俺、今、女子出迎え中
結局、何もすることのない日曜となった俺であった。
美唯ちゃんが部屋の外から声をかけてきたので……。喜多見美亜との電話を慌てて切って、大慌てで電話の履歴消すと、いつの間にか起きて、身支度も終わっていた美唯ちゃんにスマホを渡しす。
そして、そのまま、気が急くのか、すぐにでも出発したいらしい美唯ちゃんを玄関で見送りをした。
——これで今日の、俺の使命は終わりであった。
まあ、ちょっと不安というか、物足りないというか、手持ち無沙汰な感じはする。
喜多見美亜に全権委任したものの、やっぱ大丈夫かってきになるじゃない? 特に、何も情報もなく、ただ待ってるしかできないとしたら……。
なので、昨日のように、皆で喜多見姉妹のデートの模様を監視に行くというのも考えたが、——いや、今日は喜多見美亜に任せたんだからな。
余計な干渉は俺の矜持にもとる。喜多見美亜の信頼を裏切ることになるというのは、その信頼を信頼した自分自身をも裏切ることになるな。
やっぱ、今日は任せて、おれはドンと構えて、良い知らせを待っていよう。
と、思ったのだった。
それに、もし、着いて行ったとしても、特に俺は何も指示する予定もないし、美唯ちゃんを満足させる良いアイディアもないのだ。今日、姉妹デートの途中で、下手に何か手を出したらせっかくの喜多見美亜の計画を狂わせかねないと思う。
妹のことは、姉のあいつが一番分かっているだろう。
それを、俺が横から見て、中途半端に介入しても悪い方に悪い方に転がるだけなのではないか?
というわけで、思い切って今日は美唯ちゃんには何も関わらず好きなことやって過ごそうと思う俺であった。
では——。となれば、今日は引きこもって、溜まった漫画を読むか? 録画したアニメを見るか? それともネトゲーでもするか? 室内限定だが、やることならいくらでもある俺であった。
この間の稲田先生に入れ替わった時とか、前に生田緑に入れ替わった時とかは、部屋にいてもオタクコンテンツがまるでないので、こういう事態になったら困っただろうなと思うが……。
今回は入れ替わったのが同じ家に住む妹である。姉の部屋にいけば——俺が喜多見美亜と入れ替わってからストックした——コンテンツの宝庫である。
そして、収集癖のあるオタクの例に漏れず、読んでない、見てない作品の数は、増えはしても、減ることはない。
まあ、今日一日くらいでどうなるもんでもないが、——まずは溜まった深夜アニメの録画でも消化しようかな?
と、今日の有意義な過ごし方を考えて、実はこんなゆったりした週末は久々ではと、結構、おらワクワクしてきたぞ——となっていた。
そんな時、
「美唯! いる? ちょっと下に来て」
階下から喜多見家母の呼ぶ声であった。
「はい。なに?」
俺は、そう言いながら部屋を出て、階段を降りれば、
『お友達よ……」
「あ……」
「こんにちは。お父さ……じゃなくて美唯ちゃん」
廊下の先、玄関に立っているのは片瀬セナ。
俺をお父さんと呼ぶ、謎の幼女であった。
*
「なんだ、突然来て……。事前に、連絡くれよ」
俺は、いきなりやってきたセナを非難するような口調で言う。
「だって、お父さん、スマホを美唯ちゃんに渡しちゃってるんでしょ。連絡取れないじゃん」
ま、確かに、
「それもそうだな」
しかし、俺はこの謎の幼女の突然の来訪をあいつのお母さんにどう説明したら良いかと、玄関先でしどろもどろになってしまったのだったが、
「……別に、この頃転校してきた同級生が遊びに来たと言えば良いだけだったでしょ」
いや、そうなのだが、このセナは、単に転校生と言うのははばかられる、怪しい幼女だ。異世界(?)でアルバイトで女神やっていたり、稲田先生のマンションにベランダから侵入したり、危機にちょうど良く居合わせたり……。
単に転校生と言って説明して良いのかとか思い出したら、頭がパニクってあわあわとなってしまったのだった。
「それにな、どう見ても、お前中学生には見えないだろ。同級生って言ったら逆に変に思われるかなって……」
セナの背格好とかの見た目は、本人申告の8歳と言う実年齢よりは少し大人っぽく見えるかもしれないが、どう見ても中学生とは思えない。
だが、
「誰も、セナが同級生なのを不思議に思ってないでしょ」
「ああ……」
セナが美唯ちゃんのクラスに転校してきた時、どう見てもおかしいだろと俺は思ったのだが、クラスの他の人や先生も誰もおかしく思ってそうな様子がない。
最初は、中学生なのに随分小さいことを指摘するのが失礼なのだと思って、みんな、あえて発言しないのかとも思ったが、——そうでもないみたい。
どうにも、クラスのは、セナが場違いな幼女であることを、全く気にしてないような雰囲気なんだよね。
まだまだデリカシーとか、忖度とか、空気読むこととかにかける中学生が、明らかに場違いなセナ見て、小さいとか、幼いとか、そういう言葉を全く言わないのも有りえにような気がする。まったく普通に接しているのがひどく不自然だ。
というか、普通は8歳の女児は中学校には入れない。
「……何をやった」
「へへ、秘密」
やってるのは肯定するセナであった。
まあこの幼女と片瀬セリナは明らかに普通の人間でないので、クラス全員の認識の書き換えくらい、さらりとやっていても不思議じゃないが、
「ギクッ!」
効果音的な驚きを口に出すセナであった。
「……まさか。そんな魔法みたいな力、この世界で私が使えるわけないよ」
この世界——ではね。
どの世界ならつかえるんだ?
まあ、たしかに異世界(?)では女神無双していたが。
「ギクッ! ……まあ、今は、というかもうちょっとそれは突っ込まないでくれると助かるな……というかほんともうちょっとで、それが来るから」
なんかしどろもどろとなるセナ
それってなんなんだ。
「まあ、いいから。——話せないから。それより……」
「ああ」
「今日は私とデートだね、お父さん!」
首肯する俺。
場所は自由が丘。
俺は、今日、先週転校してきたばかりの同級生と一緒に遊びに行く約束をしていたようで、やはり幼女セナが同級生であることをまるで疑わない喜多見家母に見送られて、日曜日のオシャレスポットへとやってきていたのだった。
「でもなあ、何するかな……」
「そうだね」
しかし、セナが行ってみたい場所ということでやってきたこの街であるが、幼女と中身がオタク男子の女子中学生。
この街でいったいどこに行けば良いの?




