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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子中学生
199/332

俺、今、女子高生(何度目?)

 週末が明けて元通りの俺——向ヶ丘勇であった。

 あ、俺自身の体にっ戻ったんじゃないよ。

 次善の策というか、なんかもうその生活にも結構慣れた喜多見美亜(あいつ)へと俺は戻った(・・・)のだった。

 もちろん、自分の体に戻るがベストなので、——なんとか元に戻ってくれないかと、俺は、いまだにあいつよ毎日キスをし続けているが……まあ、もう何十回、何百回と試して見てだめなんだ、何回繰り返しても結果がかわるわけもない。


 今日も、いつもの集合場所——人気のない丘の上の神社——に来たあいつと俺。

 向かい合い、見つめ合うと、顔と顔を近づけて——キス。

 キスをして入れ替わったのなら、もう一度キスをしたら元に戻るのではと思って、毎日のように、俺とあいつは、ずっとキスをしつづけている。けど……。

 ——成功したことは一度もない。

 たぶん、だらだらと、このまま芸のないキスを繰り返し続けても元に戻ることはないのだろうなと思う。一度、夜の学校に忍び込んで、入れ替わった時のシチュエーションを再現した時は『もしや?』といった感じが少しあったが、——結局ダメ。あれを超えるとなると、もう白昼の廊下でキスくらいしかやれることはない。

 でも、現実的ではないよな。

 人がいないときを見計らってにしても、オタクとリア充がキスをしていたそんな姿が誰かに見られて噂になる……。

 それって——。

 喜多見美亜(こいつ)がかわいそうだよな。

 俺とそんな関係だと思われたら、せっかくのリア充生活が台無しになる。

 なので、

「……ちょっとありえないよな」

 今日のキスも不調に終わった後、白昼の学校でのキス位しかもう打つ手がないな……的な話をした俺であるが、


「……そうかしら?」


「へ?」

 意外な返しをしてくる喜多見美亜(あいつ)であった。

 なんか別の手でも考えついたのか?

「もしかしたら、昼にキスをしてみるのも良いのではないかて思ったのよ」

「は?」

 昼にってどこで?

「……昼の校舎でキスをする。やってみてはどうかって」

 やっぱり、そういう意味なのか——であるが、

「な……」

「もう誰も驚かないんじゃないかな?」

 なわけあるか!

 高校の廊下でキスをしている男女だけでも驚かれるが、それが俺と喜多見美亜(こいつ)だぞ。

 どんな噂になることか。

 だが、

「驚かれても、嫌じゃないかも……噂も言わせておけば良いじゃん……他の子への牽制ににもなるし……」

「え?」

 どういう意味?

「……なによ」

「いや……」

 正直。その真意をはかりかねて、じっとあいつの(俺のだが)顔を見つめてしまっていた俺であったが、

「ちょ……何よ……」

「お前のいってる意味が……」

 そういう(・・・・)風に聞こえなくもないが、

「——だめ、だめ、だめ。忘れて! 今の発言忘れて!」

 何か突然恥ずかしく鳴ったらしく、頬を真っ赤にして大慌ての喜多見美亜(あいつ)であった。


 ——まあ、良いけど……。


 なんか、良くわからん。

 と思いつつ、

「……ともかく、キスの話はこれまでとして、美唯のことだけ」

 俺は、同意の首肯をする。

「あ、そうそう」

 そもそも、今日はそれが一番話したかったんだ。

 会った早々のキスとなってしまい、話題がそれてしまったが、

「美唯には完全にばれてるのよね……この入れ替わりのこと」

「ああ……昨日スマホに送ったとおりだ」

 俺はまた首肯しながら言う。

「……で、美唯は特に慌てもせず、騒ぎもせず」

「最初、庭で刀振り回しているのを見た時は何をされるのかと思ったけど……」

「そのまますぐキスをして入れ替わったら、後は今まで通り、普通に姉として、あんたに接してきている」

「いや、確かに、今まで通りなんだが……」

 俺は、昨日、喜多見美亜(こいつ)に、昨日から美唯ちゃんにおきた唯一の変化についてSNSで伝えていた。

「ああ……呼び名が替わったのよね。あんたの」

「そうだ。昨日から『お兄ちゃん』に替わった」

 もちろん、親のいないとこでだけだけど。

「なるほど。それで、その他は変わらない……って、今まで通りベタベタってことよね」

「ああ、そうだ。ニコニコお話しかけてきて、すぐに抱きついてきて、お風呂も一緒に入ろうとしてきて……」

「あんた、まさか!」

「まて、まて、入ってない! 俺を犯罪者にしないでくれ。そもそも、風呂に入る時は俺の記憶完全に飛ぶから、何も見てないし、できないし、やってない……」

 あ、でも、それだと俺の意識が無くなってから美唯ちゃん風呂に入ってきたらそれ覚えていないよな。というか一度だけ、一緒に美唯ちゃん脱衣所までやって来た時の記憶あったことあったよな。他にも、俺の意識が無くなっているだけで、美唯ちゃんと一緒に風呂に入ってることがあったのかもしれないが……。

「まあ、いいわ……。あんたも覚えてないときのことはどうしようもないし、でも、問題は、美唯は、あたしの中身があんただってわかっても、今まで通りで接してくる……」

「今まで通り?」

「ヤンデレなくらいの姉好きの妹のままってこと。今は兄として認識しているかもしれないけど」

「まあ、そうだな。今までのままの感じだったな、昨日は……」

「ふむ……」

 喜多見美亜(あいつ)はなんだか深く考えこんでいる表情でしばし無言になる。

 そして、

「もしかしたら美唯が最大のライバルになってしまうのかしら。いつも一緒にいられるのだから……」

 なんだか、謎の言葉を、重々しい口調で言うのだった。

 いや、言葉をそのままの意味で捉えると、美唯ちゃんがあいつのライバル? 何の? 俺の?

