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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子中学生
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俺、今、女子消去中


 風呂から出たあと、俺の意識が戻ったのは、ポカポカの身体で気持ちよく美唯ちゃんの部屋でベットに腰掛けている時だった。開けた窓から風が吹き込んで、火照った身体がちょうど良く冷やされていくのが気持ち良い。

 まだまだ日中は暑い日がつづく関東であるが、9月も半ばを過ぎ、風はやはり秋である。暖かい中にも、時々、ハッとするような冷たさがあって、そんな時思わず空を見上げれば、明らかに夏とは違う空。

 ——なんか良いな。

 俺は思った。

 冬になり、本格的な寒さが来る前の、一番良い季節になってきてるな。

 で、そんなことを思うと——そんなことぐらいで——俺は、なんかすごい多幸感につつまれて、そのままぼんやりと雲を見ながら時間を失っていってしまいそうなのであった。


 が、


「何? なんかぼうっとしてない?」


 喜多見美亜(あいつ)の声であった。

 気づけば握っていたスマホから聞こえる。

 ——ん?

 俺、電話してたのか?

 風呂に入って、いつも(よりもだいぶ踏み込んだところまで意識があったが)の通り意識が飛んで、部屋に戻ったところで気がついたのだが……。無意識のまま電話してたのだろうか。

「……悪い、悪い。いま戻った(・・・)とこで」

「戻った? あ、意識。なんか受け答え心入ってない感じしたたのでおかしいっておもってたけど。あんたって、まだそう(・・)なんだ……」

「え?」

 ——まだ?

 なんか気になることを言っているが、

「あ、そうか。美唯に入れ替わってるもんね。それじゃ最初のころの私とおなじだよね。妹の裸見られるのは微妙だから、そのほうが良いけど」

 俺が『まだ』という言葉の意味に疑念を抱いていることには気づかずに喜多見美亜(あいつ)は続けて言う。

 というか……。

 こいつの言っている意味をそのままとると、——俺が『まだ』なのだとすると、あっちは『もう』だというのだろうか?

 確かに、最初の頃よりその時間は少なくなってきたような気はするけど、乙女の秘密に関わるような事態になれば俺の意識は飛ぶ。この事実は未だに変わらない。今しがたの美唯ちゃんの件とかの特異例はあるが……。

 少なくともこいつと入れ替わってから、この倫理規定(?)はずっと続いている。

 しかし、どうも、電話の向こうで話しているリア充様はそう(・・)ではないということなのだろうか? つまり、——俺が意識が飛ぶようには、喜多見美亜(あいつ)の意識は飛んでいない?

 もし、そう(・・)のなのだとすると、俺の純情はもはや蹂躙されて……。

 俺の背筋には、ぞぞぞっと冷たい感覚が這い上がってくるが、 

「ま、その(・・)話は今は置いといて」

 おい! 置いとかないでくれよ。

 と、俺は思うが、

 しかし、

「今日の、予定なんだけど。そろそろ出かけるから、その前にもう一度確認しておかないといけないと思って」

 ま、確かに、その(・・)追求は後で良いというか、俺がもうお婿に行けない状態になっているかもしれないというのは、実はあんまり考えたくない事態であるので、今は置いといてでもいいような気もしてきた。別の話が重要なので、それを考えて無くても良いという免罪符は魅力的、

 なので、

「じゃあ、続けて……」

 はい。そっちの問題は先送りして、俺は、今聞かなければいけないことの方を教えて貰おうとする。

「ええ。でも、まあ、美唯に入れ替わってるあんたは近づくことできないから、やってもらうこともないんだけど」

 でも、こっちも実は、今日俺がすることってあんまり無いんだよね。

「このあとおまえに入れ替わっている美唯ちゃんが起きたらスマホ渡して見送るくらいだな」

「確かに、それくらいね」

 俺——向ヶ丘勇の中の人が実の姉——喜多見美亜であることを知らない美唯ちゃんは、今日のデートの際に連絡取る先が、姉の……というか今は俺が使っているスマホでないといけないと思っているので渡す予定だ。

 ほんと、それくらいしか、今日は俺の出番が無いのだが、


『お姉ちゃん、昨日はたまたまはぐれないで勇さんと合流できたから良いけれど……やっぱ持ってたほうが良いよ』


 と、実は昨日のOBAKE作戦の時は姉のスマホもっていないと連絡取れないと、気づいてなかった美唯ちゃんに言われていなければ、その僅かな出番さえないところであった。

 ただ、スマホも、ただ渡せば良いってもんじゃ無く、

「あ、それ——スマホちゃんと消してるよね」

「勿論だ」

 言わずもがなだが、スマホには随分と秘密が入っている。現代ではそれは自分の生活、いや、自分そのものと言って良い。

 消すというのはその自分(ログ)のことだ。

 あいつとのものを始めとしたSNSのメッセージやメール、通話記録。

 美唯ちゃんにこんなのを見られたら、姉(と入れ替わっら人々)がどんな行動を取っていたのかまるわかりだ。

 つまり、バレちゃうとうことだ。俺達が巻き込まれているこの状況(入れ替り)が……。

 他にも、WEBの閲覧とか検索履歴とか、普通なら、男子高校生のそれって、まああまり他人に見られてきもちよいものじゃないものもあるだろうが、——さすがに喜多見美亜(あいつ)の携帯でへんなものを見てたのがバレたら殺されそうなので、特に見られてこまるような履歴はないのでそこは心配なし。

