、どうしたら良いのよ。このあと……」

 それにしても、ずいぶんと混乱してる和泉珠琴であった。いつもの軽薄な様子は影を潜め、ずいぶんと考え込んでいる様子だが、

「とりあえず……合コンに合流するわよ」

「え」

「は? 聞いてわからない? 合コンに合流するのよ。今日は、私たちが行かないからって、緑が緊急で女子集めたかもしれないけど、女子が多くて怒る男子もいないでしょ」

「ちょっと待て。もう少し落ち着いてから……」

「待てって……何? それ、チャンスを無駄に捨てろというの? 今日の合コンの相手は将来有望な進学校のサッカー部のという久々の優良案件よ」

 そんな優良案件を今まで何回も無駄にしてたのがお前だけどな、

「とはいっても、体が入れ替わって早々にそんなところに行ったらボロが出て……」

「……ていうか、そんなの当たり前でしょ、そもそも美亜の姿で合コン行って男捕まえてどうするの? 私になんの益があるっていうの、それ?」

「でも、それじゃ……」

「美亜……じゃなかった、向ヶ丘の話だとキスして入れ替わったのはもう一回キスをすれば元に戻るんしょ」

 そりゃそうだけど。でも、だから?

「なら……さっさとキスして元に戻って合コンに向かうわよ」

「あ……」

 なんと!

 今までの入れ替わった女子でこんな判断早いの初めてで、ちょっとびっくりした。

 が、俺としても、さっさと入れ替わることには、まったく同意であった。

 また別の女子の、別の悩みにとらわれるより、せめて喜多見美亜あいつに戻って、この半年で慣れた悩みにとどめておきたい。

 それなら、俺としても、

「さっさとやっちゃいましょう……」

 断る理由はない。

「お、おう」

 俺は、今いる木の下が、生い茂る葉っぱで道路から死角になっていることを確認すると、後はすっと顔を近づけてきた(和泉珠琴が入った)喜多見美亜あいつの唇に意識を集中して……。


 ——チュッ!


「……は?」

「……あれ?」


 と、体は入れ替わることなく、和泉珠琴の合コン合流計画は夢と終わったのであった。


 ちなみに、後で聞いたところによると、今回の合コンの救援に駆けつけた助っ人女子二人は、瞬く間にカップル成立だったらしい。

 クラスのカーストトップグループ三人って、実は、意外と合コン的には地雷なんじゃないかと俺は思ったが、それを口にするような愚は犯さなかった……は、だいぶ後での話。


 なので、この時、俺は……。


   *


「もうちょっとで私の家だけど……」


 というわけで、その後も何度かキスをしても入れ替わらなかったので、今日は入れ替わりをあきらめて、和泉珠琴の家へと向かう俺らであった。

 この後、少なくとも今晩は、和泉珠琴として生活しないといけなくなるだろうから、家族にあやしまれないように、最低限の家庭状況なんかは実際に家で教えてもらっておいた方が良いと思ってのことだった。

 ただ、

「私の家で見たこと、誰かに話したらーー殺すから」

 なんか物騒なことをいう軽薄系キラキラ女子が立ち止まり、

「え!」

 彼女が私の家と指さした家屋は……リア充女子に全く似つかわしくない、

「ボロ屋だと思ったでしょ。でも、中にいったらこんんなもんじゃ……」

 というかこれゴミ屋敷?


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