 いやいや——。

 そんな訳はないと、頭を振りながら俺は、そのあとは無言となった喜多見美亜(あいつ)と一緒に、夕闇の丘を降りていくのであった。


   *


 で、そのまま2週間がたち、学校も、喜多見家の中でも、俺の生活は、平穏無事に過ぎて行ったのだった。

 逆に言うと、何も進展が無いとも言うが……。

 これはこれで慣れてきた喜多見美亜(あいつ)としてのリア充生活。

 もちろん、喜多見美亜——学年一の美少女として、好意や羨望だけでなく、ねたみやヒガミも含めたどろどろとした感情のアマルガムに常にされるのは相変わらずのストレスではある。

 でも、入れ替わった最初は、こんな連中と付き合ってられるかと思ったクラストップカースト女子も、段々と親しくなれば、話していれば少し落ち着く相手になってきて……。


 ——これって友達になったんだろうな。


 と俺は思った。


 前に、まだ自分の体にいた時、喜多見美亜(あいつ)とそのお仲間は、薄っぺらい、中身のない連中と見えたけど、それって俺が表面しか見れてないからそう思った……のだろうな。

 特に生田緑(じょてい)とは、体入れ替わりまでして、彼女なりの大変な日常とか、考え方とかも理解して、共感できる部分も——やっぱり俺と違う部分もわかった。

 女帝は、かかしから、人間になった。俺にとって。

 勝手に押し付けていた虚像が消え、そこには同年代の少女がいた。

 ——いや、政治家の爺さん譲りなのか、あいかわらず無意味に迫力あって怖いけど。

 いろいろと分かりあえ、共感できる仲間となった。


 で、もうひとりのお仲間——和泉珠琴(いずみたまき)にしても、最初は百合ちゃんをおとしめたりしてひどい奴だと思ったり、いつも実態がない調子がよいことばかり言っていて軽薄なやつだとおもっていたけれど……。

 百合ちゃんの件はろくでもない男子たちに共犯にされてしまったむしろ被害者であることが後でわかったし、調子が良いように見えて実は人をずっと気遣って空回りしてるだけなのもなんとなくわかってきたし……。

 まあ、このキョロ充女子も悪い奴ではないんだよな。


「ん、美亜どうかしたの?」


 俺が、いろいろ考えながら、無言でじっと顔を見ていたら不審に思ったのか、和泉珠琴が不思議そうな顔をしながら言う。

「あ……いえ、ちょっと考え事してて」

「私の顔を見ながら……?」

「……あ、あまり深い意味は……」

「……?」

 体入れ替わりの秘密はしらない、この女には、考えていた中身のことを言うわけにはいかない。

 だから、ちょっと回答もしどろもどろの俺であった。

 しかし、

「……ともかく、もう、ぼうっとしてる暇はないわよ。急がないと」

「ああ、そうだね。確かに急がないと……」

 実は、この和泉珠琴も、喜多見美亜のちょっとした挙動不審ごときををいつまでも考えている暇は無いのであった。

 俺たちは、この後、日曜の昼、合コンで表参道に向かわねばならないのだが、集合した地元駅で、人身事故発生で私鉄が大幅な遅れが出ることがわかったので、隣のJRが止まる駅まで歩いている途中なのであった。

 家がそっちの方が近い女帝はすでに直接向かっているので、必死に早足で駅間を移動中なのは、和泉珠琴と俺なのであるが……。

 あれ?

「なんか、具合悪い?」

「え?」

 俺は、どうにも足取りがふらついている和泉珠琴に向かっていう。

「なんか、足元がおぼつかないというか……フラフラしてて、お腹でも空いてそうな」

「そんなことは……あ」


 ——グー。


 今、鳴った。

 確かに鳴った。

 お腹が。

「ちょっと待って、大したことないから。朝うっかり食べるの忘れただけだから。起きるの遅くなったからあわてただけだから」

「……?」

 なんだ? 別に、朝食抜いちゃったのはわかったが、それを説明するのに、こいつはなんでこんなに必死に……?

「……だから気にしなくていいなんだから。朝食なんていつでも食べれる……きゃ!」


「え!」


 鬼気迫る表情で、食いつかんばかりに俺に近づいてきた和泉珠琴はグラついた足を絡ませて、勢い余って俺に向かってぶつかって来て、


 ——チュッ!


 俺は、まどろむような、体と心が溶け合うような、そんな気持ちの中、喜多見美亜(あいつ)の顔を見下ろしている自分に気づく。

 そう俺は、また入れ替わったのだった。

 今度は和泉珠琴——クラスカーストトップグループの一人にして、ある秘密を持つ少女と。


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