 でも、

「……なんか、もったいないような気はしない?」

「何が?」

「だって、半年の記録が消えてしまうんだよ。いろいろあったじゃない?」

「確かに、いろんな事あったな……」

「そうだよ。あとで見返したらあんなことあったとか、こんなことあったとか思い出じゃない?」

「まあ、そうだろうな」

 大変なことばっかりだったが、そういうのこそ、後で見ると盛り上がるかもな。

 でも、それ(・・)を見て話せるのって、この秘密を共有している、

「……私たち、あとでそんな風に一緒に見れるかな? この入れ替り終わっても」

 なるほど、そうだな。他の入れ替わった女子たちとも話して問題ないのだろうが、一番色々あったのはやはり喜多見美亜(こいつ)だろうな。だから、たぶん、一緒に見れば楽しく思い出話に花を咲かせられるのだろうけど……。

 もしかして、心配してるのは、

「……そもそも私達、一緒なのかな?」

 ああ、それな。

 高校生の青臭い感情のやりとりや、マウントの取り合い。ねたみ、そねみ、ひがみによるいじめや喧嘩。

 そんな馬鹿なこと気を煩わされないで、心穏やかな生活を高校生活をおくるべく、孤高のボッチを守っている俺が、不本意にもリア充女子と入れ替わって苦労の耐えない日々となった。

 オタクが突然投げ込まれたリア充の生活。それは、俺には正直耐え難く、こんな状況からさっさと逃げ出してしまいたい、さっさと元の俺——向ヶ丘勇に戻ったら、いつらと関係せずに自分の中にひきこもりたいと思っていたのだけれど、

「……まあ一緒なんじゃないか」

「うん! そうだよね!」

 なんかやたらと、大きな明るい声になった喜多見美亜(あいつ)

 こうやって、半年過ごしてみると、リア充どもと一括りにして馬鹿にしていた連中も色々であって、——人ぞれぞれ。

 それに、なかでもこいつは、良い子ぶっている外見が綺麗なだけの底の浅い奴と思っていた昔とは、まったく認識があらたまった。明るく、常に前向きで、人を決して貶めない、実は、こうやって付き合ってみてわかる、最高の相棒(バディ)

 この身体入れ替わり現象が解決したあとも、ずっと……。

「そうだな、あとで一緒に昔話したいよな」

「でしょ!」

「だから、SNSのメッセとかのログ消したく無いってことだよな」

「そう……」

「ならな、ログじゃなくてアプリ消せばいいじゃね——というかそうしたよ」

「え?」

「美唯ちゃん、おまえがどんなアプリつかってるかとか知らないだろうし……危なそうなアプリ消しておいたから、後でもう一回入れ直せばアプリのログは見れるぞ」

「あ、そうか」

 今時、俺らの人生(ライフログ)はスマホ本体にでなくネットの何処かに存在する。端末から、それを抹消したところで、ネットからなくなってしまうわけではない。良い意味でも、悪い意味でも。

「まあ、といっても、今どきSNSが一つも入ってないスマホと言うのも不自然な感じはするが……」

「うん。なら、私の方から先にキャリアのショートメッセ送って、今日の連絡はそっちでするように誘導するわ。『SNSは主義でやってないから、連絡はこっちで』とか言って。そしたら今日のデートで頭がいっぱいいっぱいの美唯は、余計なこと考えないで、それで納得して、スマホにアプリが入ってないことなんか気づかないと思う……」

 なるほど。美唯ちゃんは結構気の回る頭の良い子だと思うが、夢中になるとそれ以外見えなくなるところあるな。実の姉が言うのなら、安心して良いだろう。

「じゃあ、美唯ちゃんにスマホ渡す前にパソコンからメール送っておくから、確認下等メッセ送っておいてくれ」

「了解。じゃあ後で……だけど……」

 だけど?

「早く来ればいいね。一緒に過去ログを思い出として盛り上がって見れる日」

「ああ……そうだな」

 確かに、早くこんな不自由な身体入れ替わり現象は終わってほしいと思うが、

「うん! 最後にそれだけ言いたかった」

 なんか、意味不明にやたらと上機嫌で電話を切る喜多見美亜(あいつ)。いったいどうしたんだと俺は不思議に思いながら、


「あ!」


 そういや、今日のあいつの具体的な計画を、一切聞かないままに会話が終わったことに気づくのだった。

 大丈夫かな?

 そう思うと、直ぐにこっちから電話をかけて聞いたほうが良いのかなと思うのだが、


「お姉ちゃん……いい?」


 部屋の外から呼びかける美唯ちゃんの声。

 ああ、時間切れだ。どうやら今日の作戦は喜多見美亜(あいつ)に全権を委任するしかないようなのであった。


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